軍の招集から逃れようと、ロシアでは国外脱出をする男性が増えている。
Davit Kachkachishvili/Anadolu Agency via Getty Images
- プーチン大統領が軍の部分動員令に署名したと明らかにしたことを受け、ロシアでは国外脱出をする男性が増えている。
- 両親がウクライナ出身だという21歳のロシア人男性は、自分がどうして隣国に逃れたのか、ウクライナでの戦争への思いをInsiderに語った。
- 徴兵を逃れるため、男性はリュックサック1つで4日間旅をしたという。
召集令状を受け取った時、21歳のEさん(本人の希望で匿名)はロシアを去る時が来たと思った —— 今すぐに。
そこから必要最低限の荷物をリュックサックに詰め、4日間の亡命の旅が始まった。
「身の回りの物や愛する人たちを全て母国に残し、リュックサック1つで未知の世界に踏み出すのは本当に辛かった」とEさんはメッセージアプリを通じてInsiderに語った。
9月25日、Eさんは冒険の第一段階 —— シベリアからモスクワまで約3000キロの鉄道の旅 —— に乗り出した。車内は混雑していて、その多くは軍の部分動員令を受け、国外に逃れようとする人たちのように見えたという。
出発を待つ鉄道。
Eさん提供/Insider
行先の選択肢は限られている。隣接するEU(欧州連合)加盟国はロシア人観光客に国境を閉じているが、カザフスタンとジョージアは今もビザなしの入国を認めている。
Eさんは自身が今、滞在している国を明かしていない。身元を特定され、徴兵逃れで逮捕されたり、兵士として前線に送られることを恐れているからだ。ロシアでは戦うことを拒否した兵士には最長10年の懲役が科せられる。
「自分の命が心配なんです」
今は隣国で身動きが取れなくなっているものの、Eさんは今後、ベトナムかタイ行きの航空券を手に入れたいと考えている。もしそれがうまくいかなかったら、次にどうしたらいいかは分からないという。
「母国には今後2、3年は帰ることができないかもしれないと不安を感じています。もし帰れなかったら、ここでものすごく困ることになるでしょう」
「自分の親族が暮らしている国との戦争には行けない」
Eさんは召集令状 —— 1年間の兵役義務を果たすために入隊しなければならないと伝える内容だった —— をロシア政府のポータルサイト「ゴススルギ(Gosuslugi)」を通じて受け取った。心臓が止まったような気分だったと、Eさんは話している。
軍の部分動員令は軍務経験のある予備役を対象にしているため、自分がすぐにウクライナに送り込まれることはないだろうとEさんは分かっていた。また、慢性的な皮膚疾患を抱えていることから、理論上は兵役を免除されることも分かっていた。
それでもEさんは、自分がウクライナで戦うために召集されるのではないかと感じていたという。
「兵役免除になるような持病があることを証明すべく、書類を集めていました。ただ、今の状況では無視される可能性が高いです。基準が大幅に引き下げられているんです」
Insiderでも報じたように、ロシアは高齢男性や病気を抱えている人、訓練経験のない一般市民を徴兵している。
バスに乗り込むロシアの補充兵(2022年9月25日、クラスノダール)。
AP Photo, File
Eさんがロシアを離れたのは、自分がその行為を擁護できない軍隊に所属し、任務に就く危険は冒したくなかったし、個人的なつながりのある国と戦うことを受け入れられなかったからだと話している。
Eさんの両親は2人ともウクライナで生まれた。2人はEさんが生まれる前の1990年代にロシアに移り住んだため、Eさんはロシア国籍しか持っていない。
「でも、自分は民族的にはウクライナ人です。自分の親族が暮らしている国との戦争には行けません」
Eさんはロシアの徴兵にも部分動員令にも、ウクライナでの戦争にも反対だという。
「とんでもない過ちです。近隣諸国が1人の老いぼれのために殺し合いをしています」
先が見えず、アジアへ逃れることができるかどうかやきもきしながらも、Eさんはアートや創作活動で自分を忙しくしていると話した。
「感情が極度に高ぶっているので、それを昇華させる方法が必要なんです」
ただ、いつの日か故郷に帰れることを願っているとEさんは語った。
「どのくらいの間、自分がロシアから離れることになるか分かりませんが、ロシアがこの無分別で恐ろしい戦争、誰も望んでいない戦争を止めるまでは帰れないでしょう」
(翻訳、編集:山口佳美)