10月3日、ファミリーマートは本社でファミマルへのリブランド1周年を報告する会見を開いた。左から、ファミリーマート商品本部 商品業務部副部長で、ファミマルブランドマネージャーの柘植幹子氏、同社チーフマーケティングオフィサー(CMO)の足立光氏。
撮影:Business Insider Japan
リブランドから1年を迎えたファミリーマート(ファミマ)のプライベートブランド(以下PB)「ファミマル」が好調だ。10月3日には1周年を報告する記者会見を開き、感謝セールとして「20商品20円引き」のキャンペーンやファミマルのパウチ商品のPREMIUMラインの一部も刷新するなど勢いに弾みを付ける。
リブランド成功の「仕掛け」にはどんな秘策があったのか。CMOの足立光氏とファミマルブランドマネージャーの柘植幹子氏は、美味しいことをちゃんと伝え続けた1年だったと語る。
5秒でわかる「美味しさ」を真正面から発信した
チルドのパウチ惣菜売り場。惣菜売り場で広い面積をとっていることもあり、この1年でファミマ独自商品(ファミマル)を意識する機会は確かに増えた。
写真提供:ファミリーマート
コンビニ大手3社の1Q決算をみると、1店舗の1日あたりの平均売り上げ(日商)はファミリーマートが51万2000円、セブンイレブンが64万9000円、ローソンが50万1000円。ファミマは国内コンビニ事業では業界2位に付けている。
ファミマル開始後、1年間で投入した新商品・リニューアル商品は1000を超える。直近の7月には、日商ベースのファミマル商品の前年比成長率はファミマの全店平均を5ポイント以上も上回った。10月3日の記者会見でも「ファミマルがファミリーマート全体の売り上げをけん引している」(柘植氏)と強調する。
CMOの足立氏とファミマルブランドマネージャーの柘植氏に好調の背景を聞いた。
── PBをファミマルにリブランドして1周年。好調の理由は端的にどこに?
ファミマルブランドマネージャーの柘植幹子氏。
柘植:数字が伸びているのはカテゴリーを広げて品数自体が増えたこともあります。また、リブランディングにあわせて定番商品の品質にもしっかりアプローチした結果、「単品で売れる商品が増えてきている」のも要因のひとつです。
ファミマルの「中食」と呼んでいるお弁当の中からも看板商品と言えるものが出てきていますし、おむすびも堅調に推移をしています。
品数を増やしていない菓子類も、前年比で大きく伸張しています。美味しさが伝わるパッケージに変更した効果も大きいと思います。
2021年10月19日に発売を開始した「ファミマル」。商品点数を拡充したこともあるが、ファミマル開始以降、ファミリーマートの既存店よりも、日商の前年比は高く推移している。
公開情報をもとにBusiness Insider Japan作成
── 料理や菓子が俯瞰の構図で大きく表示された新パッケージは、どのような観点で考えられたものですか?
