年初来、3四半期連続で厳しい相場を経験し、投資家たちにとって第4四半期(10〜12月)も株価動向から目が離せない状況が続く。
Spencer Platt/Getty Images
カナダ金融大手バンク・オブ・モントリオール(BMO)の投資銀行部門BMOキャピタル・マーケッツ(BMO Capital Markets)のチーフ投資ストラテジスト、ブライアン・ベルスキにとって、2022年の株式市場はここまで期待通りとはほど遠い展開だ。
S&P500種指数について2022年末の目標株価を4800としてきたベルスキは、米ウォール街の強気派の最先鋒として知られ、年初来、市場低迷に対する懸念を振り払おうと強気発言を繰り返してきた。
そんなベルスキの態度に、最近になって変化が見られる。9月下旬の顧客向けメールに彼はこう記している。
「S&P500種指数の年末目標を下方修正する必要があるかどうか、目下動向を注意深く見守っているところです。
8月中旬以降の米国株の下落は、当社が想定していたより深刻で、期間もより長期にわたっていることは認めざるを得ない事実です」
だからと言って、ベルスキは諦めて匙(さじ)を投げたわけではない。それどころか、いまが買い時だとすら考えている。
「投資家の皆さんには、ここ最近の株価急落に際してパニックに陥らないよう、くれぐれも冷静かつ自制心を持って行動されますよう。
確かに、市場は不安定な状況が続いており、特にここ数週間はほとんど反発もなく下落一直線といった感じですが、当社の見通しに変化はなく、S&P500種指数は現在を上回る水準で年越しを迎えると考えています」
ベルスキは同メールで、株価が年末までに回復すると考える「9つの理由」について、それぞれチャートを用いて概説している。以下でその内容を紹介しよう。
[理由1]バリュエーションはすでに十分低下した
S&P500種構成銘柄(セクター別)の予想株価収益率(P/E)の年初来変化率。一般消費財(CONS)、ヘルスケア(HLTH)、公共事業(UTIL)を除くと軒並み20〜30%台の下落。
BMO Capital Markets
2022年の米国株はひどい荒れ模様で、現在のバリュエーションを見るとその惨状が明確になる。S&P500種指数の予想株価収益率(PER)は年初来25%低下し、とりわけ不動産、通信サービス、情報技術の3セクターが最も大きな打撃を受けている。
「年初来の米国株の下落が、各セクターひいては市場全体の大幅な企業価値倍率(マルチプル)低下につながっています」
それでも、市場は先を見通して動くもので、投資家は間もなく株式に回帰し、歴史的な高インフレに振り回される足元の不安定な経済環境も過去のものになるとベルスキは指摘する。
[理由2]S&P500種銘柄の「3分の2」が歴史的な割安価格に
S&P500種銘柄(セクター別)の予想株価収益率(PER)について、過去平均を下回って取引されている銘柄の割合。濃紺は2021年末時点、薄青は現在の割合。
BMO Capital Markets
S&P500種構成銘柄の予想株価収益率(PER)は全体の66%が過去平均を下回って取引されている。2021年末時点では同40%と半分以下だった。
11あるセクターのうち半数を超える6セクターで、構成銘柄の50%超が過去平均を下回る状況が続いている。
「市場には引き続きさまざまな不確実性が存在しており、銘柄選別に苦心する投資家たちにとっては、表面を見ているだけでは気づかない割安株が数多く存在する状況とも言えます。実に、S&P500種構成銘柄の予想P/Eの3分の2ほどが過去平均を下回っている状況です」
[理由3]シクリカルおよびグロース銘柄はディフェンシブ銘柄より割安
S&P500種銘柄の予想株価収益率(PER)について、パーセンタイルランク上位(0〜20、濃紺)と下位(80〜100、薄青)の銘柄が各セクターに占める割合。ランクは1990年以降の月平均予想PERと現在の比較に基づく。
BMO Capital Markets
市場の不安定な時期には、生活必需品や公益事業のように景気後退の影響を受けにくいセクターのディフェンシブ銘柄に重心を移すのが従来のセオリーだった。
しかし、投資家はそうしたセオリーにあまりに忠実すぎるのかもしれない。
ベルスキの現状分析によれば、生活必需品と公共事業の両セクターに買いが集中し過ぎて、予想PERがパーセンタイルランクの下位(80-100)に位置する銘柄の割合が異常に増えている。
「両セクターに属する銘柄の多くについてバリュエーションが大幅上昇しており、それらの伝統的ディフェンシブ銘柄への投資に際しては慎重になるべきです」
逆に、一般消費財やエネルギー、金融などシクリカル(景気敏感)セクターに属する銘柄は、1990年以降の平均予想PERに対して相対的に割安な水準で取引されている。通信サービスや情報技術のようなグロース(高成長)株に偏重したセクターも状況は同じだ。
[理由4]業績見通しは軒並み低下、しかし第3四半期に上振れのサプライズも
