中国の若者はうんざりするような社会的逆風に「投げやり」になることで対処している。
Xiaohongshu/—个达不六/小謝同學
- 中国の若者は、達成不可能な人生の目標や慌ただしいカルチャーに「投げやり」になることで抗議している。
- これは2021年の「躺平(寝そべり)」トレンドの進化版だが、より虚無的な雰囲気がある。
- このトレンドは、生きていくために必要最低限のことをするのではなく、堂々と「投げやり」になることを意味する。
2021年、中国のミレニアル世代は「躺平(寝そべり)」をして過度な競争社会に抗議し、休息を取りリラックスすることを擁護した。今度はそれに続く「投げやり」というもう少し暗いトレンドが登場している。
中国語では「摆烂(バイラン)」と言い、不満を持つ中国のZ世代やミレニアル世代の若者が、自分を甘やかし、落ちぶれていくのを隠そうともせず、意味がなく達成できそうにない人生の目標から離れていく心境を表すために使われている。
この遊び心と虚無感を併せ持つ新語は、あきらめと絶望的な状況に落ち込んでいくことを表している。バスケットボールで負けそうなチームが、試合を早く終わらせるために勝とうと努力することをやめる消極的な戦略をバイランと言い、それが由来だと言われている。
中国の若者は、都心部の高い失業率と住宅価格の高騰に直面している。
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バイランの生き方を表明するために、中国版のインスタグラム(Instagram)ともいえるプラットフォーム「小紅書」に多くの人が写真を投稿し、休息、疲労、悲しみを描写している。それらの写真には「#tired」や「#f-- it」と並んで「バイラン」のハッシュタグが付けられ、「日々退廃的になっていくこと」や一緒に「投げやり」になることを促している。このハッシュタグで検索すると、同プラットフォーム上で230万件以上の投稿にヒットする。
「バイラン(投げやり)」を表す投稿は、退廃や休息、絶望的な状況を堂々と受け入れることに充足感を与える。
Xiaohongshu/—个达不六
中国では2022年8月の若年層の失業率が18.7%に達し、平均的な住宅価格は平均年収の14倍、恋愛環境は複雑で、老親の介護や子育ての可能性などもあり、若者は打ちのめされ、失望させられるような逆風にさらされている。
「寝そべり」をしている人が、「静かな退職(quiet quitting)」に似た「投げやり」な状況に入り込むとエントロピーを増大させることになる。
2021年、フリーランスのデザイナーでデジタルアーティスト、そして「寝そべり」実践者であるYubo Liさんは、会社勤めをすればお金が増え、住居や食事も良くなると分かっていたとInsiderに語っている。しかし、1日3時間の睡眠とごくわずかな自由時間しかないこととのトレードオフは見合わないものだった。
「今、私が食べているシンプルなラーメンはおいしいし、ベッドは十分にやわらかい。頑張る理由がない」
「バイラン(投げやり)」の雰囲気はしばしば暗く滑稽だ。この言葉は自らを甘やかせて休息することを促すと同時に、憂うつさや疲れを表現するために使われる。
Xiaohongshu/小謝同學
「バイラン」は、他の同じような根本的問題への対応でもある。超競争社会や労働市場の縮小によって悪化した「9-9-6(朝9時に出勤し、夜9時に退勤し、週6日働く)」の労働体制のもと、死に物狂いで働く友人たちの状況に対する抗議なのだ。しかし「寝そべり」が現状を再構築することを目指しているのに対し、「バイラン」は、変わることがなく、満足できない未来に対する麻痺した感覚のようだ。
経済学者たちは、このトレンドがただでさえ低迷している経済に打撃を与え、すでに記録的な低水準にある出生率にさらなる影響を与えるのではないかと懸念を表明している。復旦大学のShi Lei教授は「本当に『投げやり』なのは一部の人たちだけかもしれないが、ソーシャルメディア上で流行語として大げさに取り上げられると、それが社会の雰囲気となる。それだけで影響を与えるには十分だろう」と語っている。
それでも、この言葉は多くの人の心に響き続けている。
上海のIT企業で働くYan Jieさんがサウスチャイナ・モーニング・ポストに語ったところによると、この言葉は自らの労働意欲の衰えを見事に言い表しているという。
「職場で仕事を任されることをなるべく避けようとしている」と彼は言う。
「もしその仕事をやらざるを得なくなったらやるが、手を抜くだろう」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)