冷凍食品は「努力と技術の結晶」だ。取材歴41年の専門記者が語る“冷食”の歴史と魅力

食品卸売商社「日本アクセス」が冷凍食品の認知拡大と購買促進を目指して主催する冷凍食品・アイスクリーム商品の総選挙「フローズンアワード」が今年で10周年を迎えた。

これを記念して10月8日から10月23日まで、約200種類の冷凍食品・アイスクリーム商品が食べ放題のレストラン「チン!するレストラン【※1】を期間限定で展開する。

物価高騰や円安など、冷凍食品業界をめぐる足元の市場環境は厳しい。

一方で、日本アクセスの担当者は冷凍食品の市場規模は拡大していると説明する。

新型コロナ禍、ウクライナ情勢、原油価格の高騰、円安に伴う物価高などの影響で流通を取り巻く環境は大変厳しい。今年の値上げ品目も累計で2万品目にも上るとされ、冷凍食品やアイスクリームも例外ではありません。

その一方で、2021年の家庭用冷凍食品とアイスクリームの市場規模見込みは1兆684億円。コロナ禍前の2019年と比べても108.6%に伸長しています【※2】

背景にはコロナ禍の巣篭もり需要、プチ贅沢思考、まとめ買い、在宅勤務時の昼食などでの需要の拡大があるとみている。

また、種類の増加も消費拡大の一助になっているようだ。

小売店では冷凍パンや冷凍スイーツといった新ジャンルの売り場拡大、鮮魚・精肉を使った独自商品の品揃え拡充も見られています。

家庭でも『より大きな冷凍スペースが欲しい』といった消費者ニーズの高まりから“セカンド冷凍庫”への注目もありフローズン業界のさらなる発展が期待されています。

市場規模が拡大する家庭用の冷凍食品市場。その歴史をふり返ると、戦後日本の歩みとともに発展していったようだ。

冷凍食品の普及、背景には「スーパーマーケット」と「電子レンジ」

冷凍食品の取材歴41年の冷凍食品ジャーナリスト・山本純子さん。1981年に「冷凍食品新聞」に入社。記者、編集長、主幹を歴任し2015年に独立。

冷凍食品の取材歴41年の冷凍食品ジャーナリスト・山本純子さん。1981年に「冷凍食品新聞」に入社。記者、編集長、主幹を歴任し2015年に独立。

撮影:吉川慧

「チン!するレストラン」の発表会には取材歴41年の冷凍食品ジャーナリストの山本純子さんも出席。Business Insider Japanでは冷凍食品の歴史や魅力、近年の冷凍食品業界の動向について山本さんに聞いた。

戦後に水産統制が解除され、水産企業は家庭用の冷凍食品にチャレンジしていきました。本格的に普及し始めたのは、冷蔵庫の普及やスーパーマーケットで冷凍食品が売り場の一つになったことが背景にあると思います。

日本冷凍食品協会によると1948年には東京・日本橋の白木屋デパートで日本冷蔵(現:ニチレイフーズ)が「ホームミート」「ホームシチュー」を試売。これが調理冷凍食品の始まりとされる。また、1964年の東京五輪では選手村の食事に冷凍食品が活用されたことで技術の進歩に一役買ったという。

業界団体(日本冷凍食品協会)が生まれたのは大阪万博の前年となる1969年になってから。1970年代に入ると水産企業のみならず味の素、雪印、明治など食品企業の大手が冷凍食品に参入し、さらに家庭用の冷凍食品が普及していきました。

家庭用の冷凍食品が普及した背景にはライフスタイルの変化とともに電子レンジの普及もあったようだ。

1980年代、電子レンジはとても高価なものでした。ただ、ご飯の温め直しやホットミルク、お酒を燗したり、家庭での活躍の場は今ほどではありませんでした。それが80年代後半頃になると電子レンジ調理に対応した冷凍食品も増えた。

1994年には電子レンジ対応のコロッケが発売されました。電子レンジでサクサクのコロッケができるようなった。これ以降(油で揚げずに)レンジで調理できる冷凍フライ食品が登場していきます。

