メタの自社イベント「Meta Connect」の基調講演でスピーチするマーク・ザッカーバーグCEO。
出典:Meta Connect Keynote 2022より
メタが2022年の発表を予告していたVRゴーグルの上位モデルをついに発表した。
10月11日(現地時間)、メタのマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)CEOは、メタバース技術やビジネスに関する開発者会議「Meta Connect」をオンラインで開催した。
1年前に開発が公表されていたVRヘッドマウントディスプレイ「コードネーム:Project Cambria」こと「Meta Quest Pro」をついに正式発表した。
さらに、メタバース領域におけるマイクロソフトとの協業なども公表され、まさにメタのこの1年間の集大成とも言える発表会になっていた。
その詳細を3つのポイントに分けて解説する。
【1】性能強化で20万円を超えた「Quest Pro」
正式発表された「Quest Pro」。
出典:Meta Connect Keynote 2022より
まず、10月25日に出荷開始となる「Meta Quest Pro」は2020年9月発表の「Meta Quest 2(当時はOculus Quest 2)」の、新たな上位機種という位置付けの製品だ。
その「上位らしさ」は、価格にも垣間見ることができる。Quest 2の直販価格が最廉価の128GBモデルで5万9400円(税込)なのに対し、Quest Proは256GBモデルのみの展開で22万6800円(税込)。同容量のQuest2と比べても約3倍も高い。
専用コントローラーには3つのカメラを搭載し、コントローラー単体で空間認識ができるようになった。
出典:Meta Connect Keynote 2022より
付属品の一覧。ゴーグルを置くだけで充電できる専用充電器も付属する。
出典:Quest Pro販売ページより
価格の違いは、Quest Proが持つ性能にある。Quest Proの主な特徴は以下の通りだ。
- 新型パンケーキレンズと高精細な液晶ディスプレイにより、Quest 2と比べて画面密度は37%向上、色域が1.3倍拡大。解像度は片目あたり1800×1920ドット
- チップセット(SoC)はクアルコムとメタが共同開発した「Snapdragon XR2+ Gen1」
- メモリーは12GB。ストレージは256GB版のみ
- AI推論をベースにしたリアルタイム表情トラッキングに対応
- Quest 2ではモノクロ映像だったパススルー(本体カメラを通して現実空間と拡張現実の映像を組み合わせる)機能が、フルカラーで4倍の解像度に
- 2台のコントローラーは触感フィードバックに対応。各コントローラーに3つのカメラを搭載し、コントローラー単体で360度の空間検知が可能に
- 専用の充電台が付属
- Quest 2対応のアプリやゲームはすべて使える(後方互換性がある)
次世代VRゴーグルとしての「実力」は実機を試してみるまではわからないが、性能の向上だけではなく、頭に装着するバンド部分の後ろ側にバッテリーを搭載して重量バランスを取っている点や、充電台を用意するなど、Quest 2の経験からフィードバックを取り入れている印象がある。
なお、資料によるとバッテリーでの駆動時間は1〜2時間程度。ケーブルで充電しながらの操作も可能。
【2】MSのナデラCEOも出演、マイクロソフトとの連携強化
Meta Connect Keynote 2022にはマイクロソフトのサティア・ナデラ会長兼CEOも登壇した。
出典:Meta Connect Keynote 2022より
Meta Connectの基調講演から伝わってくるのは、VR/MR/ARの本格的なビジネス利用だ。
Quest 2でもメタによるバーチャル会議室「Horizon Workrooms」などの仕事に使えるツールは存在したが、Connectではさらに踏み込んだ「実用性」を打ち出していた。
定番のビジネスコミュニケーションツールの1つ、Microsoft TeamsのVR版。基調講演で披露された。
出典:Meta Connect Keynote 2022より
その象徴的な発表はマイクロソフトとの協業だ。Meta Connectにはゲストとして、マイクロソフト会長兼CEOのSatya Nadella(サティア・ナデラ)氏が出演した。
マイクロソフトとの協業により、以下の内容がQuest ProとQuest 2で利用できるようになる。
- Quest上でMicrosoft Teamsのミーティングに参加可能に
- メタのVR会議アプリ「Horizon Workrooms」からもTeamsのミーティングに参加できる
- Teamsでメタのアバターが利用可能に
- Word、Excel、PowerPoint、SharePointなどの「Microsoft 365」製品を操作できる
- 「Windows」をストリーミングする法人向けサービス「Windows 365」にアクセス可能に
- Questがセキュリティー管理に必要な「Microsoft Intune」と「Azure Active Directory」に対応
メタのVR会議アプリ「Horizon Workrooms」からTeamsに接続している様子。左の画面の人たちはTeamsから参加しているようだ。
出典:Meta Connect Keynote 2022より
それぞれの機能は今後数カ月に順次、提供される見込み。
Microsoft 365関連のアップデートは、「VRで仕事ができる」環境を一気に拡大する上で欠かせないものの1つだ。また、特にTeams関連の新機能は、会議相手は普段使い慣れたTeamsに参加するだけでいいので、「普通に会議に参加したら、相手はVR空間にいた」ということが起きうる。
なお、上記のビジネス向け機能に加え、マイクロソフトのクラウドゲーミングサービス「Xbox Cloud Gaming(ベータ版)」も、Quest向けに提供される予定だ。
【3】メタ純正の会議室もVR空間から現実世界へ
出典:Meta
ビジネス向けで言えば、メタのVR会議ツール「Horizon Workrooms」自体にも新機能が追加される。
Quest Pro独自の機能としては、ゴーグル内のセンサーを利用した表情検出機能に対応。自然な表情をアバターでも再現でき、対面のコミュニケーションに近づく。
そのほかにも、ビデオ会議アプリ「Zoom」などでおなじみのブレイクアウトルーム(参加者をグループに分ける機能)、ホワイトボードの付箋機能、最大3つのバーチャルスクリーンの対応、3Dモデルの表示機能も予告された。
また、Teams同様、Zoomとの連携も発表しており、2023年初頭にはZoom経由でのWorkrooms参加が可能になる。
Magic Roomのイメージ。現実の空間にアバターやオブジェクトを登場させるMR(複合現実)の実用ツールを目指している。
出典:Meta Connect Keynote 2022より
なお、実験的な機能として「Magic Room」もデモとして公開された。
Horizon Workroomsが、ビデオ参加者以外はVR空間でアバターでコミュニケーションをする「完全VR空間の会議」に対し、Magic Roomは現実空間にアバターやオブジェクトを表示する複合現実(MR)的なアプローチの機能になる。
Magic Roomはまだ開発中ということで、開始時期は未定。また、Quest Proのフルカラーのパススルー機能がキーになってくるため、モノクロ対応のみのQuest 2で利用できるかはまだわからない。
(文・小林優多郎)