CMOの足立氏(右)は、P&Gジャパン、戦略コンサル、独ヘンケルグループのシュワルツコフ ヘンケルの幹部、日本マクドナルド マーケティング本部長などを歴任してきた人物。ファミリーマート本社で取材に応じた。
撮影:岡田清孝
足立:今、レシピサイトなどを見ると、料理の写真は俯瞰で撮られているものが多いですよね。(パッケージ写真の選定には)「今この瞬間、世間的に美味しいと思われている写真」を参考にしています。
パッケージの写真もそうですが、実際にとても美味しいのに、これまではそれをちゃんと伝えられていなかったんですよ。僕も2年前に入社するまでは知らなかったくらいです。
だから昨年10月からいろんなところで、ちゃんと「美味しい」っていうことを発信するようにしたんです。
SNSやレシピサイトの流行によって、時代とともに多くの人が「美味しそう」と認知する構図は変わる。チルド惣菜のパッケージに俯瞰写真を数多く取り入れたのも、そういった意図がある。「5秒でわかるパッケージ」が狙いだ。
撮影:Business Insider Japan
柘植:パッケージは「5秒でわかる」をコンセプトに、写真にあわせて商品名やコピーも工夫。文字面からも“しずる”(みずみずしい美味しさ)が感じられるように意識をしています。お客様からも、わかりやすくなったというお声をいただいています。
「ファミマにいけば用が足りる」品揃え目指す
── 最近では酒類など新しいカテゴリーもファミマルを展開しています。リブランドから1年を経て、さらにラインナップを広げていくフェーズに入ったということですか。
4月にファミマルブランドとサントリーのコラボ商品として「スーパーチューハイ」を発売したほか、7月にはファミマル商品の「スモーキーハイボール」もラインナップに追加している。
写真提供:ファミリーマート
柘植:お酒ではハイボールや新ジャンルなど美味しくて、お得な商品を揃えました。ナショナルブランド(NB)に負けない品質を、お得な価格で買えるという点でPBの優位性を感じてもらえると思います。
目指すのは「ファミリーマートに行けば用が足りる」というような、ワンストップの品揃えです。そのためにファミマルが果たす役割は非常に重要だと思っています。
すでに一部では展開していますが、スーパーやドラッグストアの機能を補完する加工食品や日用品みたいなところも、しっかりと品揃えとして強化していきます。
足立:ラインナップは広げていきますが、全部PBに……ということではありません。そうすると棚がどんどんつまんなくなってしまう。
NBにはファンもいらっしゃるし認知もある。バランスが大切だと思っています。どうすれば一番お客様に喜んでもらえるか。そのバランスでPBを増やしていくのが良いと考えています。
柘植:もちろん闇雲にアイテムを増やしていくということはありません。お客様が必要としている商品をきちんとPB化したいと思っています。
一品一品しっかりと売れるような商品を育てていくことで、売り上げの構成比を上げていきたいと考えてます。
(編注:ファミマは2021年のファミマル開始時点で30%だったPB比率を、2024年度に35%に高める目標を掲げている)
コンビニという「衝動型」ビジネスだからこその戦略
撮影:岡田清孝
── PBを「ファミマルがあるからファミリーマートへ行く」という位置づけにしていきたいということでしょうか。
足立:コンビニはインパルス(衝動)型かディスティネーション(目的)型かでいえば、明らかにインパルス型のビジネスです。
特別な目的があるわけではなく「お昼どうしよう」と思いながらふっと入るといったパターンがほとんど。
ただ、そのふっと入る際に何か頭をよぎるような「行く理由」があればあるほど入ってもらいやすくなる。
ファミマルもそうした理由のひとつではありますが、ほかにも理由はあればあるほど強いと思っています。
僕がこの2年間やってきたことはまさに、その理由をいっぱい作って発信して(皆さんに)知ってもらうこと。
現在は終了しているが、8月に実施した「40%増量作戦」はインパクトの強い施策だった。これも足立氏の言う「来てもらえる理由づくり」の1つだ。
写真提供:ファミリーマート
それは新しいお弁当でも構わないし、限定のキャラクター商品でも構わないし、増量キャンペーンでも構わない。色んなパターンがあると思うんですけど、そんな理由がたくさんあること、常にあることで、来ていただける確率を増やせると思っています。PBだけではないです。
── 10月4日~24日まで展開される、20円引きキャンペーンもそうした「理由づくり」のひとつですか?
撮影:Business Insider Japan
足立:そうですね。20円引きって、高価格帯の商品からすれば微々たるものかもしれませんが、低価格帯の商品では大きな割引きになります。
バラエティのある商品に対して、ファミリーマートではその期間セールをやっているというインプットが、行く理由のひとつになると思うんです。
ただ美味しくないもの、欲しくないものは、いくら安くなっていても買われない。
ファミマルをはじめ「ファミリーマートは美味しい」ことが大前提。もしそう思っていらっしゃらない方がいたら、イメージにとらわれずにぜひ、食べてみてほしいです。
40年かけてつくったイメージはそうカンタンに変わらない
── リブランドの際の広告にも「負けていたのは、イメージでした」というコピーがありました。イメージを変えるための取り組みは?
