働き手を求める掲示が見られる飲食店。ニューヨークのロングアイランドで2022年1月7日に撮影。
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- アメリカにおける2022年8月の求人数は、7月の1120万件から1010万件に急減した。
- 退職者数に大きな変動はなく、「大退職」が新しい経済の常態になる可能性を示している。
- 10月4日に発表されたアメリカの求人労働異動調査では、異常なほどの求人数増加の時期を過ぎ、労働市場が冷え込んできていることが明確に示されている。
企業は以前よりも採用に積極的ではなくなってきているが、退職しそうな社員は多く、そうなる前に彼らを引き留めておきたいと考えている。
2022年10月4日、アメリカ労働統計局(BLS)は最新の求人労働異動調査(JOLTS:Job Openings and Labor Turnover Survey)を発表した。それによると、アメリカにおける8月の求人数は1010万件に落ち込んだ。これは、ブルームバーグの経済専門家が推定した求人数中央値の1080万件を下回っている。また、BLSによる7月の改定値1120万件からも大幅に減少し、2021年6月以降で最も低い求人数となった。
求人数の推移。
Andy Kiersz and Madison Hoff
1カ月間で110万件も求人数が減少したのは、新型コロナのパンデミック初期以来のことだ。その時はロックダウンが各地で実施され、不景気が始まったことで企業が採用計画を急速に縮小させていた。今回の求人数減少は、企業が再び経済活動が落ち込むことに備えており、過去2年間に見られた異常なほどの雇用創出が間もなく終焉を迎えることを示唆している。
「とてつもない減少についての話をしよう」とインディード(Indeed)の Hiring Labで経済調査ディレクターを務めるニック・バンカー(Nick Bunker)はInsiderに語っている。
「2020年の春を除き、1カ月でこれだけの規模で減少することはなかった」
これはアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)にとって歓迎すべき兆候だろう。FRBは深刻な人手不足がインフレを高止まりさせる要因のひとつであると強調し、経済を健全な状態にするには雇用市場における需要過多の状況をある程度抑える必要があると述べてきた。現在、需要はまだ高いものの緩和されつつあり、このことはFRBの主張と一致しているとバンカーは言う。最新のJOLTSは、そのような労働需要過多の緩和を示しており、利上げがそれに貢献しているという確信をFRBに与えるものだろう。
「この数字を見たとき、FRBでは拳を突き上げたり、ハイタッチをしたりする人がいたと思う」とバンカーは述べている。
求人数が最も減少したのは医療・社会福祉分野で、8月には23万6000件の減少となった。これに続くのが18万3000件が減少した修理業者、洗濯業者、宗教団体を含むその他サービス業、そして14万3000件が減少した小売業だった。
全体的な求人数が減少したのは、求人が満たされたことだけが原因ではない。8月の就業者総数は630万人とわずかながら増加し、雇用率は前月から変わらなかった。このデータは、BLSによる8月の雇用統計で初めて示された傾向を裏付けるものとなった。つまり雇用は若干減少したが、依然としてパンデミック前の平均を上回っているということだ。
求人数の減少はここ最近で最も大きいが、労働市場は歴史的に見ても依然としてアンバランスな状態にある。最新のJOLTSによると、8月は1件の求人に対する求職者数はわずか0.6人(求職者1人に対してほぼ2件の求人数)だった。この数値は、それまでの5カ月連続で記録された0.5を上回っているが、それでもパンデミック以前の平均値である0.8を大きく下回っている。
同時に、アメリカ人は「大退職(Great Resignation)」を新しい生き方としていること、少なくともその傾向が消滅することを拒む労働者がいることが再び示された。8月の退職者数は約420万人に上った。これは労働者の2.7%が安心して仕事を辞めることができたということだ。過去1年間でかつてないほど増加した退職者数は、現在もその最多記録に近い水準で推移している。
「数カ月前ほどではないにせよ、労働市場では依然として求人数が求職者数を大きく上回っている」とバンカーは述べている。
退職者数の推移。
Andy Kiersz and Madison Hoff
8月の退職者は、特にレジャー・サービス業に集中した。この分野では低賃金や労働条件の悪さもあり、毎月大量の労働者が辞めていることから、この結果は驚くにはあたらない。
しかし、建設や運輸・倉庫・公益事業などの分野でも退職者が急増しており、これは商品関連セクターでの新しいタイプの退職かもしれないとバンカーは分析している。
彼は、2022年8月と2020年2月の退職率を比較し、「建設業はパンデミック以来、退職率が最も上昇した分野になった」とツイートしている。
この高い退職率は、雇用主がいかに従業員を手放したくないかということと密接な関係があるのかもしれない。この冷え込んだ経済状況の中で一部の業界では大量解雇が行われているが、これは広く見られる傾向ではない。解雇率は8月も低水準にとどまり、1年前とほぼ同じ過去最低の水準で推移している。
バンカーによると、解雇件数が増加する兆候はなく、解雇率はパンデミック前と同じくらい低い状態が18カ月目に突入している。
「退職率は依然として高いため、今いる従業員を確保しておきたいのだろう」とバンカーは言う。
「人を集めるのが大変であれば、人を逃がしたくないとなるのは当然だ」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)