2022年7月1日、NTTドコモはエヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ、エヌ・ティ・ティ・コムウェアと経営統合し、「新生NTTドコモグループ」としてスタートを切った。それに伴い組織を再編し、新たに社内カンパニー制を導入。非通信領域を担う「スマートライフカンパニー」が発足した。
通信会社というNTTドコモのイメージを覆し、金融・決済、映像・エンタメ、メディカルなど、多岐に渡る領域でのビジネスを手掛けるスマートライフカンパニー。2025年度を目処に“2021年度売上の2倍にあたる2兆円規模を目指す”としているが、ライバルも多い分野でどのような道筋を描いているのか──。
その戦略や方針、掲げたパーパス『つなぐ。育む。明日のあたりまえになるまで。』に秘めた想いについて、NTTドコモ副社長でスマートライフカンパニー長の前田義晃氏に話を聞いた。
「スマートライフカンパニー」設立の理由
NTTドコモ 代表取締役副社長 / スマートライフカンパニー長の前田義晃(まえだ・よしあき)氏。北海道大学法学部卒業後、リクルートを経て、2000年にNTTドコモに参画。iチャネルやiコンシェルといったサービスを手掛け、これまでにないユーザー体験を実現。2017年からは執行役員・プラットフォームビジネス推進部長として、dポイントやd払いを推進し社会の在り方を変革してきた。2022年7月より現職。
新生NTTドコモグループには、5つの事業がある。消費者が最も馴染み深いであろう5G通信やスマホ販売といった「コンシューマ通信事業」、企業向けの「法人事業」、「ソフトフェア開発事業」、「国際事業」、そして非通信領域全般を担う「スマートライフ事業」だ。
なかでもスマートライフ事業は、新生NTTドコモグループの事業拡大と収益創出の中核とされていて、新しく設立されたスマートライフカンパニーが舵を取る。NTTドコモ副社長でスマートライフカンパニー長の前田義晃氏は、設立の意図をこう語る。
「社会は加速度的に進化しています。スマートライフカンパニーは、そんな社会の進化を推進するために設立されました。カンパニー制となり独立性が高まったことで、経営の意思決定や投資判断、プロ人材の育成や採用をスピーディーに行っていきます」(前田氏)
提供:NTTドコモ
2021年度のNTTドコモの営業収益は約5.9兆円。うち半分はコンシューマ通信事業が稼ぎ出している。前田氏は「5Gを始めとした通信技術など、スマホを取り巻く環境は進化し続けます。そしてこのテクノロジーこそ、NTTドコモのさまざまなサービスの基盤であることは変わらない」と断りを入れつつ、「ただし、コンシューマ通信事業は価格競争などもあり、ビジネスとしての更なる利益拡大は難しい」と続ける。
そこで、次の成長エンジンとなるのが、スマートライフ事業と法人事業だ。
なかでも、スマートライフカンパニーの役割は大きい。前田氏は「3年後の2025年度には、現在の売り上げを倍にして2兆円にすることが目標。桁外れの目標で相当スピード感を持って取り組まなければ実現できないこと。チャレンジングだが目指し甲斐もある」と意気込む。
「dポイント」をコアに、個人の生活だけでなく社会も変えていく
提供:NTTドコモ
実際、スマートライフカンパニーが担う、金融・決済、映像・エンタメ、電力、メディカル、マーケティングソリューション、XRといった領域はDXによる変化の渦中で、成長のスピードも速い。
当然、全てが重要な分野だが、前田氏は「特に注力すべきが金融・決済とマーケティングソリューション」と明言する。そのコアアセットとなるのが『dポイント』だ。
提供:NTTドコモ
「dポイントの会員数は約9,170万人、パートナーは約59万社、加盟ブランドは786ブランド。 dカードやd払いなどドコモが提供する金融決済サービスの決済額を合計すると、22年度上期で約5.2兆円になります。
この顧客基盤の強さから蓄積される購買・行動データを活用して、我々の仕組みを導入していただいてるパートナー様のCRMを高度化。それによって、さらに決済件数を増やしていく。この循環プラットフォームを進化させていきます」(前田氏)
マーケティングソリューションは小売業だけに向けたものではない。前田氏は、「メーカーは、消費者に直接リーチするのが難しい。しかし我々の購買データがあれば、自社製品を購入してくれたお客様を可視化して、仮想的な顧客基盤をつくりあげることができます。それは当然、商品開発にもつながるでしょう」と語る。