足立:40年かけてできたイメージは、そう簡単にはひっくり返りません。
人と同じで結局、信頼の積み重ねなんですよ。美味しいものを作って、「美味しい」ってちゃんと言う。それをずっとやり続けるしかない。
たとえばファミマルが美味しいということを、パッケージで言うだけじゃなく、店頭でもわかるようにということも意識してやっています。
店頭の看板やポスターは、まさに我々の一番強いメディアです。もちろんそれ以前に店頭に足を運んでもらうために、Twitterなどのソーシャルネットワークにも注力しています。
毎月100人体制でソーシャルのレビューをしていて、フォロワー数はこの2年で2倍強※まで増えました。ほかにもお客様が普段見られるメディアには、積極的に展開をしています。
※直近2022年10月2日時点で、ファミマのメインアカウントのフォロワー数は451万人。
「ファミマル」発売開始時のプロモーションでは、渋谷駅のハチ公口に挑戦的な広告を掲出して話題を集めた。1周年でも同じ場所に、一部のコピーを変更した程度の内容で掲出する(写真は今回の施策での掲出内容)。
写真提供:ファミリーマート
── 渋谷駅の「そろそろ、No.1を入れ替えよう。」という広告も、そうしたひとつですか?
足立:あれはファミリーマートに注目を集めるために打った広告です。正直なところ、どこがナンバーワンだろうとお客様には関係ない。
ただファミリーマートがこんなことやってるって注目してもらうために、ざわつかせたかったんです。昨年の掲出時、一番「ざわついた」のは社内でしたが。
撮影:岡田清孝
今回も同じ広告を少しコピーを変えて展開しています。「だいぶいい感じです」って言葉はどうとでもとれますが、実際にファミマルだけでなく、ファミリーマート全体としても好調です。
たとえば、昨年カレーパンとメロンパンで作ったパンの販売記録を、今年はクリームパンで塗り替えた。そんな記録の塗り替えがいくつもあります。
この1年で自社の販売数の記録を複数の商品で塗り替えてきたという。4月に発売したファミマ・ザ・クリームパンは2カ月で1000万個が売れた。現在のところザ・パンシリーズ最大のヒット商品だという。
撮影:Business Insider Japan
「売れる」ためのアクセルの踏み方が見えてきた
── ファミマルが牽引しているところはあるとして、ほかに好調の理由は?
足立:どんなにいい商品が店頭に並んでても、それを知らなければ足を運んでもらえないし、どんなにいい商品で一生懸命宣伝しても、店頭に在庫がなければ売れない。もちろん在庫があって宣伝をがんばっても、商品が良くなければ話にならない。
売れるためにはこの3つ(商品、営業、マーケティング)が、ちゃんと揃わないといけないんです。この1年半ぐらいはそこを結構うまく回せているのだと思います。
柘植:商品本部とマーケティング本部、お店を管轄する営業本部の主要なメンバーが頻繁に集まっています。
結局、商品がないと告知もできないし、それが店にないと売り上げにつながらない。毎週の施策に対してどうしていくべきかや、どうだったかという検証も含めて、みんなで共有認識を持てるのは非常に大きいですね。
足立:だんだんコツがわかってきて、みんなでいっぺんにアクセルを踏むことができるようになってきたということは、あるかもしれませんね。
たくさんの新商品を出すことが売り上げや客数の増加に繋がらないことは、もう歴史が証明しているんですよ。
だから数ではなく、1つ1つていねいに作って、伝えて、店頭に並べてちゃんと売っていく。
それを繰り返すことでイメージを変えていくしかない。ファミリーマートの挑戦に今後も期待いただきたいです。