アクティブなトレーダーは投機的な投資家になる傾向が強い一方で、「バイ・アンド・ホールド」アプローチをとる人ほど目立つ存在になることはない。
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- 投機とは、大幅な損失の可能性が高い資産を売買する行為である。
- 投機は、安物株(ペニー株)や店頭株(OTC)の取引を好む投資家の間で広まっている。
- 退職などの長期的な財政目標が影響を受けないように、投機を制限すべきである。
投資にまつわるアドバイスの大半では、数十年におよぶ長期的で一貫した利益に目が向けられる。特に、退職という話題に関心を示す人々に対するアドバイスで、この傾向が強い。
ところが、投資家のなかには、長期的な利益をじっと我慢して待つことに満足できない人もいる。なかには、ホームラン級のトレードを狙って、人生を一夜で一変させようともくろむ人も。そうした行為は「投機」と呼ばれ、ギャンブルと同様に多大なリスクを伴う。
「投機」とは?
投機とは、大幅な損失の可能性が高い資産を売買する行為である。投機的な投資を行う人は、大きなリスクを冒す。そのリスクに見合うだけの桁外れなリターンが得られると(彼らの頭のなかでは)期待できるからだ。
傾向として、投機的投資家はとても活発に取引を行う。言い換えれば、市場の平均よりも活発に取引し、市場が短期的な変動を見せているときには特に、自ら積極的にトレードしようとする。より受動的な「バイ・アンド・ホールド」タイプの投資家の真逆の存在だ。一般にバイ・アンド・ホールド投資家は、自らの投資をあまり動かそうとしない。
投機的投資家の意思決定は、その巧みさという点で個人差が大きい。投資決断をソーシャルメディアのグループやインフルエンサーにもとづいて行う投機家も少なくない。これはゲームストップ(GameStop)社やAMCシアターズ(AMC Theatres)社などの株価急騰のおもな要因であったし、今もそのような株価急騰を引き起こしている。どちらの企業も財政難に陥り、2021までに破産を申請すると噂されていた。
ドージコインという暗号通貨もまた、マーク・キューバンやイーロン・マスクなどの有名人がTwitterでつぶやいたことをきっかけに急騰した。そして2021年5月8日にイーロン・マスクが『サタデー・ナイト・ライブ(Saturday Night Live)』に出演したことを機に、30%以上価値を落とした。2021年の2月にテスラ社がビットコインを用いた支払いを受け入れると発表し、同年5月にその決断を覆し、翌6月にはまたビットコインを受け入れると発表したときも、マスクの一連のツイートがビットコインの乱高下を引き起こしたとして批判された。2021年4月時点のビットコイン価格は6万5300ドル(約950万円)をわずかに上回っていた。これは本稿掲載時の時価2万900ドル(約300万円)をはるかに超える額だ。
ほかの投機家は「勘」または市場の変動にもとづいて意思決定を行うと、アヴァンギャルド・ウェルス(Avant-Garde Wealth)社のCFP®(認定ファイナンシャルプランナー)兼共同創業者であるサビーナ・スメイルホジック・ルイス(Sabina Smailhodzic Lewis)氏は指摘する。そしてこう付け加えた。「誰の目にもリスクに見えるのに、彼らの目には潜在的価値に見える情報を探す」
ほぼすべて市場に投機の余地はあるが、現在の投資市場で最も投機的なのはおそらく暗号通貨で、その次がNFT(非代替性トークン)だろう。
投機がうまくいく投資環境とは?
投資家がある業界に対して強固な世界観や予測をもつとき、投機は機能する。次に、彼らは自らの予測の実現に向けて大きな動きを引き起こすと考えられる何らかのきっかけやイベントを探す。そのイベントが発生する可能性が高いと予感した投機家は、予測が実現した場合に最大の利益を得られると予想できる資産を買う。
その例として、2020年の選挙戦を挙げることができる。当時は多くの人が、そのころ前副大統領だったジョー・バイデンが大統領選に勝てば、大麻が全国で合法化されると考えていた。そのため、ティルレイ(Tilray: TLRY)、キャノビー・グロース・コーポレーション(Canopy Growth Corporation: CGC)、オーロラ・カナビス(Aurora Cannabis: ACB)に投機が集中した。
投機は、安物株(ペニー株)や店頭株(OTC)の投資で一般的に見られる。OTC市場で取引する企業はニューヨーク証券取引所(NYSE)やナスダック(NASDAQ)には上場されていない。そのような投資は安価――多くは1株5ドル(約730円)以下――な場合が多いが、監視されていないうえ、通常は不安定な変遷をたどっているため、リスクは高い。
2020年、レンタカー業者のハーツ(Hertz)の取引額が0.41ドル(約59円)という安値を記録し、NYSEで上場廃止となり、同社は数日後に連邦破産法第11条の適用を申請した。それ以降、ハーツはOTC市場において、ティッカーシンボル「HTZGQ」として取引されるようになった。そして2020年の夏、投機家がハーツに集中したため、同社の株価がわずか2週間のうちに1100%の上昇を見せたのである。
外国為替市場と債券市場における投機
外国為替とは、正規の取引所を経由せずに投資家が米ドル、日本円、英ポンドなどをトレードする、極めて投機的な市場だ。外国為替トレーダーの目的は、通貨間の短期価格変動から利を得ることにある。個人投資家にとって、外国為替はマージンとレバレッジに大きく依存している。
外国為替を規制する商品先物取引委員会(CFTC)は、取引に最低2%の預金を要求する。つまり、外国為替口座に1000ドル(約14万円)あれば、最大5万ドルまで投資できる。50:1の比率だ。うまくいけば、投資家は迅速に利益を上げることができる。しかし市場が予期せぬ方向へ動くと、1000ドルの投資が数千ドルの負債に変わる恐れもある。
債券市場では、ムーディーズ(Moody's)、スタンダード・アンド・プアーズ(Standard and Poor's)、フィッチ(Fitch)などの債券格付け機関が投資と投機の線引きを行う。強靱で、投資家が利息と元金を受け取る可能性が高いとみなされる債券は「投資適格」と呼ばれる。格付けの最も低い債権は「投機的(投資不適格)」とみなされ、「ジャンク債」などと呼ばれることもある。ただし、投機的格付け債券は高いリスクに対する代償として、投資家により高い利息を支払うことが多い。
投機 vs. 投資
一部では投機と投資を同じ意味で用いる動きがあるが、実際には、投資家と投機家が冒すリスクの大きさと用いる金融手段のあいだにはいくつかの重要な違いがある。
バージニア州ニューポート・ニューズにあるマインド・オーバー・マネー(Mind Over Money)社のファイナンシャルプランナーであるトレメイン・ウィルズ(Tremaine Wills)氏は「一般的に、投機傾向の強い人は純資産を多くもっているか、特定の市場や業界について人よりも多くの知識を有している」と指摘する。そして、専門知識と可処分資産の多さがあるため、普通の人々よりもリスクに前向きになれると、付け加えた。
まとめ
心臓の弱い人に投機は向かない。莫大な利益という魅力はあるが、ファイナンシャルプランナーに相談して、自分が扱えるものだけに集中するのが賢明だろう。加えて、損益の発生にどう備え、どう対処すべきかを知るために、リスク許容度アンケートを行うことも検討したほうがいい。
最後に「即時」「短期」「長期」の資産目標に取り組む計画を立て、その計画から投機的な動きを切り離すように努めよう。
[原文:What Is Speculation? Definition, Explanation, and Examples (businessinsider.com)]
(翻訳・長谷川圭/LIBER、編集・長田真)