D&Iの重要性は日本でも認知されつつあり、特に大手企業を中心にさまざまな試みが広がり始めている。ただ、言葉だけが一人歩きしている部分も多く、ダイバーシティというとジェンダーだけの問題と捉える人も少なくないなど、一般的な理解はまだまだ追いついていないのが現状だ。世界の先進企業では、D&Iが革新的なアイデアを生み出すチーム作りの原動力となると位置付け、積極的かつ戦略的な取り組みを行うことが主流になりつつある。
2022年5月19日開催「Better Workplace, Better Culture - SUMMIT #1 -これからの企業カルチャーの予兆-」でのセッション、「D&Iで目指す世界観と企業の情報発信 企業と“ヒト”との関係性」に、デル・テクノロジーズJapan CDO Office ソーシャルインパクトジャパンリードの松本笑美さんと、MASHING UP編集長 遠藤祐子が登壇。グローバル企業としてイノベーションを生み続けるデル・テクノロジーズに、D&Iと向き合い、組織として成長を続けるためのヒントを聞いた。
イクオリティ(平等)を実現するためのエクイティ(公平性)
(左から)MASHING UPの遠藤祐子 編集長、デル・テクノロジーズ Japan CDO Office ソーシャルインパクトジャパンリード 松本笑美さん。
撮影:蔦野裕
セッションの冒頭で飛び出したキーワードが、「イクオリティ(平等)とエクイティ(公平性)」。組織のイクオリティ実現にはエクイティの考えが欠かせないが、エクイティ自体はまだあまり注目されてはいない。では、多国籍のメンバーで構成され、さまざまなバックグラウンドを持つ人が集まるデル・テクノロジーズでは、この概念をどう捉えているのだろうか。
「多国籍メンバーで成り立つ私たちは、D&Iの推進を始めるにあたり、まず『自分たちが何者で、どういう個性があるか、何を目的にしているのか』を各自が理解することを前提にしています。さまざまな個性を持つ人たちがひとつになるには、違いを受け入れる土壌が必要。そのためのトレーニングを行っています。例えば、アンコンシャスバイアストレーニングの中では、「エクイティ」の概念も学びます。フィロソフィー(理念・信条)を基盤に、カルチャーと教育を通してD&Iの実現を目指しています。
日本では2018年からトレーニングを開始し、デルとEMCジャパンが統合してデル・テクノロジーズとなった2020年以降も、トレーニングを継続しています。カルチャーが異なる人たちが交わるためには、アンコンシャスバイアスの理解が重要だったんです。違いを認識しあい、そのうえで共通点を見つける。そして、何をすれば一歩進めるかを議論しあう。こういった対話の場を持つことで、道筋は見えてきます」(松本さん)
さらに、そこで重要になってくるのが、現場のマネージャーの存在だ。
「組織内でD&Iを推進するうえで、現場では個別対応が必要となる場面も少なくありません。というのも、育児や介護をしながら働くメンバーもいれば、孤独感に悩むメンバーもいるなど、個々にさまざまな事情を抱えているからです。
制度面でフォローしつつも、そういった個別の凹凸には現場マネージャーのサポートが欠かせません。弊社では、管理職との1on1を通して、チームの社員がうまく仕事に向き合えているかを確認しています。そしてさらに上のポジションの人たちも、組織の各環境を把握して応援することに努めています。エクイティが理解されてこそ、現場だけではなく、組織全体のインクルージョンが実現できると考えています」(松本さん)
また、ビジョンやミッションの実現に向かって、多様な人が貢献できる環境を作ろうという想いから、デル・テクノロジーズには称賛の文化がある。
「私たちはどうしても、『儲かる儲からない』といった点を優先しがち。でも、昨今それだけでは済まなくなってきていますよね。SDGsが浸透し、多くの企業でESG観点が経営にも紐づいています。
弊社ではそういった背景から、表彰する際には必ずしも結果だけではなく、例えば「社会的インパクトを与えたかどうか」「文化を作ったかどうか」という点も対象にしています。また、上司から部下だけではなく、社員同士がお互いを称賛しあうことも多くあります」(松本さん)
D&IとSDGsは互いに深く結びついているもの
「個別の事情を乗り越え、どうすればその人がうまく仕事に取り組めるかを考えるのも、エクイティのひとつ。それを増やすことで、ひいてはチーム全体のパフォーマンスを向上させることを目指しています。ただ、言葉が広がっても、理解が浅いことも。 アンコンシャスバイアスや、エクイティなどの考え方を“認知”し、行動する人を増やしていきたいですね」と、松本さん。
