エビエーションの完全電動式リージョナルジェット機「アリス(Alice)」は、2022年9月に初のテスト飛行を終えた。
Eviation
重量というのは飛行にとっては天敵だ。肥大化した二酸化炭素排出量の大幅削減のための規制や政治的な圧力に向き合わなければならない航空業界にとって、これは頭の痛い問題である。
電動航空機は、二酸化炭素排出量を減らし、エネルギーとメンテナンスのコストを削減するのに役に立つ。現在の技術では、バッテリー駆動の長距離旅客機は実現できないが、多くの企業が短・中距離の電動飛行機の開発に取り組んでいる。
市場調査会社マーケッツアンドマーケッツ(MarketsandMarkets)によると、電動航空機の世界市場は2021年に推定79億ドル(約1.1兆円、1ドル=147円換算)に達した。2030年には277億ドル(約4兆円)に達すると予測されており、それらの飛行機を稼働させるバッテリーの製造は、2030年には10億ドル(約1470億円)規模の市場になる可能性があるという。
以下に挙げる企業は、より大きなバッテリーや優れた化学物質だけでなく、航空機用サイズの電気モーターをはじめとする重要なインフラを開発し、この市場をリードする態勢が整っている企業だ。他にも、ハイブリッド飛行機の製造や、低排出量の空の旅の実現を目指す電動航空機の設計を行い、この新分野で有望な航空機メーカーや航空機改造業者も紹介する。
1. エレクトリック・パワー・システムズ(Electric Power Systems)
CEO:ネイサン・ミレカム(Nathan Millecam)
本社所在地:ユタ州 ノース・ローガン
電動航空機の可能性を証明しようとしているNASA の実験用航空機 X-57マクスウェル(X-57Maxwell)は、エレクトリック・パワー・システムズ製の Epicバッテリーを使用している。同社は3つのモジュールを開発しているが、そのうちエネルギー(Energy)と呼ばれる最もエネルギー密度の高いものは、1kgあたり205W/hの電力密度があり、小型飛行機に電力を供給するために開発された。
またコロラド州をベースとするスタートアップであるバイ・エアロスペース(Bye Aerospace)は、飛行訓練などを目的とした同社の小型電動飛行機にエレクトリック・パワー・システムズのバッテリーを搭載している。エレクトリック社製の低価格帯の2つのバッテリーには、ハイブリッド飛行機や全電動式垂直離着陸機(eVTOL)に十分な電子が充填されている。
2. マグニックス(MagniX)
CEO:リチャード・チャンドラー(Richard Chandler)
本社所在地:ワシントン州 エバレット
ワシントンに本社を置き、シンガポールのクレルモン・グループ(Clermont Group)が完全所有するマグニックスは、ハーバーエア(Harbour Air)やエビエーション(Eviation)などのスタートアップ向けに、セスナなどの古い小型機にバッテリー推進プラットフォームを搭載する改造を行っている。
NASAは地上や飛行中の研究を通じて電動飛行技術を成熟させることを目的として「Electrified Powertrain Flight Demonstration」という2億5300万ドル(約370億円)の助成金制度を設けているが、2021年はマグニックスとGEアビエーション(GE Aviation)がこの助成金を得ている。
3. クベルグ(Cuberg)
CEO:リチャード・ワン(Richard Wang)
本社所在地:カリフォルニア州 サン・リアンドロ
クベルグは、電気自動車用のリチウムイオン電池を製造するスウェーデンの大手エネルギー企業ノースボルト(Northvolt)の傘下にあり、長距離の電動飛行に耐えうる次世代電池技術の開発に取り組んでいる。
クベルグが取り組む電池技術では、外部回路から電流が流れ込む電極であるアノード(負極)にシリコンまたはリチウム金属を採用する。これらを使ったバッテリー製造の課題を克服するために、米軍、エネルギー省、ボーイングなどから資金を調達している。
このバッテリーは、現在のリチウムイオン電池とそれらに一般的に使われているグラファイト・アノード(黒鉛負極)では実現不能なエネルギー密度を達成できる可能性がある。2022年7月には、このリチウム金属技術で、380Wh/kgという容量がテストにより証明されたと発表している。
4. エビエーション(Eviation)
CEO:グレゴリー・デイビス(Gregory Davis)
本社所在地: テルアビブ(イスラエル)
未来風の電動航空機の実現を目指す数多のスタートアップの中で、おそらく最も追い風を受けているのがエビエーションだろう。同社の9人乗り完全電動式リージョナルジェット機「アリス(Alice)」は、2022年9月に初のテスト飛行を終え、短時間ではあるが最高時速171マイル、高度3500フィートに到達した。
この飛行機は、マグニックス社のモーターとAVL社のバッテリーを使用し、2019年のパリ航空ショーで人気を博した。エビエーションが「飛行機の絵が描かれた巨大なバッテリー」と表現するように、同機は8000ポンド(約3.6トン)を超すバッテリーを要する。電力のみで数百マイルを飛行するという同社の目標を達成するには、リチウムイオン電池のさらなる効率化が求められる。
5. ライト・エレクトリック(Wright Electric)
CEO:ジェフリー・エングラー(Jeffrey Engler)
本社所在地:ニューヨーク州 オールバニー
飛行のパイオニアであるライト兄弟にちなんで名付けられたライト・エレクトリックは、小型飛行機を電動化する以上の高い目標を持っている。同社は2016年に設立され、最大1時間飛行可能な100人乗りの旅客機を製造するために、必要なプラットフォームを開発しているという。
2017年からはディスカウント・キャリアのイージージェット(Easyjet)と協働している。イージージェットは、ヨーロッパの短距離便をハイブリッド飛行機や全電動推進型に置き換えることで経費削減を実現することに意欲を見せている。
なお、ライトへはNASAやアメリカ空軍などが出資しており、同社の巨大なメガワット規模のモーターを活用した発電機製造に関心を示している。
6. アンペア(Ampaire)
CEO:ケビン・ノートカー(Kevin Noertker)
本社所在地:カリフォルニア州 ホーソーン
ハイブリッドカーは、充電時間が長い、航続距離が短いといった電気自動車ならではのデメリットを解消しつつ、電気自動車のメリットを享受することができる。これと同じことが航空分野にも当てはまる。
アンペアは、小型の古い飛行機を以前より少ない燃料消費量で飛行できるハイブリッド航空機に改造することを専門としている企業だ。同社の電気式EELは、セスナ337スカイマスター(Cessna 337 Skymaster)にパラレル・ハイブリッド・パワートレインを後付けしたものだ。2019年にテスト飛行を行い、さらに小規模な航空会社でもテストを行ってきた。
同社は、小型旅客機のDHC6ツイン・オッター(Twin Otter DHC6)を電動化し、騒音を最大32デシベル、燃料を最大50%、排出量を最大75%削減することを目指すNASAの次のプロジェクトに参画する契約を結んでいる。
[原文:6 top battery players vying to power the $27.7 billion electric-airplane business]
(編集・大門小百合)