写真左からリクルートの人事統括室 室長・蝦名秀俊さん。司会の横山(Business Insider Japan 記者)。
撮影:小林優多郎
“変化の兆し”を捉えて動き出している人や企業にスポットを当てるオンライン番組「BEYOND」。
第16回は、リクルートの人事統括室 室長・蝦名秀俊が登場。2021年4月からリクルートで導入した「週休約3日制」について、1年間実践してみた経験や結果を語る。
9月21日(水)に放映した番組の抄録を、一部編集して掲載する。
──リクルートで導入した「週休約3日制」について教えてください。
リクルートの「週休約3日」制度について説明する蝦名秀俊さん。
画像:番組よりキャプチャ
蝦名秀俊さん(以下、蝦名):毎週固定で4日働いて3日休む形ではなく、年間を通して個人が比較的柔軟に休日を取得できる制度になっています。
制度の導入前はお盆などを含め130日の休日がありましたが、そこに15日を足した145日の休日があります。
1年間に52週あるため、145を52で割って週に2.8日、つまり約3日の休日がある計算になります。
「週休約3日」制度。新導入された「年間12日〜15日程度の休日」は、フレキシブル休日と呼ばれ制度の肝となっている。
画像:番組よりキャプチャ
──有給休暇は別で取れるのですよね。
蝦名:はい。有給休暇など、それ以外の休暇も別で存在します。
──週休3日の制度は一般的に3つのパターンに分けられ、リクルートは「パターン2」に近い形だと思います。なぜこのパターンを採用したのでしょうか。
「週休3日」のやり方の違い。
画像:番組よりキャプチャ
蝦名:制度を検討した経緯からになりますが、2021年4月にリクルートを含む8社が会社統合をした際に、人事制度やコンセプトの見直しました。その議論の中で生まれた制度です。
──どのような議論だったのでしょうか。
蝦名:新型コロナウィルスの感染拡大で、リクルートもリモートワークで「出社せずに働く」ことが実現できました。やればできるという気づきとともに、未来の働き方は今よりも多様になると感じました。
リクルートには「個の尊重(BET ON PASSION)」という経営理念があります。多様な方々を受け入れ、好奇心から生まれる情熱に投資し、社会に還元していくと言う考え方です。
今よりも多様な方々を受け入れるため、よりフレキシビリティー(柔軟性)の高い働き方をどう実現できるかを考えた結果、パターン2に近い形になりました。
──これまでと変わらない生産性で仕事を行いつつ、より自由に休みを取れることに重きを置いたため、パターン2ということですね。
蝦名:そうですね。
──制度を実現する上で経営陣から反対はなかったのでしょうか。
蝦名:あると思っていましたが(笑)。
経営理念に沿い、チャレンジすることが大事だという考えの元で提案したこともあり、賛同してもらえました。
労働時間が減少しても生産性の向上を実現
──制度の導入後、どのような変化がありましたか?
蝦名:実際の1日の労働時間は平均15分伸びましたが、休日が増えている分、年間の平均労働時間は50時間減りました。
仕事として求めているものは変えずに、労働時間の実績は50時間減っているため、全体的な生産性そのものは結果的に上がりました。
──この結果は予想していましたか?
蝦名:ふたを開けてみないと分からないというのが、導入前の正直な本音でした。
従業員の皆さんが、この制度を起点に業務の優先順位や止めることを決断するなどしてくださったからこそ、生産性が上がったと捉えています。
──従業員はどのような休みの取り方をしていますか。
蝦名:「週休約3日」で導入された「フレキシブル休日(暦によって変動するが年間約15日について自由に取得できる制度)」の取得方法は、大型連休に合わせる、平日の真ん中など単発で取得する、平日5日を丸々取って超大型連休にするなど、3パターンあると思います。
主な「フレキシブル休日」の取得方法。
画像:番組よりキャプチャ
──どのパターンが多いのでしょうか。
蝦名:どのパターンも結構あったと感じています。直近で言えば、ゴールデンウィークと合わせて取得するパターン1も多かったようです。
──印象に残った休み方をする従業員はいましたか?
蝦名:休日の申請の際に、「休む目的」について申告は必須ではないため、どう休みを使っているのかを把握はできていないんです。ただ、聞いている範囲では、面白い休日の使い方をされている方が結構います。
特にすごいなと思った例は、チアリーディングの世界大会に出るために超大型連休を取った方がいます。他にはかき氷が好きで、かき氷の食べ歩きで取った方などもいました。
私も連休に合わせて取得し、沖縄旅行へ行きました。
──こういった制度は、副業やリスキリング等を目的として設置されることもありますが、「リクルートはどのような目的で使ってもいい」というスタンスなのですよね。
蝦名:そうですね。
リクルートの従業員に求めることの1つに「自律」があり、休暇についても、会社として「これを目的にやってください」と指示をしていません。
寝て休むだけでもよいですし、大学院に行くでもよいと思います。休む目的も自己選択で決めることが基本です。
──従業員に対し「休みで得た経験を仕事に還元してほしい」と言うことも、会社として言うべきではないという姿勢でしょうか?
