幻覚剤による｢幻｣は人々を救うか？

カトリックの司祭、ラビ（ユダヤ教の宗教的指導者／律法博士）、そして禅の老師たちがバーに集い、生中を注文した一流大学の研究室に集まり、マジックマッシュルームの有効成分であるシロシビンでトリップした。

えっ、なんだって？

ここ数週間、幻覚に関する研究が再燃しているというニュースをよく耳にする。ジョンズ・ホプキンズ大学やニューヨーク大学（NYU）の科学者たちが、口を揃えて｢幻覚作用のあるシロシビンは、精神疾患に対して外科的な処置のような効果をもたらす｣と言っているのだ。

しかし、なぜ｢幻覚｣が深淵で永続的な影響（｢死への恐怖や鬱症状、不安感｣などを取り除く効果）を持つのかという大きな疑問に答えることは難しい。中でも最も持続的な効果は、研究者が｢神秘的な｣｢スピリチュアルな｣、もしくは｢非常に奥深い｣と称する体験をほぼ例外なく引き起こす点だ（それに加え、瞑想をする人に似た脳の活動の変化も起こる）。だが、このような体験が一体何なのか、なぜこれらの物質が大きな効果をもたらすのかを理解するのは容易ではない。

｢幻覚｣に効果があることを研究してきた機関は今回、｢なぜ｣効果があるのかを突き止めるため、｢神秘的な｣もしくは｢スピリチュアルな｣領域の専門家に協力を求めた。宗教の指導者たちだ。

この研究の特集記事の中で、シェルビー・ハートマン氏は以下のように報告する。

｢彼らは、ユダヤ教正統派のラビや禅仏教の老師、聖公会の司教、ギリシャ正教の司祭、プロテスタントのクリスチャンを含む13名の宗教指導者たちを招集し、アメリカ食品医薬品局（FDA）による認可済みの臨床実験に登録した（彼らは研究に参加できるカトリックの司祭やイマーム（イスラム教の指導者）のほか、ヒンドゥー教の指導者も募集している）｣

研究機関は、被験者が自身のスピリチュアルな経験と語彙を生かして、幻覚体験のより良い描写と、その体験が有益な理由の解明に貢献してくれることを期待している。

｢幻覚体験から我に返った後、彼らが振り返って思うのは、それが自分にとって非常に深い意味を持った体験だったということです｣ジョンズ・ホプキンズ医学校で心理学と行動科学の教授を務めるローランド・グリフィス氏はそう語った。

筆者は先日、末期症状患者の死への恐怖を軽減するシロシビンの効果について、ジョンズ・ホプキンズ大学とNYUが研究を行っているという記事を書いた際、グリフィス氏と対談している。当初、同氏は研究を始めるまで幻覚剤の効果に対して懐疑的だったという。しかし、それらの物質が幻覚剤を使用したことがない健康的な被験者に対し｢人生の中で最も神秘的で有意義な体験のうちの1つ｣という感覚を引き起こすことに驚き、考えが変わったと述べた。

末期症状患者の研究について語った記者会見で、グリフィス氏はシロシビンを摂取した患者は以前よりも世界と｢繋がりあっている｣と感じていると説明した。

｢この体験をした人たちは以前よりも前向きで、ありのままに人生を受け入れるようになったと思います｣と同氏は語った。

どうやら幻覚剤の体験はうつ症状や不安感の軽減に繋がるようだが、その経験が何を意味するのか、他のスピリチュアルな体験、例えば教会で神のご加護を感じたり、山頂で日の出を見たりすることと、どのような関係があるのか分かったわけではない。

これらを理解するには、我々はまだ｢とても原始的なレベルです｣と、グリフィス氏は米Business Insiderにコメントした。

おそらく、スピリチュアルの専門家の意見を聞くことは効果的だろう。結局のところ、シロシビンのようなものは伝統的に人間と神の世界を行き来するシャーマンの専門分野だからだ。

同時に、この研究は宗教指導者たちへの救いになったかもしれない。

今回の研究の責任者であるNYUのアンソニー・ボーシス氏は、被験者の牧師たちはある程度の｢燃え尽き症候群｣に至っていたとハートマン氏に伝えた。しかし、入念に監督された試験の後、NYUとジョンズ・ホプキンズで行われた研究の被験者と同じように、多くの牧師は生まれ変わったように感じたという。

｢彼らは聖書、説教、また人々の助けとなることに情熱を取り戻しました｣とボーシス氏はQuartzに伝えた。

｢もしこれが持続されるなら、素晴らしいことです｣

［原文：Researchers are giving religious leaders hallucinogenic drugs to understand mystical experiences］

（翻訳：Wizr）