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急成長するTikTokに、競合となるソーシャルメディアの間では動揺が走っている。しかしそんな中にあって、YouTubeは長期的な戦いをすることで業界トップに立てる可能性がある。「長期的な戦い」というところがポイントだ。
YouTubeは2022年9月、TikTokとガチンコで競合する機能「YouTubeショート(Shorts)」に表示される広告に関する計画をついに発表した。この計画では、ショート動画から発生する広告収入の45%が、YouTubeのパートナープログラムに参加しているクリエイターに割り当てられる。
また、2023年に提示する予定の基準では、一部のクリエイターがYouTubeから収益を得やすくするため、登録者数や視聴時間などのハードルを下げるという。
この発表によって、ショート動画のマネタイズをめぐる水面下の攻防が本格化し始めた。これまでのところ、ショート動画はクリエイターが素早くオーディエンス基盤を築くのには役立つことが分かっているものの、収益が上げられるのかとなるとまた別問題だ。
これまで多くのTikTokインフルエンサーが「TikTokで作品を公開しても微々たる収入にしかならない」とこぼしてきた。
YouTubeショートに広告が入るようになるのは2023年であり、YouTubeがこの状況を大きく変えられるかどうかは未知数だ。
だがYouTubeの元幹部やメディア関係者に取材するかぎり、TikTokに置き換わるとまではいかずとも、YouTubeがショート動画をめぐる競争に勝つ可能性はありそうだ。ここで重要な点としては、YouTubeはこれから殺到するであろうショート動画クリエイターにより多くの収益を上げてもらうべく、長編動画の投稿を促す可能性があるということだ。
以降では、Insiderの取材に応じたYouTubeの元幹部、クリエイター、メディア企業の幹部らの話をもとに、TikTokと対峙するYouTubeがとるべき戦略について考える。
No.1になる必要はない
YouTubeは競合他社に比べてショート動画の広告を売ることに長けている可能性が高く、このことがマネタイズの面でも有利に働く。
TikTokなどと比べてもYouTubeの広告事業ははるかに洗練されており、2021年の広告収入は288億ドル(約4超1700億円、1ドル=145円換算)だった。またYouTubeは、従来の長尺のYouTube向けに販売している広告に加え、新しいバーティカル広告フォーマットをパッケージとしてマーケターに販売することもできる。
しかしそれ以上に重要なのは、YouTubeにはより多くのクリエイターを引き込む力があることだ。YouTubeにとっての脅威は、新進気鋭のクリエイターのファネルをTikTokに断ち切られることだが、YouTubeがショート動画をうまく軌道に乗せることでクリエイターの収益を増やせれば、クリエイターは引き続きYouTubeにとどまってくれるはずだ。
YouTubeにとって「勝つ」とは、ショート動画プラットフォームの分野でNo.2プレイヤーになることを意味する。トップになる必要はなく、「負けなければいい」のだと、ある元YouTube幹部は言う。
ショート動画から入り、やがて長編動画へ
センサータワー(SensorTower)が最近発表したデータでは、TikTokの成長中もYouTubeはほぼ無傷だったことが示されている。同データによると、2022年8月のYouTubeの1日平均視聴時間は73分で、TikTokの94分には及ばなかった。しかし、YouTubeは前年同月比で3%増と、TikTokよりはるかに古いアプリとしては驚異的な伸びを示している。
また、TikTokクリエイターの間では収入を増やすために同じ動画をYouTubeショートにも投稿するケースが増えているが、YouTubeはこのようなクリエイターたちがいずれ長編動画(YouTube社内では「ロング」と呼ばれている)も投稿してくれるのではと期待していると、YouTubeの元幹部は明かす。
YouTubeの従来の収益構造は、不完全ではあるものの、クリエイターが視聴者から収益を上げる方法としては確立されている。
「YouTubeに投稿しようとしたものの、3〜10分の動画で挫折したクリエイターの多くがTikTokに流れたんです。そのクリエイターが今度はYouTubeに投稿するかもしれない。もし投稿を続けてくれれば、そのうち長編動画のクリエイターになるかもしれません」(YouTube元幹部)
YouTube動画を制作しているメディア企業にとって、YouTubeが最近力を入れているショート動画には波があった。人気のYouTubeチャンネルを複数運営するメディア企業の幹部は、YouTubeのアルゴリズムがショート動画を好むようになり、一部のチャンネルのエンゲージメントが下がったため、ショート動画をつくらざるを得なくなったと話す。その後、YouTubeショート向けのコンテンツを増やすことで損失をカバーしたという。
このメディア企業はTikTokでも積極的に活動しているものの、収益源はもっぱらYouTubeの長編動画だと同幹部は言い、次のように付け加えた。
「(ショート動画は)長編動画ほど儲かりはしないでしょうね。ショート動画がYouTubeの看板コンテンツになったら、我々としては大ごとですよ」
[原文:YouTube's plan to combat the explosion of TikTok has come into focus. Here's how it could win.]
(編集・常盤 亜由子)