米銀大手JPモルガン・チェース(JPMorgan Chase)資産運用部門のメアリー・キャラハン・アードス最高経営責任者(CEO)。
Heidi Gutman/CNBC
インフレは数十年ぶりの水準で高止まり、景気後退の懸念は日ごとに高まるばかり。米国株は6月半ばに年初来20%超の下落率を記録して弱気相場入りが確定、その後本格的な回復の兆しは見えてこない。
簡単に利益を得られる時代はとうに過ぎたと、すでに諦めモードの投資家も少なくないようだ。
しかし、運用残高2兆8000億ドルを誇る米銀大手JPモルガン・チェース資産運用部門のメアリー・キャラハン・アードス最高経営責任者(CEO)はそこまで悲観していない。
彼女は9月28日(現地時間)、ニューヨークで開催された資産運用カンファレンス「CNBCデリバリング・アルファ」で講演した際、こう言い放った。
「アルファ(超過リターンを生み出す源泉)を探し出すのが本当に簡単な時代です。そこらじゅうにアルファが転がっています」
アードスはさらに、世界規模で金融政策が緩和から引き締めに転換したことによるマクロ経済環境の変化に触れ、こう続けた。
「株式市場や債券市場、為替市場、不動産市場にもあります。プライベート市場も、公開市場も同じです。世界中の至るところにアルファを探し出すことができます。なぜなら、私たちは(マクロ経済環境の)転換点にいるからです」
重要なのは「投資の継続」
年初来、市場はボラティリティ(価格変動性)と先行きへの懸念に広く覆われたままだ。
しかし、投資家は将来の不透明さに怯むことなく、力強く立ち向かう必要があるというのがアードスの信念だ。
「世界中がブラックスワン(壊滅的被害をもたらす予測不能な事象)にばかり気を取られていますが、いずれまたホワイトスワンもやって来るのです。非常に難しいことではありますが、それでも何より重要なのは、こうした市場環境の中でも投資を継続することなのです」
アードスは、現在同様に厳しい市場環境が続いた過去の景気サイクルにおいても、わずか10日間の投資機会を活かして最高のリターンを得たケースがあったと指摘する。
「歴史を振り返ると、市場環境がどうあれ、わずか10日間でも最高の投資機会を逃せば、リターンは半減してしまうのです」
株価上昇が近い「7つの分野」
アードスによれば、特に駆け出しの投資家は過去の株式相場サイクルを分析し、これからアウトパフォームするサブセクターを特定するための指標を見つけ出す必要があるという。
「若く経験の浅い投資家は(足元のような状況に直面すると)驚いて身動きが取れなくなってしまうものです。
だからこそ、確かな事実に根拠を求める必要があります。歴史に学び、その教訓を得て、長期的な相場の局面を認識し、そこで自分が何をしているのか見つめ直す必要があるのです」
ロシア・ウクライナ戦争によって引き起こされた現在のエネルギー危機とその影響を分析する上で参照すべき事実として、アードスは「地政学的な問題が石油の問題に転嫁された最新の例」である1973年を挙げる。
当時、投資対象としてベストなセクターは、エネルギー・食料・農業・通信だった。
アードスは、エネルギー・食料・農業の3セクターは1973年と同様にアウトパフォームを期待できるとしつつ、当時と異なる部分として、通信より半導体メーカーおよびサイバーセキュリティへの投資が有効と指摘する。
また、アメリカ以外の市場に目を向けると、9月末には英ポンドが対ドルで過去最安値を記録。トラス新政権が発表した減税政策に懸念が高まるなど、イギリスの経済はマクロ経済環境とは別の困難に直面している。
それでも、イギリスの銀行セクターは足元で極めて面白い投資機会を生み出しそうだとアードスは語る。
「先週(9月末)は多くの人たちが『どんな企業、どんな分野にせよ、イギリスへの投資は悪手』と口を揃えました。まさにそういう時こそ『そこが注目のしどころでしょう』と、私たちは考えるわけです」
アードスはアメリカから見て地球の裏側、中国への投資にも言及している。
「中国の『負け』シナリオはまったく想定していません」というのが彼女のスタンスで、同国のパンデミック後の力強い動き、若い労働力の分厚さ、半導体や電気自動車製造への継続的な投資、グローバル技術大国を目指す10カ年計画『中国製造2025』などが成長の推進力になっていくことをアードスは強調する。
「中国への投資をためらう必要はありません」(アードス)
(翻訳・編集:川村力)