IVPといえば、テック業界でとりわけ名高いベンチャーキャピタル(VC)だ。そのIVPが、先ごろサンフランシスコのベイエリアで開かれたプライベートディナーでなんとも暗い見通しを披露した。市場は底値圏にあり、投資先のスタートアップ企業は成長への投資を続けつつ「外科的に経費を削減する」必要がある、というものだ。
Insiderが入手したこの10ページの資料の中で、IVPは過去9カ月間でハイテク株を壊滅させた株式市場の低迷は、さらに9カ月続くだろうと警告している。このことは、外部からの投資に依存しているスタートアップなどの非上場企業には死活問題だ。景気後退が長引くにつれてバリュエーションが下がり、投資家の目が厳しくなることを覚悟しなければならない。
「1年前のバリュエーションは、今後は意味をなさない可能性がある」(プレゼン資料より)
これと同様のメッセージは、すでにアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)やYコンビネータ(Y Combinator)、セコイアキャピタル(Sequoia Capital)ら投資家も発信している。
今回のプレゼンを発表したIVPのゼネラルパートナーを務めるアジャイ・ヴァシー(Ajay Vashee)とパートナーのマイケル・ミャオ(Michael Miao)は、スタートアップ界隈の熱狂的なディールメーキングが鈍化するにつれ、ファウンダーはより慎重に支出管理をする必要があると述べている。
シリコンバレー・バンクが最近出した報告書によると、2022年上半期のスタートアップの新規資金調達額は830億ドル(約12兆円、1ドル=145円換算)と、半年間の調達額としては業界最高額を記録したという。しかしヴァシーらは、これらの資金がどのスタートアップにも満遍なく行き渡っているわけではなく、資金調達できているのは主にアーリーステージの企業やVCの既存のポートフォリオ企業だという。
「このドライパウダー(VCがまだ投資していない待機資金)を見ると、たくさんの資金があると安心してしまうかもしれませんが、油断は禁物です。これだけ多くの資金が傍らに控えているのはいいことですが、実際に調達するのはどんどん難しくなるでしょう」(ミャオ)
「元の状況に戻りつつある」
VCは今後、非常に高く評価されているスタートアップに対してより合理的なバリュエーションを付けるようになることも予想される。IVPのプレゼン資料によれば、2017年にテック業界の上場企業が現在の水準で取引されていた際、未上場のスタートアップは現在のARR(年間経常収益)の約15倍で取引されていた。ちなみに2021年は114倍だった。
また、タイガー・グローバル・マネジメント(Tiger Global Management)やコーチュー・マネジメント(Coatue Management)といったクロスオーバー投資ファンドが登場した際もそうだったが、ディールが成立するまでには数日単位ではなく数週間単位を要するようになるだろう。ミャオいわく「元の状況に戻りつつある」のだ。
IVPはこのプレゼンで、コスト削減とランウェイの延長をバランスよく行うことの重要性を説きつつ、「コスト削減は過度にやりすぎないように」とも釘を刺す。その理由をヴァシーは次のように説明する。
「コストを切り詰めすぎると成長を妨げかねませんから。競争力を維持するためには、成長を続け、新しいプロダクトや取り組みに投資することが重要なんです。この市場環境は、真に差別化できている企業には間違いなく有利に働くでしょう」
以降では、IVPの許可を得て同社が発表したプレゼン資料を公開する。スタートアップの財務を預かるCFOが景気後退期に従うべき5つの行動原則が、この資料の最終ページに記されている。
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(編集:常盤亜由子)