景気後退入りのリスクが高まる中、資産を守り増やす投資判断が困難になっている。いま注目すべきは小売業界、というのがスイス金融大手UBSの視点だ。
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インフレ率と金利の高止まりが続く中、経済の見通しは最大限ポジティブに考えても試練が続くとみられ、ネガティブに考えれば、待ち受けているのは恐怖しかないといった具合だ。
株価は今後さらに下落するのか、それとも間もなく急回復に転じるのか、まったく先行きが見えないので、投資家たちは景気後退のリスクを織り込んだまま様子を伺うしかない。
スイス金融大手UBSで小売業界を担当する3人のアナリスト(マイケル・ラッサー、アトゥル・マヘスワリ、マーク・カードン)は9月29日の顧客向けメールで、足元の経済状況がきわめて不透明なことから、株価は「少なくとも当面、ある範囲内での推移が続く」可能性が高いと分析している。
ただ、そうした大まかな予測は立てられるにしても、最良の売買タイミングを読み切るのは実際にはほぼ不可能なので、ディフェンシブ銘柄とシクリカル銘柄(景気敏感株)の両方にまたがるバランスのとれたポートフォリオを構築し、どんな変化にも対応できるようにも備えておくべき、というのが3人のアナリストの結論だ。
「今後数カ月は守りに徹するにせよ、長期的には攻めの姿勢を崩さない、というのが最善の投資戦略です。
そして、金利上昇がピークを打ったと市場が認識する瞬間、それはすなわちポートフォリオの中でシクリカル銘柄へのエクスポージャー(資産を特定のリスクにさらす割合)を拡大するタイミングということになるでしょう」
景気後退リスクが高まる中での防衛策
市場がいずれどこかで回復に向かうことは歴史によって証明されている。だからと言って、あえて低迷時に大穴を狙う態度はいただけない。
UBSのアナリストチームは顧客向けメールで、投資家がいま保有すべきは、どんな展開になっても大崩れしない強靭な回復力を備えたビジネスを展開する小売り銘柄と強調する。要するに、高級品・ぜいたく品ではなく、必需品を扱う企業にターゲットを絞るべきというわけだ。
「下の【図表1】から読み取れるように、景気後退の初期においては、ディフェンシブ銘柄に分類される小売企業がシクリカル銘柄を大きくアウトパフォームしてきた実績があるのです」
【図表1】ディフェンシブ銘柄とシクリカル銘柄のパフォーマンス比較(2006〜10年)。2008年9月のリーマンショックを発端とする世界金融危機を受けて世界が同時不況に陥った際も、ディフェンシブ銘柄(青線)はシクリカル銘柄(黄線)を大きく上回るパフォーマンスを記録した(赤点線)。
UBS
景気後退時に利幅の圧縮圧力が働いて最も苦しむのは大抵、家具、衣料品、履物、白物家電を扱う小売企業で、それゆえに失業率の上昇局面では市場全体のパフォーマンスを下回る展開になりがちだ。
反対に、ディスカウントストアのダラー・ゼネラル(Dollar General)やダラー・ツリー(Dollar Tree)のように同じ小売り銘柄でもディフェンシブに分類されるもの、あるいはオライリー・オートモーティブ(O'Reilly Automotive)、アドバンス・オートパーツ(Advance Auto Parts)、オートゾーン(AutoZone)など自動車アフターセールス向けの部品を扱う銘柄は「短期的にアウトパフォームが続く」とUBSのアナリストチームは分析する。
UBSは、「中立」とするオートゾーン以外の上記5社を「買い」レーティングとしている。ただしオートゾーンについても、業績の上方修正幅は10.7%を予測する。
また、オートゾーンやダラー・ゼネラル以外にも、業績を上方修正する可能性が高い企業として、UBSはコストコ(Costco)とウォルマート(Walmart)の名を挙げている。
とりわけコストコの上方修正幅は、ウォルマートの10.5%、ダラー・ゼネラルの8.4%を大きく上回る予測だ。
株価が回復に転じる日に備える
米連邦準備制度理事会(FRB)は相変わらず、株式市場を回復に向かわせるような金融政策への転換を示唆していない。
2022年中に関して言えば、金融政策の予測はペンではなく鉛筆で書くべき、つまりは拙速な断定を避けるべきだろう。
UBSのアナリストチームは、景気敏感株に分類される小売企業へのエクスポージャーを維持することで、想定外のインフレ減速に備えるべきと指摘している。
金利上昇がピークを打って、業績見通しがリセットされれば、小売企業にはアウトパフォーマンスを期待できる。
ハードラインの小売企業、つまり家電・電子機器のような(衣料品や履物などより)パーソナル性の薄い商材を扱う事業者は普通、金利が上昇すると苦しくなるが、ひとたび経済が回復に向かえば立ち直るのも早い傾向がある。
実際、UBSのデータによれば、景気後退入りが確認されてから3カ月目にハードラインの小売り銘柄を買い、2年間保有した結果、米国大型株の動向を示すS&P500種株価指数を65%上回るパフォーマンスが確認されている。
【図表2】景気後退入り後の銘柄購入時期別に見た、S&P500種株価指数に対するハードライン小売り銘柄のリターンの変化。左から景気後退入り直後、3カ月後、6カ月後、12カ月後、18カ月後に購入したケース。各4種類の棒グラフは、保有期間1カ月、6カ月、18カ月、24カ月後に得られる対S&P500種リターン。
UBS
この戦略はとてもシンプルだが、問題は、景気後退入りの時期を正確に予測できないと機能しないことだ。上の【図表2】は事後的な分析であって、リアルタイムで景気後退入りのタイミングを正確に測るのは難しい。
UBSのアナリストチームはそのタイミングについて、非営利民間研究組織の全米経済研究所(NBER)による景気後退入りの宣言に基づくべきとしているものの、実際には同研究所の総合判断に基づく宣言にはタイムラグがあるので、言うほど簡単なことではない。
そうした難しさはあるにせよ、仮にすでに我々が景気後退の最中にいるのだとしても、すぐにハードラインの小売り銘柄を買うのは早すぎるというのがUBSのアナリストチームの見解だ。
結局、景気敏感株に分類される小売り銘柄をいつ買うべきか。UBSの結論は、FRBが利上げ幅を縮小し、企業の業績見通しの下方修正ラッシュが落ち着いて、ポジティブに転じるのを待つ、それに尽きる。
そして、実際にそうした転換局面がやって来た場合に推奨される景気敏感株は、小売り大手ターゲット (Target)とホームセンター大手ホーム・デポ (Home Depot)の2銘柄だ。
UBSのアナリストチームは両銘柄を、前出のディフェンシブ2銘柄、オライリー・オートモーティブおよびダラー・ゼネラルと合わせて、「トップ(投資)アイデア」と位置づける。
なお、UBSは建材販売大手フロア・アンド・デコア(Floor & Decor)も同様の扱いにしているが、同社はディフェンシブ、シクリカルの分類がなされていない例外的な扱い。
UBSは「トップアイデア」5銘柄のすべてを買いレーティングとしている。
(翻訳・編集:川村力)