米金融大手ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)からテック人材の流出が相次いでいる。その行く先は……。
AP Photo/Richard Drew, File
ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)がエンジニアの相次ぐ離脱に苦しむ傍ら、アマゾン、グーグル、さらにはウォルマートが過半数株式を所有するフィンテック企業ワン(ONE)などのテック企業は、米ウォール街を代表する金融大手を見限った人材の受け皿として「棚からぼた餅」を貪(むさぼ)っているようだ。
会員制の幹部人材ネットワークを運営するパンクス・アンド・ピンストライプス(Punks&Pinstripes、P&P)が編集整理したリンクトイン(LinkedIn)のデータをInsiderが分析したところ、今夏だけでおよそ430人がゴールドマンを去ったことが分かった。
P&Pは、2022年6〜8月にゴールドマンを退社して他社のポジションを得たリンクトインユーザーのプロフィールを追跡調査した。
ゴールドマンが米証券取引委員会(SEC)に提出した第2四半期(4〜6月)決算報告書によれば、同社の従業員数は約4万7000人。
6〜8月に同社を去った従業員のうち20%強はテック関連のポジションで、その多くが他の大手テック企業に移籍している。
ゴールドマンのエンジニア職の離職率は、テック企業における離職率とさほど変わらない。そして、この夏の退社数がこれまでと比べてどれほど違うのかも明らかではない。
それでも、ゴールドマンから大手テック企業に幅広く人材が流れた事実は、業界を問わずテックワーカーがどこでどんなふうに働きたいと感じているのか、あらためて考えさせてくれる重要な問題提起と言える——P&P創業者のグレッグ・ラーキンはそう語る。
「テック企業のテクノロジストとして働くことと、単にテクノロジーを活用している企業で働くことは、まったく異なる職業体験なのです。
経験豊富で業界歴も長いシニアレベルのテクノロジストが、組織の意思決定に関与するポジションに就きながら、自分の仕事や居場所がないとしたら、不満も募るに違いありません。
事実そうなってしまったら、その気持ちを元に戻すのは難しいでしょう」
ゴールドマンの広報担当にコメントを求めたが返答は得られなかった。
ゴールドマンが近年、テック系従業員に対して(状況改善を図ろうと)積極的にアクションを起こしてきたのは確かだ。
例えば、Insiderは今年8月、同社が2019年にアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)からマルコ・アルジェンティを引き抜き、最高情報責任者(CIO)に就任させた経緯を詳しく報じた。
アルジェンティにとっての優先事項は、エンジニアの開発者の環境改善を加速し、ソフトウェアやプロダクトの開発プロセスにおいてイノベーションの妨げになる「ボトルネック」を解決することだったと、当人がInsiderの取材に答えている。
アルジェンティをCIOに据え、イノベーションを育む環境整備を進めた成果は、ひとまずすぐに表れた。
ゴールドマンのデイビッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)は2021年11月、アルジェンティの古巣であるAWSから技術支援を受けて「GSファイナンシャル・クラウド・フォー・データ(GS Financial Cloud for Data)」のローンチを発表した際、巨大テック企業の手法を手本にしたことを明らかにしている。
ソロモンはAWSが主催したラーニング(学習型)カンファレンス「re:Invent 2021」で次のように語った。
「我々は皆さん(のような巨大テック企業)のやり方を見てたくさんのことを学んできました。おかげで金融サービス分野には膨大な機会が眠っていることにも気づかされました。
とりわけ、オフプラットフォームでバンキング・アズ・ア・サービス(BaaS)を提供する、我々の新たなパートナーシップ(GSファイナンシャル・クラウドを指す)には大きな可能性があると考えています」
退職者の「受け皿リスト」
【図表1】ゴールドマン退職者の「受け皿」トップ10社。テック関連職(群青色)と非テック職(水色)を分けて表示。2022年6〜8月のリンクトイン(LinkedIn)データに基づく。
Punks & Pinstripes (Source) , Taylor Tyson/Insider (Chart)
ところが、この夏にゴールドマンのテック系人材を最も多く引き抜いたのは、「新たなパートナーシップ」を組んだばかりのアマゾン(Amazon)だった。
2022年6〜8月の期間に、アマゾンはシニアプロダクトマネージャー、エンジニア、サイエンティストなど8人のテック系人材をゴールドマンから獲得した。
また、グーグル(Google)、JPモルガン(JPMorgan)、さらにゴールドマンの一般消費者向けサービスの責任者を務めたオメール・イスマイル率いるフィンテック企業のワン(ONE)も、それぞれ6名のテック系人材を引き抜いた。
さらに、ゴールドマンの資産管理部門からスピンアウトした太陽光発電スタートアップのMN8(エメネイト)も13人のゴールドマン元従業員を採用した。
同社のジョン・ヨーダー社長CEOはゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)で再生可能エネルギーグループの責任者を務めた人物。
ゴールドマンのスピンアウト時の発表によれば、後にMN8に改称する太陽光発電プロジェクトを担当していたGSAMの従業員約100人がMN8に移籍する計画という。
今夏、ゴールドマンが多数の退職者をした背景には、特に一般消費者向け金融を手がける部門からの離脱が顕著なトレンドになっていることが挙げられる。
Insiderは8月、ソロモンCEO肝煎りの一般消費者向けサービス「マーカス(Marcus)」のプロダクトマネジメントを任された経営幹部6人全員がその後退社するか、あるいは別の管掌に転じたことを報じた。
マーカス事業については、ソフトウェアエンジニアなどテック系従業員の多数退社がリンクトインのデータから確認されており、Insiderも2021年4月に昼夜を問わない激務などを理由とした離職が急増する深刻な実態を報じている。
最後に触れておきたいのは、ゴールドマンのテック系人材が他のテック大手に広く流出している事実は間違いなくあるものの、それでも(話をテック系に限定しなければ)今夏の約430人という退職者の多くは他の大手金融機関に移籍している事実だ。
最大の受け皿となった(そして受益者となった)JPモルガンは、18人のゴールドマン退職者を採用(うち6人はテック系)。
シティグループ(Citi Group)とモルガン・スタンレー(Morgan Stanley)も、それぞれ12名のゴールドマン・アルムナイを採用した(後者は1人がテック系)。
また、ブラックストーン(Blackstone)は11人(テック系3人を含む)、ブラックロック(BlackRock)は7人のゴールドマン元従業員を受け入れた。
バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)も5人を採用している(テック系1人を含む)。
(翻訳・編集:川村力)