このように電子レンジと冷凍食品はとても密接な関係にあるんです。

冷凍食品は“Fresher than Fresh(生より新鮮)”

撮影:吉川慧

近年でも冷凍食品業界では盛り上がりが続いている。

2016年11月にはフランスの冷凍食品専門店ピカールの日本1号店が青山にオープンし、大きな話題になりました。今では14店にまで拡大しています。

2017年からは大手コンビニ各社が冷凍食品に力を入れ始め、2018年には無印良品が冷凍食品に参入しています。このように、コロナ前から冷凍食品業界ではさまざまな動きがありました。

さらにコロナ禍によって、これまで冷凍食品に触れてこなかった層にも裾野が広がった山本さんは見ている

昔のイメージのように、保存料が沢山入っているのではと思っている方がいるかもしれませんが、そんなことはありません。

コロナ禍前は『冷凍食品なんて食べるものじゃない』と思っていらっしゃる方がまだまだ多かったと思いますが、買い物の頻度を減らす中で冷凍食品を試すようになる方もいました。すると『イメージと違って美味しい』と。

コンビニでの展開が広がったことで、自分が食べたいものを好きなタイミングで食べるという冷凍食品の楽しみ方が近年のトレンドのように思います。

家庭の家事の中でも洗濯は全自動洗濯機、お掃除はロボット掃除機が重宝されていますが、料理では冷凍食品がさらに活躍の場が広がるといいですよね。

また、山本さんは「冷凍食品は暮らしの大きな助けになります」「気軽に美味しさを楽しめる冷凍食品を使うことは、『手抜き』ではなく『手間抜き』です」とも語る。

アメリカではFresher than Fresh(生より新鮮)という言葉がありますが、冷凍技術は鮮度を保つ技術なんですね。マイナス18℃以下で流通するため細菌の繁殖も抑えられます。

食品冷凍学を研究する鈴木徹先生(東京海洋大教授)は、冷凍食品は“掛け算のシステム”だとおっしゃっていました。

良い素材、良い調理、急速凍結、マイナス18℃以下での保存、正しい解凍・調理。それによって美味しい料理が食卓に届く。美味しい食べ物の時間を止めて、空間も超える。それが冷凍食品の魅力なのです。

冷凍食品は食品メーカーの開発努力と技術の結晶

マルハニチロと『えびそば一幻』のコラボで生まれた「あじわいえびみそ」は山本さんのイチオシだ。

マルハニチロと『えびそば一幻』のコラボで生まれた「あじわいえびみそ」は山本さんのイチオシだ。

撮影:山﨑拓実

こうした美味しい冷凍食品の背景には、食品メーカーの企業努力があると山本さんは解説する。

冷凍餃子も、昔は焼くのが難しかったですが、今では水も油もなしで綺麗に焼けることに驚かれた方も多いでしょう。特に、味の素の餃子は家庭用の冷凍食品でも人気商品ですが、同社の餃子カテゴリー商品は年間200億円を売り上げています。

有名料理店やプロの料理人さんとの技術開発も目を見張るものがあります。マルハニチロが北海道の有名ラーメン店『えびそば一幻』とコラボしたラーメン「あじわい えびみそ」は2年がかりで開発した商品です。

山本さんは、冷凍食品の技術進化は「凍結技術だけではない」と改めて強調する。

各メーカーは『どうしたらこの料理を家庭で再現できるか』『どうすれば手間なく美味しく食べられるか』を一生懸命に研究しています。たまに『冷凍食品は余った素材を冷凍させて作っている』とおっしゃる方がいますが、考えてもみてください。余ったものを集めて冷凍食品をつくるほうが難しい。計画的に新鮮で美味しい材料を調達しなければ、冷凍食品はできません。

冷凍食品は、原材料から手間も暇もかけて作られています。まさに食品メーカーの開発努力と技術の結晶です。『手抜き』と言わず、ぜひ楽しんでほしいと思います。

【※1】:日本アクセスによると、予約は既に満席。別途、当日枠を設ける予定としている(2022年10月7日現在)

【※2】:富士経済『2022年食品マーケティング便覧』(2021年見込)を引用するかたちで紹介。

(文・吉川慧)

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