撮影:蔦野裕
続いて話題は、「D&IとSDGs」に移る。「一般的に、この2つは切り離して考えられることが多い。SDGsというと、プラスチックやCO2の排出量削減などの環境問題に目を向けられがちですが、そもそも国連は人権の主流化を掲げて活動している。SDGsのアジェンダの冒頭に『誰一人取り残さない』という言葉があるように、SDGsの目標には、通奏低音のように人権の存在がある」と、遠藤が概説。SDGsの達成には、「人」の尊重が前提であること強調した。
松本さんは「デル・テクノロジーズでは、互いに相関する17のSDGsゴールを達成するため、2019年に、2020年までの過去10年計画を刷新し、2030年までのESG目標として「サステナビリティ―持続可能性の促進・インクルージョン文化の醸成・ライフスタイル変革の貢献・倫理とプライバシーの遵守」の4つを設定しました。
これまで、その4つのESG目標のもと、海洋ごみや二酸化炭素の削減、貧困問題の解決や、ITによる健康の促進、医療への貢献など、幅広い分野において取り組みを行なってきた同社。松本さんは、「ESG目標においても私たちは細かくゴールを設定しています。壮大なチャレンジなのですが、だからこそポジティブに捉え、大きな目標を決めてしまう。そこから、『じゃあどうすれば達成できる?』とプロセスを逆計算しています」と語る。
「私たちは、4つのESG目標を「ムーンショットゴール」と呼んでいます。名前のとおり、難しいチャレンジゴールなのですが、先ほど挙げた4つの項目すべてがSDGsの達成につながっています。インクル―ジョンに関しても、採用・登用面でジェンダーや人種観点の目標を掲げています。インクルージョンとSDGsも、別ものではないんです」(松本さん)
これには遠藤も、「社会課題は、全てが相関しあっているもの。企業自体が持続可能であるために、DE&Iの目標・取り組みが必要ですね」と頷く。
炎上の背後にあるアンコンシャスバイアスに着目する
2日間にわたりオンラインで開催された、「Better Workplace, Better Culture - SUMMIT #1 -これからの企業カルチャーの予兆-」。新たに生まれる企業とステークホルダーの“Relations”、そしてそれに呼応して生まれる企業カルチャーの予兆について、熱いディスカッションが繰り広げられた。本セッションは、Day2である5月19日に行われた。
撮影:蔦野裕
3つめのテーマは、「炎上しない発信とこれからのコミュニケーション」。近年、各企業がより配慮している部分だが、デル・テクノロジーズがコミュニケーションにおいて気をつけていることとは。
「もちろん私も自分の発言に問題がないかを、広報チームに必ずチェックしてもらいます。さまざまな視点から、ダブルチェックをすることが大切ですね。社会の価値観は年々変わるので、その都度アップデートするよう気をつけています」(松本さん)
遠藤は、「炎上の背景にあるのは、アンコンシャスバイアスであることが多い」と、メディア側の視点からコメント。そして、2022年4月に日経新聞に掲載された、胸の大きな女子高生を描いた漫画の広告が物議を醸した事例を挙げた。
「これにはおそらく、『経済紙を読むのは男性だ。男性はこういう画像に共感するだろう』というバイアスが背景にある。育児をするのは女性という思い込みでCMを作るのも同様。自分が見ている側面とは、違う側面を見ている人がいる。自分の普通は、違う環境にいる人にとっては普通ではないといった、逆の視点を持つことが大事。ダイバーシティの理解には、想像力が必要です」(遠藤)
最後にセッションを振り返り、「ダイバーシティの実現は、1社、1人ではできないことがたくさんある。だからこそSDGsのゴール17『パートナーシップで目標を達成しよう』があります。どんどんパートナーシップを組んでいきたいですね」と語る松本さん。
SDGsゴールの達成もそのプロセスも、土台にあるのは、“人”。社会や企業のサステナビリティは、人を大切にしてこそ発展するものなのだということを、改めて噛み締めるセッションとなった。
Better Workplace, Better Culture - SUMMIT #1 -これからの企業カルチャーの予兆-
2022年5月18日・19日/オンライン開催
「D&Iで目指す世界観と企業の情報発信-企業と"ヒト"の関係性-」
視聴はこちらから。
MASHING UPより転載(2022年6月27日公開)
(取材・文/山下紫陽)