Daniel Harvey Gonzalez/In Pictures via Getty Images
- 人々が生活費高騰の危機に直面する中、イギリスではフードバンクの利用が増加している。
- 家族のために食べ物を確保したり、暖房を使って家を暖かく保つのに人々は苦労している。
- ウエストロンドンにあるフードバンクで、Insiderはお金や家族、孤独感について人々に話を聞いた。
人々が生活費高騰の危機に直面する中、イギリスではフードバンクの利用がこれまでにないペースで増加している。
その数はマクドナルドの約2倍だ —— イギリスにはフードバンクが2500カ所以上、マクドナルドが1463店舗ある。
フードバンクでは、食料品やその他の生活必需品を購入できない利用者が増えている。イギリス最大のフードバンクのネットワークを誇る慈善団体トラッセル・トラスト(Trussell Trust)では、需要が80%以上伸びたという。
2022年5月にIndependent Food Aid Networkがフードバンクを運営する団体を対象に実施した調査では、93%が2022年の初めから食料品の需要が高まったと答えていて、その原因として95%が生活費危機を挙げた。
ノースロンドン郊外の裕福な住宅地でフィンチリー・フードバンク(Finchley Food Bank)を8年以上運営しているアンナ・モーガンさんは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックがフードバンクに対するニーズを飛躍的に高めたとInsiderに語った。パンデミック前は週に45世帯だった利用者がロックダウン(都市封鎖)中には週に140世帯 —— 人数にして約420人 —— に増えたという。
「人々はCOVID-19の危機から復活していないし、生活費危機で困窮世帯は増加しています」とモーガンさんは話した。賛同者からの寄付によって成り立っているモーガンさんのフードバンクでは最近、1日で152世帯に食料品を配ったこともあるという。
フードバンクに寄せられた食料品(2022年5月15日、ブリストル)。
Matt Cardy/Getty Images
ロンドンはイギリスの中で最も多くのフードバンクが運営されている地域だ。トラッセル・トラストでは、2021/22年度に28万3563人のロンドン市民を支援してきたし、他にも多くのフードバンクが助けを必要とする人のために食料品を提供してきた。ウエストロンドンのアールズ・コートで活動する「ダッズ・ハウス(Dad's House)」もその1つだ。
10月の爽やかな日差しが窓から差し込む中、ダッズ・ハウスのオフィスのテーブルには10人の人々が集まっていた。
彼らは、4人の子どもと一緒にイギリスに移住したシリア難民のジャマナさんが用意した昼食を食べていた。ダッズ・ハウスはもともとシングルファーザーを支援するために立ち上げられた慈善団体だが、今では数百人がさまざまなニーズを抱えてここを訪れている。全ての利用者に共通するのは、ジャマナさんの料理が大好きということだ。
ダッズ・ハウスを利用する子どもが描いたお礼の絵。
Bethany Dawson
ザヒアさんもダッズ・ハウスでジャマナさんの料理を楽しんでいた1人だ。食事が終わってオフィスを出る時、ザヒアさんは2人の10代の娘と夫のために1週間分の食料品を抱えて帰った。
COVID-19のパンデミックで生活が本当に厳しくなったと、ザヒアさんはInsiderに語った。夫がサービス業の仕事を失い、一家の収入が突然ゼロになったため、食べる物を確保するにはフードバンクを頼らざるを得なくなった。
そして今、状況はさらに厳しさを増している。この冬、暖房が使えなくなるのではないかと不安だという。
経済に不安を感じているのは、ザヒアさんだけではない。
ザヒアさんと一緒にテーブルを囲んでいた人々も同じような問題を抱えている。コロナ禍でどれだけ孤独だったか、目に涙を浮かべながら語る人もいた。英語が母語でない人たちはなおさら孤独を感じていたという。
そして彼らは皆、この冬がどうなるのか怯えている。イギリスのガス価格がこの1年で100%以上値上がりする中、複数の人々が自宅で暖房が使えなくなるかもしれないと話した。
National Energy ActionとFood Foundationによると、光熱費の年間平均はこの1年で1271ポンド(約20万4000円)から2500ポンドに上がった。
