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人は誰でも大きな失敗を犯す。たとえそれがウォールストリートの一流ビジネスパーソンであっても、だ。
バンク・オブ・アメリカやゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーなど、一流投資銀行や巨大投資機関で活躍する11人に、キャリア上での最大の失敗と、そこから学んだものについて尋ねた。回答者の中には、バイスプレジデント(VP)クラスの人物も複数人含まれる。
回答は金融業界人のみならず、幅広くビジネスパーソンが共感できるものが集まった。リスクを取らなかったことや、先輩に質問しなかったこと、取り返しがつかないほどプライベートを犠牲にしてしまったことなど、彼らは後に続く者たちのために、自らのプライドを捨てて有益な情報を提供してくれた。
安全地帯から抜け出そう
エリカ・ブリットン(35):モルガン・スタンレー エグゼクティブディレクター
提供:モルガン・スタンレー
金融業界に飛び込んだばかりの頃の私は、安全で確実な道しか選びませんでした。しかし振り返ってみると、リスクを負った時ほどキャリアの糧になっていることに気づいたのです。もしかして安全なルートを選ぶことは間違っているのかも、と。
そこで2021年、これまで逃してきた機会から学ぼうと決めました。私は世界屈指のヘッジファンドで働いていて、成功と呼べる安定した立場にいる。ですが、思い切ってあるファンドの立ち上げを手伝ってみることにしたのです。
それからは、初めて直面するような問題をクリエイティブな方法で解決したり、モルガン・スタンレーの社内外で全く新しいコネクションをつくったり、プロセスを一から地ならしする必要に迫られました。でもその甲斐あって、クラス最高の商品の土台をつくれたと自負しています。
このように、一見リスキーに見える行動を取り、安全地帯から抜け出して自分が正しいと思うことに賭けてみた訳ですが、今のところその賭けは素晴らしい成功につながったと思っています。
機会から自分を閉ざさないで
——ジュリア・ペイ(32):フィデリティ・インベストメンツ ファンドマネジャー
新卒の時は一番最初にもらった内定を受けました。すべて順調で、その最初の仕事からはたくさんのことを学ばせてもらいました。だから後悔はあまりありませんけど、振り返ってみて、さっさと扉を閉めるんじゃなくていろいろな選択肢を探った方がよかったかもなとは思います。
以前と比べると、今は新しいチャンスを積極的に受け入れるようにしています。少しでも気になることがあれば、「興味があるので話を聞かせてもらえますか」と必ず言うようにしています。実際、今の仕事はそうやって手に入れましたからね。
アリソン・ボクサー(29):PIMCO シニア・バイスプレジデント兼エコノミスト
自分が望むキャリアをもっと積極的に開拓しておけばよかったなとは思いますね。しばらく停滞していた時期があるので。もし若い頃の自分にアドバイスするとしたら、自分のキャリアにちゃんとオーナーシップを持ちなさい、ということでしょうか。
発言・質問すべきだった
ジェイソン・ライトニング(29):ゴールドマン・サックス 資産管理部門バイスプレジデント
新人時代に十分発言しなかったこと、これが私の最大の失敗ですね。
「こういう質問をしたらどう思われるだろう」「こんなことを言ったらどんな反応をされるだろう」と不安で、素直に質問できなかったんです。
そのせいでしなくてもいい苦労を重ねてしまい、教えてもらえたかもしれない貴重なアドバイスを逃してしまった気がしています。
ブライアン・ホム(33):ブラックストーン シニアアソシエイト
駆け出しのころの失敗といえば、自分より経験のある人が自動的に自分より優れている、自分より的確な意見を持っていると思い込んでいたことですね。特に投資銀行は上下関係があり、上層部の指示に従わなければならないことが多いんです。
ですが、一度未公開株式投資部門に異動してすぐに気づいたんです。この仕事は意見を言わなければ意味がないし、その意見は評価され、影響力を持つものなんだと。伝統的なセクターにもプレイブックは存在します。もちろん、常に正しい答えが用意されている訳ではありませんが。
人生のための時間をつくるべきだった
リセッシュ・シャー(33):PJTパートナーズ ディレクター