提供:NTTドコモ
まずは「金融・決済」と「マーケティングソリューション」の両輪で、dポイントというコアアセットにさらなる厚みを持たせる。その上で開花させていくのが、「映像・エンタメ」、「メディカル」、「XR」といった分野だ。最終的には、一人ひとりのIDをもとにした一気通貫のサービス提供や課題解決を目指している。
このように書くと、俗に言うポイント経済圏の囲い込みに聞こえるかもしれない。実際に激しい競争による各社の囲い込みはニュースになることも多い。しかし、NTTドコモが目指すのは「その先」だ。
「ライバルの経済圏に勝ちたいというよりも、社会を良くして豊かにするという目的が強い。囲い込みをしたい訳ではなく、価値を創発していきたいのです。
個人のライフ(生活)を変える企業はたくさんあるが、ソサエティ(社会)を変えられる企業はそう多くはない。NTTドコモはその一社だと思っています」(前田氏)
スマートライフカンパニーがつくり出す、未来の「あたりまえ」
個人の生活だけでなく、新しい基盤をつくり社会自体を変える。その実現のためには、関係者全員が向かう先をひとつにすることが必要だ。そこでスマートライフカンパニーは、発足に際して独自のパーパス=存在意義を定めた。
提供:NTTドコモ
「よく社員のみんなには『パーパスは北極星だ』と言っています。スマホが普及して10年以上。我々はiモード以来、社員が誇れる新しい価値観を世の中に出せていません。その間にもマーケットは拡大し、競合は増えて成長も著しい。
利益優先・顧客不在になりがちな議論に不安を抱えている社員もいるでしょう。スマートライフカンパニーの設立は変革の良い機会です。自分たちは何のために働いているのか、何を目指しているのかを明確にするために、パーパスを定めました。
日々の行動・判断の拠り所があれば、取り組みへの深化やスピード感も生まれるはずです。何より、熱くて強いNTTドコモを取り戻すために、社員が挑戦し続ける原動力になります」(前田氏)
前田氏がこのパーパスで最も気に入っている文言は、『明日のあたりまえになるまで。』だ。「これこそがNTTドコモ、そしてスマートライフカンパニーがやるべきこと」と力を込める。
提供:NTTドコモ
「我々に期待されているのは、新しい価値を育み、社会に実装して、“あたりまえ”になるまで努力していくことです。
これまでNTTドコモは、電話から始まり、ポケベル、携帯電話、スマホ……と通信技術における新しい価値を生み出し、地道に社会実装を行い、つながることが当たり前の社会を作ってきました。その力をもってすれば、スマートライフカンパニーが非通信事業において、5年後、10年後の当たり前をつくることもできるはずです」(前田氏)
自分の仕事が、社会を動かす一歩になる
多岐にわたる領域でさまざまなパートナーと協業しつつ、新しい価値を生み出す。そこには、人材の多様性が求められる。前田氏自身はリクルートから転職してきたキャリアを持つ。
「NTTドコモに転職して最初に感じたのは、多くのお客様、つまり社会と向き合っていくダイナミズムです。
最初に手掛けた機能リリースで、数百万人という利用データを見た瞬間の驚きや感動は今でも忘れられないし、非常に大きなやり甲斐を感じました。こういった経験こそ、スマートライフカンパニーで働く醍醐味の一つだと思います」(前田氏)
幅広い領域を持つスマートライフカンパニーでは、これまでのキャリアで培った能力をさまざまな方法で活かせる可能性がある。前田氏は、「むしろ、これまで事業会社や業界内ではしがらみなどから変革できなかったことでも、別のアプローチをすることで突破口が見つかるかもしれません。そういった意味では、ぜひNTTドコモの先端技術や顧客基盤を使って、新しい取り組みに果敢に挑戦する仲間がほしい」と話す。
「ただし、NTTドコモが大企業だから、インフラを扱っていて安定しているからといった守りの動機では、社会を変えていくことは難しい。自分のスキルとNTTドコモの価値をかけ合わせてお客様に貢献し、社会課題を解決して新しい価値を生み出す。そんな志向をもった人と一緒に未来をつくっていきたいですね」(前田氏)
社会の「あたりまえ」を生み出してきたNTTドコモ。通信分野だけでなく、社会全体のサービスやソリューションの「あたりまえ」を目指し、新たな挑戦を進めている。