2022年9月のイベントで話すブラックロックのCEO、ラリー・フィンク。
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米共和党によるESG(環境・社会・ガバナンス)への攻撃が強まるなか、ブラックロック(BlackRock)の投資規模やESG投資戦略に、今、厳しい目が注がれている。この重要な時期に顧客とより緊密に連携するため、同社は主要な役員の入れ替えを行う。
人事計画には、ラリー・フィンク( Larry Fink )最高経営責任者(CEO)の側近とされる役員などトップレベルの幹部の異動も含まれる予定だ。
ブラックロックに対する保守派や進歩派、そして一般の投資家の風当たりは以前にも増して厳しくなってきている。同社のある幹部は、大口の資産運用会社に対する社会の注目度は、10年前とは比べ物にならないほど高まっていると話す。ブラックロックは自らの立場を守り、顧客や投資家に自社の戦略について、もっとしっかりと説明する必要があるという。
2022年10月3日にブラックロックが発表した人事案によると、長年アメリカのウェルスアドバイザリー部門の責任者としてウェルスマネジメント会社と重要な関係を率いてきたマーティン・スモール(Martin Small)が、2023年初めに最高財務責任者(CFO)に就任する。スモールの前任者で、投資銀行家としてブラックロックの大型案件のアドバイザーを経て10年近くCFOを務めたギャリー・シェドリン(Gary Shedlin)は副会長に就任し、主要顧客を担当するという。
モーニングスターのシニア株式アナリスト、グレゴリー・ウォーレン(Greggory Warren)はInsiderのメール取材に対し、スモールはシェドリンの後任としてふさわしい人物だと述べている。社内のさまざまな部署を経験してきたスモールは、「数字にうるさいCFO」というよりフィンクや他の経営陣の「戦略アドバイザー」的な存在だという。特に取引に関するアドバイザー的な役割を果たすことになるだろう、とウォーレンは言う。
人事は将来に備えた戦略
フィンクとブラックロック創業者の一人であるロブ・カピト(Rob Kapito)社長は、10月3日朝に従業員に送られたメールで、他の幹部人事も行うことを伝えている。創業から34年のブラックロックは、創業者が今でも経営を率いている数少ないウォール街の大企業だ。そんなブラックロックのトップ人事は業界内でも注目度が高い。
ブラックロックは、フィンク、カピト、シェドリンといった経営陣の後継者候補を育成するために、これまでさまざまな管理職を異動させ、人材の層を厚くしようと努めてきた。ウォーレンによると、これは将来のために綿密に練られた戦略だという。また、人材育成と人材維持の一環として、少数の幹部に5〜7年で権利が確定する株式報酬型インセンティブを付与しているという。
「同社の狙いは、将来のリーダーと目される人物たちが、社内で多くの部署を経験し、一つの部署に縛られないようにすることです」とオートノマス・リサーチ(Autonomous Research)社のパートナーであるパトリック・ダビット(Patrick Davitt)はインタビューで答えている。
ブラックロックの創業者の一人でもあるロブ・カピト社長。同社は現在も創業者が経営する数少ないウォール街の巨人であり、その後継者育成計画に注目が集まっている。
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今回の交代劇は、こうした次世代リーダーたちが資産運用会社としての力をめぐって世間の厳しい目にさらされている時期に行われることになる。同社は世界最大のETFプロバイダーであり、大株主として他社の取締役会でも大きな発言力を持つ。
「彼らは勝つうえで非常に有利な立場にいると思います。それよりも重要なのは、実は広報活動かもしれません。最大の課題は、こういう目に見えにくい問題なのです」とダビットは言う。
次世代の後継者たちとは?
スモールは2006年に入社し、FMA(Financial Markets Advisory)という影響力のある部門の設立に貢献した。その後、上場投資信託 iSharesのアメリカとカナダの責任者などの要職も歴任している。同社によれば、スモールのCFOとしての基本給は50万ドル(約7200万円、1ドル=144円換算)で、この額に業績連動型の賞与が支払われることになる。
一方、シェドリンはブラックロック入社以前、シティとモルガン・スタンレーに勤務し、ブラックロックによるメリルリンチ・インベストメント・マネジメント(Merrill Lynch Investment Management)とバークレイズ・グローバル・インベスターズ(Barclays Global Investors)の買収案件(現在はiシェアーズ事業)に関わった。この2件の買収により、ブラックロックは資金運用の巨人として確固たる地位を築いたのだ。
また、ブルームバーグによると、同社の国際・企業戦略担当のトップだったマーク・ウィールドマン(Mark Wiedman)が、ヨーロッパ、中東、アジア太平洋、ラテンアメリカの地域ビジネスに加え、アメリカ、カナダ、世界のクライアントの責任者になったという。マーク・マッコム(Mark McCombe)はシェドリンと同様、副会長に就任し、顧客との取引に携わる。
長年幹部を務めるハイメ・マギーラ( Jaime Magyera )は、2006年にブラックロックがメリルリンチの資産運用会社を買収した際にブラックロックに入社し、同社の各事業で役割を担ってきた。しかし今後はジョー・デビコ(Joe DeVico)とともにアメリカのウェルス・アドバイザリーを運営する、とブルームバーグは報じている。また、ブラックロックに長年勤務し、FMAに所属していたジェシカ・タン(Jessica Tan)は、「サステナブル・アンド・トランジション・ソリューションズ」というサステナブル投資に特化した新しいグループのグローバル責任者に就任する予定だ。
(編集・大門小百合)