S&P500種構成銘柄の四半期1株当たり利益(EPS)予想の増減率(各決算発表シーズンの当初時点)。2022年第3四半期については6月30日〜9月23日の数字を用いた。
BMO Capital Markets
景気の減速に伴い、企業の第3四半期(7〜9月)平均予想1株当たり利益(EPS)は6.3%減に。過去平均の3.2%減に比べると倍近い。
しかし、企業業績が軒並み大幅下落するとの懸念は行き過ぎというのがベルスキの見解だ。
10月中旬に始まる第3四半期(7〜9月)決算発表シーズンには市場は落ち着きを取り戻し、「企業業績の崩壊は不可避」という認識が誤解だったことに気づくという。
「第2四半期(4〜6月)に続いて、ポジティブサプライズ比率(市場予想を上回る業績発表を行った企業の比率)が高く、事前の懸念を覆す業績発表が相次ぐ第3四半期になれば、私たちが当初想定していたような決算発表シーズン中の米国株回復が実現する可能性がありますし、投資家たちもS&P500種銘柄の強靭な収益力が失われていないことを確信できるでしょう」
[理由5]通期の業績見通しは2021年末時点より現在のほうが良好
S&P500種構成銘柄の1株当たり利益(EPS)通期予想の増減率。前年12月末時点の予想に対する9月末の予想の変化率で示した。
BMO Capital Markets
市場予想を上回る第2四半期(4〜6月)の業績が別のサプライズを誘発する形になった。2022年通期の予想利益は、現在(2022年9月末)が2021年末時点の数字を上回っている。
S&P500種銘柄の予想利益は年初から9月末までに3.8%減少するのが例年の展開だが、2022年はインフレの高止まりにより利益率が圧迫されている状況にもかかわらず、コンセンサス予想が0.5%増加している。
[理由6]企業の業績は2021年以降成長が続いている
S&P500種構成銘柄の1株当たり利益(EPS)の前年同期比成長率の推移。棒グラフは四半期、折れ線グラフは年率換算、グレー部分は予想値。
BMO Capital Markets
前年同期比で見た利益成長率は2022年第3四半期(7〜9月)に3%超のプラスを記録する見通しで、それ以降の4四半期(2022年10月〜23年9月)についても「手堅くプラス」を維持する展開が想定されている。
[理由7]株価は第4四半期に上昇する傾向がある、特に厳しい夏の後は
第4四半期(10〜12月)におけるS&P500種構成銘柄の株価パフォーマンス。左から年初来3四半期(1〜9月)マイナスの場合、8・9月のみマイナスの場合、年初来3四半期マイナスかつ8・9月もマイナスの場合、すべての平均。
BMO Capital Markets
足元の市場のファンダメンタルズ(基礎的条件)を見る限り、株価上昇につながるような状況とは思えないが、過去の歴史は上昇を示唆している。
S&P500種株価指数には1年の終わりを力強く締めくくる傾向がある。BMOキャピタル・マーケッツによれば、1945年以降、リーマンショックとそれに端を発する金融危機が起きた2008年を除けば、第4四半期(10〜12月)の株価は平均4.4%の上昇を記録してきた。他のどの四半期より良い数字だ。
さらに良いニュースは、S&P500種指数は第3四半期終盤の2カ月(8・9月)に連続して下落した場合、その後の第4四半期は特に良いパフォーマンスを記録してきたことだ。
[理由8]株価が第1〜第3四半期に連続して下落した場合、第4四半期は期待できる
第4四半期(10〜12月)におけるS&P500種構成銘柄の株価パフォーマンス。左は第1〜第3四半期に連続して(1〜9月)下落した場合の平均、右はすべての平均。
BMO Capital Markets
[理由7]の延長だが、第1〜第3四半期に連続して(1〜9月)S&P500種指数が下落した場合、第4四半期(10〜12月)により力強い上昇を見せる傾向がある。実際、1945年以降、同様の展開が22回も繰り返されている。
ただし、例の2008年だけはすべての四半期で下落という厳しい結果となった。
[理由9]株価は普通、第3四半期までの下落幅が大きいほど第4四半期に大きく反発
第4四半期(10〜12月)におけるS&P500種構成銘柄の株価パフォーマンス。左から、第1〜第3四半期(1〜9月)の下落幅が10%未満の場合の平均、10〜20%の場合の平均、20%超の場合の平均。
BMO Capital Markets
BMOキャピタル・マーケッツのデータによれば、S&P500種株価指数が第1〜第3四半期(1〜9月)に極めて大幅な下落を記録した場合、第4四半期(10〜12月)は並外れて力強いパフォーマンスが発揮された実績があるという。
とりわけ、最初の3四半期における下落幅が20%超に達した場合、第4四半期は平均9.6%上昇という驚異的な回復を見せてきた。
なお、下落幅が10〜20%のケースでは4.9%、10%未満のケースは1.3%の回復にとどまっている。
(翻訳・編集:川村力)