アメリカ陸軍は2022年の採用が目標に届かず、年末までの兵力増強目標に約1万人不足する見込みだという。陸軍トップは、新型コロナウイルスと競争の激しい雇用市場を採用難の理由に挙げている。
US Army/DVIDS
- 2022年、アメリカ陸軍は兵士採用目標人数まで1万5000人不足しているという。
- 国防総省の調査によると、ほとんどのZ世代の若者は兵役不適格だという。
- 兵役不適格となる最も一般的な理由は、肥満、薬物使用歴、精神疾患だ。
労働力不足はアメリカ中の組織を悩ませ続けているが、アメリカ陸軍も無関係ではない。
アメリカ陸軍は2022年9月30日、2022年の採用目標に対して25%、約1万5000人の兵士が不足していることを発表した。他の軍も2023年に向けて、すでに採用が遅れているという。
悪戦苦闘する理由はさまざまだが、もし軍隊が唯一の雇用主であったとしても、採用のターゲットであるZ世代の大半は、その条件を満たしていないのだという。
9月28日にミリタリー・ドット・コム(Military.com)が最初に報じた2020年のアメリカ国防総省(Pentagon)の調査によると、17歳から24歳の77%が兵役に不適格だったことが判明し、2017年に行われた前回の調査から6%増加したという。
同報告によると、77%の大半は、複数の理由で入隊する資格を得られなかったとされている。ひとつの理由で不適格となった人では、「肥満」が11%、「薬物・アルコール乱用」が8%、次いで「医療・身体的な健康問題」「精神疾患」などが主な欠格事由となっている。
「兵役の資格があり、かつ兵役に関心のあるアメリカ人が減少しており、志願制の軍が長期的に脅かされる初期の段階に入っていることを憂慮している」と、ノースカロライナ州選出のトム・ティリス(Thom Tillis)上院議員は、2022年4月の公聴会で述べている。
入隊資格の問題は引き続き懸念されるが、近年は他の理由でも採用が難しくなっているという。
新型コロナウイルスのパンデミックによって、従来の対面式の採用活動はストップした。Zoomへの移行もわずかな効果しかなかったようだ。さまざまなスキャンダルや、2001年の同時多発テロ後に相次いで入隊した人たちが除隊し始めていることが、人手不足に拍車をかけているのではと推測する声もある。
国防総省(Department of Defense)のチャーリー・デイツ(Charlie Dietz)報道官はミリタリー・ドット・コムに「若者は以前の世代と比べると孤立し、軍隊に興味がなくなっている」と話している。
「退役軍人の減少や軍備の縮小によって、軍に馴染みがなくなっており、軍隊に対する固定観念が強くなっている」
アメリカ軍は国内の企業と同じように労働力不足に直面している。求人が高水準で推移し、企業がより高い賃金や特典を提供していても、近年は多くの若者が転職の道を選んでいる。これに対し、陸軍は一部の職種に5万ドル(約723万円)という高額なサインオン・ボーナス(契約金)を提供するようになった。しかし、これは明らかに問題を解決していない。国防総省の報告書によると、仮に何百万人ものZ世代がアメリカ軍隊に集まってきたとしても、その多くは入隊を拒否される可能性があるというのだ。
入隊の障害となるのは肥満、精神疾患、タトゥー
ジョンズ・ホプキンズ大学の調査によると、2021年の時点で18歳から25歳のアメリカ人の56%が太りすぎまたは肥満であり、この数字は過去数十年で上昇しているという。
体脂肪の条件を満たさない者が兵役免除を受けるのは珍しいことではないが(2016年時点で8%もの軍人が臨床的に太り過ぎであるとされている)、これが軍の新兵採用の障害であることに変わりはない。
「入隊に不適格な若者が増加していることで、州や地域の教育委員会を含む政策担当者が、幼い頃から新鮮で栄養価の高い食品を多く摂取し、身体活動を行うように促すことがこれまで以上に重要になっている」と非営利団体「Council for a Strong America」はリリースの中で述べている。
また、統合失調症や双極性障害など、特定の精神疾患を患っている場合も入隊の資格がないとされる。不安神経症やうつ病の治療歴がある場合も不適格になることがある。
例えば、2017年に父親の軍隊派遣に悩む幼少期にカウンセラーと面談したという理由で陸軍中尉の娘の入隊が拒否されたと報道されている。最終的には2019年に免除を受けたものの、このような展開が常だとは限らない。
2014年の調査では、非配属の軍人の25%が何らかの精神障害を抱えていることが判明している。精神疾患の診断がついた場合、新兵は入隊不適格となるが、入隊後に診断された場合は、治療や薬物療法を受けることができる。入隊前に精神的な問題を抱えていた人の中には、採用活動中にそれを明かさなかった可能性もある。
同様に新型コロナウイルスのワクチン接種が必須だったことも一部の応募者を遠ざけたかもしれない。
タトゥーに関するルールが混乱を招いている
他にもタトゥーに関する不透明なルールも入隊資格の問題を引き起こした要因の一つだ。
アメリカ会計監査院(Government Accountability Office)が発表した2022年8月の報告書によると、陸軍のほとんどの支部がタトゥーのある者に免除規定を設けているという。しかし、これらの要件や、タトゥーがどのように「将来または継続的な軍務の障害」となるかがポリシーに明記されていないと報告書には書かれている。報告書の著者は、この不確実性が、アメリカの若者の入隊を躊躇させているのではないかと推測している。
2022年6月、陸軍はどのようなタトゥーが許されるかを明確にするため、いくつかの措置を講じている。例えば、新兵や兵士は、長さが1インチ(約2.5センチ)を超えないものであれば、両手に1つずつタトゥーが認められたと報じられている。
アメリカ陸軍の広報担当であるアンソニー・ヒューイット(Anthony Hewitt)一等軍曹によると、新しいガイダンスでは、首の後ろと耳の後ろでどのようなタトゥーが許可されるかも明確になったという。陸軍は、顔へのタトゥーは引き続き禁止しているが、襟から見えないものであれば、ボディーアートを許可するという。
「これは、社会や奉仕する軍人の間で受け入れられていることを反映させ、タトゥーの制限を緩和するものだ」とヒューイットは述べた。
「この変更は、入隊基準を引き下げるものではなく、他のすべての入隊資格を満たしている者に兵役の機会を与えるためのものだ」
(翻訳:大場真由子、編集:Toshihiko Inoue)