タッセル・トラストの直近のデータでは、イギリスの低所得者向けの給付制度「ユニバーサル・クレジット」の利用者の5人に1人はこの夏、コンロやオーブンが使えず、温かい料理を作ることができなかったと言い、38%は十分な食料品が買えなかったため、丸一日食事を取れないことがあったことが分かっている。
ダッズ・ハウスではさまざまな食料品が手に入る。
Bethany Dawson
9月初めにResolution Foundationが公表した調査結果によると、食費やエネルギー価格、住宅ローン金利の上昇で世帯収入は約3000ポンド減少する見込みだ。そして、実質所得が7%減ることで、貧困状態にある人々の数は300万人以上に増えるという。
End Fuel Povertyは、10月のさらなるエネルギー価格の上昇で700万世帯が近いうちに燃料不足に陥るだろうと示唆している。
「第二次世界大戦以来、目にしたことのない貧困状態に」
高騰する暖房や照明にかかる費用は、イギリスの人々を次々と貧困状態に追いやっている。フードバンクの支援なしに月末に支払われる賃金だけでやっていける人は少なくなっている。
中間所得層の間ですら、フードバンクを頼りにし始める人が増えている。Cavell Nurses' Trustが2500人の看護師や医療従事者を対象に行った調査では、回答者の14%が自分や自分の家族のためにフードバンクを利用していると答えたとNursing Timesは報じている。警察官の中にも、フードバンクを利用せざるを得ないほど困窮している人たちがいるとの報道もある。
フィンチリー・フードバンクのモーガンさんは、登録利用者の29%は仕事をしているものの、その収入では生活費がまかなえないとInsiderに話している。
筆者がダッズ・ハウスに滞在している間にも、支援を求めて新規登録にやってくる利用者がいた。ある男性は幼稚園を運営するフルタイムの仕事に就いているものの、その収入では生活費の高騰に追いつけず、自分と自分の子どもが食べていくための支援を必要としていた。
ダッズ・ハウスの設立者ビリー・マクグラナガンさんは、週に2日の昼食会は食事やコミュニティーの場というだけではないとInsiderに語った。マクグラナガンさんの携帯電話には食べ物を求める人や請求書の支払いに困って支援を求める人、どうしたら生活していけるかパニックになって問い合わせてくる人からの連絡が絶えないという。
59歳のニックさんも、生活費の高騰で3人の娘たちの制服代などの支払いに困り、ダッズ・ハウスに助けを求めた1人だ。
ニックさんはダッズ・ハウスで他のシングルファーザーとのつながりや給付金のアドバイス、洗濯機を買うためのお金など、さまざまな支援を受けてきた。
ニックさんは、慈善団体が提供する無料の昼食を自分が必要とするようになるとは思いもしなかったという。オックスフォード大学を卒業し、本を出したこともあるニックさんはタイで起業家として生活していたが、事業の失敗で全てを失い、今は一時的な宿泊施設で暮らしている。
自宅に持ち帰るための食料品を袋に詰めながら、ニックさんは地元のスーパーで見つけた新しい仕事について語った。50代後半で自分が就いているとは思わなかった仕事だけれど、一定の収入が確保できてありがたいとニックさんは話した。
「不安を抱えた家族、どうやって生活していけばいいか分からない家族、日暮れが早まり、寒くなってくる10月に何が起こるか分からない家族をわたしたちは数多く目にしています」とダッズ・ハウスのマクグラナガンさんは語った。高騰するエネルギー価格が「人々を苦しめている」という。
「第二次世界大戦以来、目にしたことのない貧困状態にわたしたちは陥ろうとしています」とマクグラナガンさんは話している。
そしてこの冬、食べ物か暖房か、どちらかを選ばざるを得なくなるのではないかと人々は恐れている。
National Energy ActionとFood Foundationの調査では、子を持つ親の67%がガス料金の値上がりで食料品を買うお金が減るのではないかと心配していて、28%は購入する食料品の質を落としたと答えている。
「暖房か食事か、人々はどちらかを選ばなければなりませんでした」とNational Energy Actionのチーフ・エグゼクティブ、アダム・スコアラー氏は話している。
「この冬は数百万人がその選択すらできないでしょう。子どもを含め社会の中で最も弱い立場にある人々は政府の支援があっても、エネルギー価格が高騰するにつれ、寒さや空腹にさらされることになるでしょう。これは公衆衛生上の緊急事態です」
(翻訳、編集:山口佳美)