25〜26歳のころは、多忙ゆえに家族やいとこの結婚式にも出席できませんでした。特に一人っ子のいとこは、僕のことを実の兄のように慕ってくれていたのに。
だから、彼女から「どうして私の結婚式に来てくれなかったの? 私たち一緒に育ってきたじゃない。あなたには絶対に来てもらいたかったのに」と責められて、ハッとしたんです。自分はなんて多くのことを犠牲にしているんだろうと。
当時、僕はある案件を担当していましたが、何とか時間をやりくりすれば結婚式に出られたかもしれない。なのにあの時は、どうすれば出席できるかなんて考えもしなかった。そんな自分にも衝撃を受けました。
投資するのに遅すぎることはない
ビナイ・トリベディ(31):ゼネラル・アトランティック テクノロジーセクター担当バイスプレジデント
提供:ゼネラル・アトランティック
かつて、私の学生時代の友人がStripe社に投資し始めた時、周囲はたびたび「いやいや、もう手遅れだよ。Stripeはすでに大企業だから」と言いました。それが2015年のことです。でも、2017年になっても2019年になっても、周囲は全く同じことを言っていました。
ここから導かれる教訓は明白でしょう。とびきり優秀な人材を引き付ける磁石のようなスタートアップを、投資対象から安易に除外すべきではない。投資するのに決して遅すぎるということはありません。
もちろん、我々は過去1年の経験から、物事について熱狂的になりすぎてはいけないことも学びました。だから私はそこに注釈をつけたい。「ただしテック業界では、遅すぎると思い込む前に立ち止まって考えてみよう」と。
掘り下げることを恐れないで
エンジェル・ポゥ・シャム(33):ウォーバーグ・ピンカス テクノロジーセクター主任
提供:ウォーバーグ・ピンカス
企業のデューデリジェンス(出資前の調査)を行う際、完璧な企業など存在しないこと、また、精査のプロセスも完璧ではないことを失敗から学びました。
ある会社について、ちょっとした懸念点が出ていたのにその小さな芽をスルーした結果、投資が決まった後になって、その問題が深刻化してしまいました。
私は現在、7社に投資しています。中には契約前にもう少し問題を掘り下げておけばよかったと思うような企業もありますが、過去の失敗のおかげで、どれも致命的な問題には至っていません。
強みと余白を作るべし
デイビッド・イスラエル(27):クレディ・スイス バイスプレジデント
私の失敗は、あれこれ手を出しすぎたことです。銀行に入社したとき、とにかく時間をいっぱい使って、できるだけ多くのアセットクラスで、できるだけ多くの案件を担当しようとしていました。ただ、幅広い金融商品には触れられたものの、担保や取引の構造を理解するための時間がつくれませんでした。
1年目の終わり頃、メンターが特定のアセットクラスだけに集中するよう勧めてくれたおかげで、もっとしっかりと学ぶことができました。また、空いた時間をクライアントや経営幹部たちとの有意義な関係づくりに充てることもできました。
変化を乗りこなそう
ジェイ・ジェイコブス(32):ブラック・ロック マネージングディレクター兼アクティブ運用テーマ型ETF責任者
社会人になりたての頃は、変化に対して消極的でした。人は変わる、会社も変わる、業界自体だってコンスタントに変わっている。そういうことに非常に気をもんでいました。
でも実際には、変化に逆らうか、変化の一部になるかしかありません。競争の激しい環境下で成功するなら後者をとる必要があります。
変化に対して懐疑的だったりためらったりするより、受け入れて乗りこなす——その発想の切り替えが、特にETFの世界では非常に重要です。
問題解決者たれ
ノア・ゼランス(33):バンク・オブ・アメリカ グローバルサステナブルファイナンスグループ バイスプレジデント
提供:バンク・オブ・アメリカ
私はいつも、仕事にはみんなが知っているルールがあって、仕事をこなすにはそれに従うしかないと思っていました。実際そういうこともあるかもしれませんが、こと最新のテクノロジーを取り扱う場合や効果的な資金の使い方を考える場合に、ルールなんてものはありません。それを考えることこそが私たちが存在する理由なのです。
「この仕事、どうやって進めようか?」と同僚に聞くと、「まだやり方が分からないな。そこを考えないと」と同僚が返す。以前の私の仕事の進め方はそんな感じでした。
でもあるとき気づいたんです。まずこういう問いかけをやめ、自分の直感を信じて、すぐに問題解決モードに入るべきだって。
※この記事は10月13日初出の記事の再掲です
(編集・野田翔)