ヒカキンさんが公開した謝罪動画
出典:YouTube
人気YouTuberのHIKAKIN(以下、ヒカキン)さんが10月2日に公開した謝罪動画が大きな注目を集めている。
謝罪動画は10月12日時点で500万回再生を超えた。果たして謝罪は「成功」したのか。
Yahoo!リアルタイム検索で「ヒカキン」をワード検索した結果、ツイートの「感情の割合」は賛否がおよそ半々だった(検索期間:10月2日〜10月12日)。SNSではネガティブなコメントもあったが、一定の理解を示すコメントもみられた。
謝罪のプロは、ヒカキンさんの謝罪をどう分析したか?
『謝罪の作法』(ディスカヴァー携書)などの著書を持つ危機管理の専門家で東北大学特任教授の増沢隆太さんに話を聞いた。
謝罪が受け入れられた3つのポイント
ことの発端はヒカキンさんが今夏行った「ヒカキンおにごっこ」という企画でスタッフとの意思疎通にミスがあったことだ。
ゲーム中にトラブルが発生し、一時中断していた分の時間(10分間)をスタッフが延長したところ、その情報が参加者に行き届いていなかった。その結果、ヒカキンさん側が参加者に不利になるようにゲームの時間を引き延ばしたのではないか、という批判が寄せられたのだ。
ヒカキンさんはミスを謝罪し、当該動画を非公開にした。
そして10月2日に「『ヒカキンおにごっこ』動画非公開について」と題した動画を投稿した。
増沢さんは、謝罪動画を見て、謝罪が受け入れられた3つのポイントとして、
- 人のせいにしなかった
- 「想定外」を言い訳にしなかった
- 「世間」に謝罪しなかった
ことが重要だと指摘した。
ヒカキンさんは冒頭で、
「ヒカキン鬼ごっこの動画は、本当にたくさんの視聴者の皆さんに楽しんでいただいた作品でもありましたし、僕自身、 今までのYouTube人生の中で1番大きい企画で、この企画でチャレンジして、YouTuberの限界をぶち壊したい。 そういうふうにこの動画にかけていた思いは強く、当時撮影に関わっていただいた方は180人以上という、今までには経験したことのない企画でした。
(中略)
今回非公開にするという判断になってしまい、企画に携わってくださった皆さん、そして楽しんでいただいた視聴者の皆様、この度は本当に申し訳ございませんでした。
この動画ではなぜ非公開にするのかということを説明させていただきます(動画0:39~1:37)」
と述べた。
増沢さんは、
「冒頭1分半でヒカキンさんは結論と必要な情報をすべて説明しました。
こんな風にオープニングできちんと結論から言える人は少ない。謝罪で最も伝えなければいけないことは『自分が悪かった』ということです。そのうえで『こういうことをやりました』『それが悪いことでした』『関係者に謝りました』『このような対応をしました』という必要な情報が全て入っている。謝罪の要点を押さえていると思います」
と言う。
ヒカキンさんはその後、経緯を説明し、「悪意はなかったこと」「スタッフにミスがあったこと」を伝えるのだが、この情報を伝える順番がポイントだと増沢さんは指摘する。
「もし、謝罪と経緯説明の順番が逆だったら大変なことになっていました。『ヒカキンさんは責任をスタッフに押し付けて言い訳をしている』という印象を与えたでしょう。
『悪意はなかった』『スタッフにミスがあった』という経緯説明は真実なのでしょうが、人は印象を重視します。(説明の前後が逆だった場合)『自分は悪くない』という印象を与えてしまい、反発が上がったと思います」(増沢さん)
リーダーとして、まず「悪いのは自分である」「責任は自分にある」ことを示すのが何より重要だ、と増沢さんは言う。
プロが「想定外、アクシデントでした」では許されない
その後、ヒカキンさんは2つのアクシデントが重なったことを説明する。その上で次のように述べる部分がある。
「ここが反省すべき点だと思うのですが、本来であれば、こういったアクシデントが起きてしまった場合は、いったん全エリアで全員のゲームを一時中断し、最優先する怪我や体調の確認をして、それが大丈夫だと確認が入った時点で、ゲームを再開すればよかったと今は思っております。
そこに関しては、万が一こういったアクシデントが起こった際に鬼ごっこを1回全体を中断するっていうマニュアルができていなかったせいで、このアクシデント中、鬼ごっこはほとんど成立していないのに、タイマーは動き続けてしまうという曖昧な時間が生まれてしまいました(動画6:45~7:25)」
危機管理の専門家の増沢隆太さん。東北大学では、博士人材育成ユニット(PhDC)特任教授を務める。
Zoom取材の様子をキャプチャー
この発言を増沢さんは「非常に良い説明だ」と見る。
「要するに『アクシデントでした』と言っているのですが、そこで『アクシデントなので仕方ないです』と言い訳するのではなく、『アクシデントが起こることを想定していなかった自分が悪い』と言っているのです。
アクシデントだから仕方がないというのは一面真実なのですが、それは謝罪の場で言うことではありません。
よく企業や政治家が『想定外』という言葉を使いますが、ヒカキンさんがいいのは、『そのくらいは想定しておくべきでした』という態度ですね。『想定外なので許してください』と言って納得する人はほとんどいないのです」(増沢さん)
「世間」に謝罪しない。誰に謝るのかを明確にする
最後にヒカキンさんは
「繰り返しにはなりますが、参加してくださったチャレンジャーの皆様、エキストラの皆様、そしてスタッフの皆様、さらには楽しんでくださった視聴者の皆様、この度は誠に申し訳ございませんでした(動画11:25~11:40)」
という謝罪の言葉で締めくくる。
謝罪の対象と順番は適切だったのだろうか。
「とてもいいと思います。よく著名人が『世間を騒がせたことをお詫びします』と言いますが、あの言葉は全く心に響かないでしょう。なぜなら誰に謝っているかわからないからです。
まず何よりも謝るべき相手は実際にゲームに参加した人たちです。彼らは被害者ですから。ここを押さえている。視聴者からの炎上を防ぎたいということが本音なのかもしれませんが、『世間』などの漠然とした言葉を使ってはいけないのです。まず直接の被害者に謝ることが重要です」(増沢さん)
ビジネスパーソンにとって謝罪は「BCP」である
最後に増沢さんは“謝罪のゴールを意識すること”が重要だと述べた。
「有名人にとって困ることは何でしょうか? それは悪いイメージがついてビジネスができなくなることです。『謝罪するほど悪いことをした人』というイメージが残ってはいけないのです。
究極の謝罪のゴールとは『謝罪したことすら忘れ去られること』。『謝っていたような気がするけどなんだっけ?』というところまでいけば成功です。
土下座して謝罪するような人もいますが、土下座というのは強烈で異様な行動ですから人々の記憶に深く刻まれます。『土下座するほど悪いことをしたんだな』という印象がずっと残るのです。これではその後ビジネスができません。(ビジネスパーソンの観点で言えば)謝罪はBCP(事業継続計画)なのです。
謝罪の後もビジネスが継続できるかどうかという観点で考えるべきです。その点、ヒカキンさんの謝罪はBCP的に考えて正しい方法でした」
(文・杉本健太郎)