ゴールドマン・サックスは2022年9月、数百人規模の人員削減を発表した。2年にわたる新型コロナのパンデミック時には解雇を休止していたが、それを経て経費削減に踏み切った初のウォール街企業となった。
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- 雇用市場は徐々に雇用主側に有利な方向にシフトしていると労働専門家がInsiderに語っている。
- 景気が落ち込むと、労働者は最低限の仕事さえしていればいいというわけにはいかなくなりそうだ。
- つまり、「静かな退職」をする者が不況時に真っ先に解雇される可能性があると、専門家は指摘している。
新型コロナのパンデミック以降、それまでのアメリカ人の慌ただしい働き方に反発するように「大退職(Great resignation)」や「静かな退職(Quiet quitting)」といったトレンドが現れ、労働市場は労働者に有利な方向に動いていた。だが今、雇用主側が優位に立とうとしていると警告する労働問題専門家がいる。
つまり、経済が不況へと向かう中で、職場で必要最低限の仕事しかしてこなかった従業員が、真っ先に解雇通知を受け取ることになるかもしれないということだ。
「景気がいいときには、雇用主はやる気のない従業員にどうやって仕事をさせるか考えてきた」と女性リーダーのためのコミュニティ、アテナ・アライアンス(Athena Alliance)のCEO兼創設者であるココ・ブラウンCoco Brown)は述べている。
「景気が悪くなると、雇用主はやる気のない従業員の中から誰を解雇しようかと考えている」
雇用主と従業員の間の争点の1つは「静かな退職」という概念だ。これは最近の流行語で、基本的な職務はこなすが、要求された以上のことはしないことを表している。
従業員は、あえて控えめに仕事をし、「給料に応じた労働(acting your wage)」をするのはやましいことではないと主張するが、ResumeBuilder.comが2022年9月に1000人の管理職を対象に行った調査によると、最低限のことしかしていない従業員を解雇することは正当なことだという回答が75%に上った。
「『大退職』や『静かな退職』といった言葉がよく使われているが、そのうち解雇に関する会話をするようにだろう。そして労働者は解雇されないようにするにはどうすればいいのかという重大局面に陥ることになる」とエグゼクティブコーチで『Digital Body Language』の著者であるエリカ・ダワン(Erica Dhawan)はInsiderに語っている。
「『静かな退職』をしている人の多くは、不況になると真っ先に解雇されるか、解雇されるかもしれないという脅威に気付いてすぐに通常の働き方に戻るだろう」
しかし不況の中で再び優位に立った企業側が、過去3年間で改善されたワークライフバランスを後退させることは間違いだと、クアルトリクス(Qualtrics)のチーフワークプレイスサイコロジスト、ベン・グレンジャー(Ben Granger)は述べている。そのようなことをすれば、将来的に企業が優秀な人材を獲得しようとする際にマイナスの影響を受けることになるというのだ。人員削減がどのように行われるのか、これまでになく簡単に知れ渡るようになっているからだ。
「今は人材採用に関して優位に立っている企業でも、それがいつまでも続くわけではない。立場が逆転することもある」とグレンジャーは言う。
「そうなったとき、将来の求職者に対してポジティブな立場でいられるだろうか」
アメリカの労働者の23%が、不況で職を失うことを「非常に心配している」と回答
「静かな退職」はインターネット上で流行語となっているだけでなく、10年前からアメリカの労働者の半数が「静かな退職」をしているという統計もあるが、実際には多くの労働者が仕事を続けたいと考えている。
インサイトグローバル(Insight Global)が2022年6月に1000人以上のアメリカ人を対象に行った調査では、労働者の23%が次の不況で職を失うことを「非常に心配」していると回答している。また管理職の87%が不況時には従業員を解雇しなければならない「可能性が高い」と回答している。
これまで雇用の安定性について気にしなかった労働者が明らかに変わり始めたのは、レイバー・デー(9月第1月曜日、2022年は9月5日)の前後だったと、企業価値に関するカンファレンスを主催するFrom Day Oneの共同設立者兼チーフ・コンテンツ・オフィサーであるスティーブ・ケップ(Steve Koepp)はInsiderに語っている。彼は労働市場の現状を、空席がなくなった椅子取りゲームに例えている。
「企業は人を集めるのに必死になり、福利厚生や報酬など、あらゆる種類の待遇強化を提示してきたが、この夏にそれが一段落したようだ」と彼は言う。
「企業が必要とする人材と採用可能な人材の労働市場でのギャップは約半分に縮小した」
しかし、アトランタを拠点とするビジネスアドバイザーでエグゼクティブコーチのジェイ・マクドナルド(Jay McDonald)は、「静かな退職」をしている人のすべてが職を失うわけではなく、パニックになる必要はないと述べ、現在はまだ労働者主導の労働市場だと指摘している。
「『静かな退職』をしていても、多くの貢献をしている可能性はある。つまり『静かな退職者』であるかどうかにかかわらず、自分の提供している価値が給料に見合っているかどうかが重要だ」と彼は言う。
「なぜなら最初に解雇されるのは、指標と生産性の観点から最も費用対効果の低い従業員だからだ」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)