蝦名:はい。仕事に還元されることもあると思いますが、そうでなくても、個人にとっては糧になると思っています。
そのため、個人の人生を豊かにしていくという意味でも休暇を使って自分のやりたいことを選択して実行できればよいと考えます。
──実際の運用では、「休みを取りづらい」と感じる方もいたかと思います。どのようにして取得を促しましたか?
蝦名:おっしゃるとおり、私個人としても本当に取れるのかという不安がありました。
そこで、人事でも議論をしてまずは取得することに慣れてもらおうと考えました。
そのような経緯で、導入1年目の2021年は半期ごとに6日ずつ取るというルールにしましたし、社内で啓蒙活動も行いました。
他には、先に休みの予定を決めて組織内で共有してもらうことも実施しました。
そのおかげで取得率は98%と、多くの方が取得でき結果が残せたと考えています。
──営業職など、他社と連携して動いてる部署などからは不安な声もあがりそうですが、どのように乗り切りましたか?
蝦名:従業員の皆がどうすれば休めるかを試行錯誤し、工夫したことが大きいです。
個人が休んでも仕事が回るように担当者を複数にしてチームとして動くという例もありました。皆さんにすごく支えられた制度だと感じています。
──制度を元に戻してほしいという声はありましたか?
蝦名:幸い、全くなかったです。
最初の1年で取ることに慣れていただいたため、今後は休日を取りながらどのようにしてメリハリをもって働くかを考えるという、次のステップに進んでいると思っています。
「週休3日」はそれぞれの会社に合ったやり方を探すことが重要
──リクルートは率先して休み方の改革に取り組まれましたが、他の企業が「週休3日」の制度の導入を考えた場合、まずは何から始めればよいでしょうか。
蝦名:一概には言いづらいと思います。
それぞれの会社が向き合っている業態やマーケットなどの特性にもよります。
リクルートが取得率98%となったことは、リクルートが持っていた企業文化とうまくフィットしたからもあったと思います。
一方で、リクルートも完璧では全くないため、一概に言えないからこそ、企業ごとにやり方を模索し、試行錯誤を繰り返しながら実現に向けて積み重ねていくことが重要だと考えます。
──一般的に「週休3日」制度の導入は、働く側にしては給料が減るパターンもあるため不満につながったり、経営陣にしてみれば生産性向上を求めざるを得ない状況になったりと課題があります。会社全員が納得できる制度をつくることは難しいのでしょうか。
蝦名:従業員と経営陣の双方が納得してから進めるというアプローチもあると思います。
しかし、実際に運用してみないと分からないこともあります。
難しい課題ですが、納得いただくことと運用を開始するタイミングをどう見極めて実行するか、そこが大事だと感じています。
リクルートの場合も、導入当初はおそらく不安の声もあったと思いますが、運用を開始すると「こういうふうにやるとうまくいくんだ」や「休みがあるとこんな時間の使い方をしてみよう」という声も増えていきました。
──特に若手社員は「休みをどう使えばいいか」と迷う人もいると思いますが、どう考えますか?
蝦名:仕事とそれ以外で切り分けすぎない方がいいのかもしれません。
繰り返しになりますが、休日の経験も自分の糧になります。仕事とそれ以外、どちらも自分の時間として存在していて、それをどう豊かに使っていくかを考えて使っていけるとよいと思います。
──最後に読者へのメッセージをお願いします。
蝦名:私たちもまだ試行錯誤しているフェーズです。
リクルート以外の方も含めて議論し、リクルートに留まらず、より多くの皆さんの豊かな人生を創出することができると良いと思っています。
この番組が「週休3日」の制度を考えるための参考になれば嬉しいです。
2022年10月6日(木)19時からは、Business Insider Japanの新バーティカルメディア「Money Insider」と「Life Insider」について、Money Insider編集長の長田真とLife Insider統括の高阪のぞみより解説します。
「BEYOND」とは
毎週水曜日19時から配信予定。ビジネス、テクノロジー、SDGs、働き方……それぞれのテーマで、既成概念にとらわれず新しい未来を作ろうとチャレンジする人にBusiness Insider Japanの記者/編集者がインタビュー。記者との対話を通して、チャレンジの原点、現在の取り組みやつくりたい未来を深堀りします。
アーカイブはYouTubeチャンネルのプレイリストで公開します。