コバルトの共同設立者、トラビス・デイル(左)とエリック・シュランツ(右)。
Cobalt
- ロボット工学のスタートアップ、コバルトは、オフィスをパトロールして異常がないかを確認して報告するロボットを警備会社に提供している。
- このロボットは、身元確認から避難時の人々の誘導まで、あらゆる用途に使用される。
- 監視やプライバシーに関する懸念はあるものの、警備会社はロボットが従業員を保護する能力を絶賛している。
「ロボット警備員」という言葉から、ディストピア的な全能の機械や、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』に登場する「ビッグブラザー」を思い浮かべる人もいるだろう。
そういう不吉なものではないが、ロボット工学のスタートアップ企業であるコバルト(Cobalt)は、人間の警備員の代わりとなる身長155センチのロボットを製造している。このロボットはオフィスをパトロールし、異常があれば報告する。ロボットの画面を通してコバルト社のセキュリティーアナリストとオフィスにいる人がコミュニケーションをとることもでき、ロボットが複雑な状況に遭遇した場合も調査が可能だ。
トラビス・デイル(Travis Deyle)とエリック・シュランツ(Erik Schluntz)はそれぞれグーグル(Google)とスペースX(SpaceX)の元社員で、2016年にコバルトを設立した。彼らは元の職場を退職する際、一緒に会社を立ち上げたいと考えていたが、何にフォーカスしていいのか分からなかった。そこで多くの異なる職種の人々に「仕事上のどんな問題でも解決できる魔法の杖があったら、何を解決したいか」と尋ねた。
複数の警備会社に対するヒアリングで、彼らは人間の警備員が行っているような単純作業を行うロボットがほしいと考えていた。驚いたデイルとシュランツは、ロボットに侵入者を止めることができるだろうかと疑問を投げかけた。すると保険上の理由から人間の警備員も侵入者と接触することを許されていないとのことだった。それを知った2人は、警備員の監視・報告業務をロボットが行えば、より低コストになると考えた。
コバルトのロボットには、サーモグラフィー、温度・湿度センサー、バッジリーダーなど60以上のセンサーが搭載されている。このロボットを企業の警備ネットワークに組み込むと、アラームが鳴ったときに自動応答ができるようになる。ロボットは、過去に発生した警備上の問題に関する情報を使って、アラームが鳴った場合、それが単なる不具合なのか、窓が壊されたのかといったことを見極め、さらなる対処が必要かどうかを判断できる。
コバルトのプレジデント兼最高執行責任者(COO)のマイク・ルブラン(Mike LeBlanc)によると、新型コロナのパンデミックによって、同社の価値提案はより明確になったという。誰もいなくなったオフィスではロボットが警備チームの代わりをすることができるからだ。大規模なオフィスでは、ロボットが複数のフロアを効率的にパトロールし、警報に素早く対応できる。警備員が1人で十分な小さなオフィスでは、ロボットが来客のチェックをしたり、深夜に従業員を車へ誘導したりと、すべての警備業務を代行できる。
「警備員は離職率が高い」とルブランは言う。
「ロボットはその隙間を低コストで埋めることができる。人間の警備員だと人によって成果がまちまちだが、ロボットであればいつも同じ成果を得ることができ、しかも、低コストなので喜ばれている」
単なる警備ロボットではない
コバルトの顧客の多くは、警備以外の面でもロボットの活用方法を見いだしている。
例えば、オフィス勤務を再開したドアダッシュ(DoorDash)のグローバルセーフティー&セキュリティー責任者のクリス・チェリー(Chris Cherry)によると、同社ではロボットの温度センサーで従業員の体温をチェックし、バッジリーダーでコロナ検査が完了したかどうかを確認しているという。
さらに、マスク着用義務などのパンデミック対策が緩和され、オフィス勤務が再開された今も、セキュリィチームはロボットの新たな使い方を見いだしている。
フィンテックのスタートアップ、アリー・フィナンシャル(Ally Financial)の物理セキュリティー担当シニアディレクターであるビル・デイビス(Bill Davis)によると、密閉された駐車場でガス式高圧洗浄機を用いて清掃が行われていた際、危険なレベルの一酸化炭素が発生したが、コバルトのロボットが作業員に対して警告を発したおかげで事故に至らなかったという。また、ロボットがいつも通り従業員の身元確認を行った際、別人がなりすましていたことを発見した例もある。
自動車の開発研究を行うウーブン・プラネット(Woven Planet)の安全・警備担当シニアマネージャー、ラルフ・パークス(Ralph Parks)はロボットの活用方法を考えるための会議をコバルトチームと一緒に毎週行っていたとInsiderに語っている。ウーブン・プラネットでは、2020年に発生したカリフォルニアの山火事での大気汚染度チェックや、Wi-Fiの強度表示、オフィス避難時の群集制御など、あらゆる用途にロボットが使用されている。
従業員のプライバシーに関する懸念
セキュリティーチームがコバルトのロボットを活用する一方、従業員からは監視やプライバシーに関して懸念する声が上がっているという。
パークスは、セキュリティーチームの最優先事項は従業員を守ることだと述べている。
「従業員からよく言われる。『これがビッグブラザーなのか』と」
コバルトのロボットはこうした危惧を踏まえて設計されたとルブランはInsiderに語っている。ロボットは、現代のテック企業の「フリクションレスな環境」にマッチし、背景に溶け込めるように「高級オフィス家具の一部」のような外見になっているという。
「ビルはすでに至る所がカメラで埋め尽くされ、それによって人々はすでに監視されているので、そこにロボットのカメラが加わったとしても、実際にはそれほど違いはない」
このような論争に直面しているのはコバルトだけではない。警察ロボットの新興企業であるナイトスコープ(Knightscope)は、同社のロボットが幼児を倒してその足を轢いたり、女性の助けを求める声を無視したりするなどの事件が公になり、批判を浴びた。
ルブランやセキュリティーチームは、従業員にロボットを受け入れてもらうには、ロボットの目的について教育することが重要だと述べている。
「人を監視するビッグブラザーもいるが、暗い路地でこちらに向かってくる悪人たちを監視するビッグブラザーもいる」とパークスは言う。
「それこそがロボットの目的なのだ」
この記事は、最先端の企業が革新と成長のために用いている戦略について探る「Enterprise Tech Blueprint」のシリーズの一部だ。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)