世界の企業が目の色を変えた。企業と投資家が「環境問題」を重視する理由

旱魃や大雨、頻発するハリケーン──。「異常気象」とされる現象は近年、もはや「異常」ではなく「常態」となってきた。こうした状況に直面するなかで企業は今、気候変動や生物多様性などの環境問題に否応なく対応を迫られている。環境問題解決のために、企業に今、何が求められているのか。すでに動き始めている企業は、どのように課題解決に取り組もうとしているのか。

SDGsの専門家として世界の企業の動きに着目する日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリストの村上芽氏に、企業が取り組むサステナビリティ経営の動向について聞いた。

「気候変動」「生物多様性」放置できない課題が山積

日本総合研究所の村上芽氏

村上芽(むらかみ・めぐむ)日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト。京都大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)を経て、2003年日本総合研究所入社。ESG投資の支援やSDGs、子どもの参加論などが専門。

──私たちは異常気象に直面し、環境問題に強い危機感を抱くようになっています。こうした問題をグローバル企業はどのように認識しているのでしょうか。

村上芽氏(以下、村上):企業にとっての環境問題は、大きく2つのテーマに分けられます。すなわち気候変動生物多様性です。

気候変動に関しては「2050年・カーボンニュートラル」が、世界の共通目標となっており、この目標達成に向けて特に先進国の企業でカーボンニュートラル競争のような状態になっていました。ところがロシアによるウクライナ侵攻が起きたために、シナリオが一変してしまいました。石炭から天然ガスへ、エネルギー源の切り替えが容易にはできなくなり、いったん石炭に頼らざるを得ないのが現状です。とはいえカーボンニュートラルを諦めるのではなく、早急に元のプロセスに戻さなければなりません。そのための投資が今後、活発になると見ています。

──もう一つのテーマである生物多様性は、企業活動からは少し遠いテーマのようにも思えますが……。

村上:そうした企業の意識を一気に変えたのが、新型コロナウイルス感染症です。想定外のパンデミックにより、生物多様性も含めた自然との付き合い方を、企業も改めて考え直すようになりました。生物多様性を維持するような自然との付き合い方に変えないと、いつまた新たな感染症が起こるかわかりません。ひとたび世界規模で感染症が起これば、経営にどれほどのダメージを与えるかをグローバル企業ほど痛感したはずです。そこで新しく広がってきた考え方が「ネイチャー・ポジティブ(Nature Positive)」です。

──「ネイチャー・ポジティブ」とは、どのような考え方なのでしょう?

村上 単に自然を保護したり自然環境を回復したりするだけでは、もはや不十分で、どうすれば今よりも環境を改善できるかと考え方を変えなければなりません。仮に橋などのインフラを新たに造るなら、開発による環境破壊を抑えるのはいうまでもなく、そのインフラによるプラスの価値を視野に入れる必要があります。すなわち新たな橋を含む環境改善により、水害を防ぐほかに、周辺に暮らす生物にとってのよりよい環境づくりまでを考えるのです。何をするにしても自然環境を今より良くする発想で取り組まないと、もう間に合わないのではないか。そんな危機意識が、投資家にも共有され始めています。

SDGsを経営に生かすには?

綺麗な海の画像

bru_greg/Getty Images

──投資といえば、以前からESG投資がキーワードになっていました。

村上:当初、投資家の主な関心の対象は気候変動でしたが、その意識もコロナの影響により変化しています。2021年にイギリスで開催されたサミットでは、当時の英・ジョンソン首相が「コロナ禍を繰り返さないためには、どうすればよいか」をテーマに打ち出しました。自然環境を人間が壊してしまったために、野生動物の生活圏が変えられてしまった。その結果として動物から人へと感染症が拡大する。この悪循環を止める必要性が、共通認識になっているのです。もとより投資家が意識を変え始めた背景には、最近の異常気象の頻発もあると思います。なにしろ現状は、以前から予測されていた異常気象の中でも最も悲観的と思われていたシナリオが、世界中で現実化し始めていますから。

──ここ数年で、SDGsも定着しましたね。

村上:先鋭的な企業にとって、SDGsは一種の羅針盤となっているのではないでしょうか。例えば、米・カリフォルニア州は、ガソリン車の新車販売を、2035年までに全面禁止すると発表しました。これにはハイブリッド車も含まれています。カリフォルニア州はいつも動きが早いのですが、追随する州もでてきました。

当然このような動きは、自動車産業全体へと影響を及ぼし、日本の企業も反応せざるを得なくなります。ここでSDGsを念頭におけば、動力源だけを見るのではなく、資源や雇用のことも検討項目としておくよう影響の範囲を広げて考えられます。見方を変えれば、企業にとってSDGsへの対応は、これからの宝の山ともいえるのではないでしょうか。

──SDGsが宝の山ですか。

村上:そもそも企業とは、何らかの問題解決をビジネスとしているわけです。SDGsに書かれている169のターゲットの中から、自社で対応可能な課題を見つけられれば、その解決はビジネスチャンスとなります。もちろんSDGsができる2015年より前から、同じような課題に取り組んでいた企業はたくさんあります。そうした企業でも「SDGsの何番に取り組んでいます」といえば、それで理解され評価までしてもらえるようになったのはメリットだと思います。

見逃せない、採用への影響

──日本企業で目立った動きはありますか。

日本総合研究所の村上芽氏

村上:例えば、日清食品ホールディングスが特に若い人たちから注目を集めています。食品関係で環境といえば、サントリーなどがまず思い浮かぶのではないでしょうか。ところが最近の学生に意見を求めると、日清食品をあげる人が増えています。カップヌードルを若者が一人ですすっている情景を思い浮かべると「健康によくないのでは…」などと思いがちです。ところが、今のカップヌードルは食品としての健康への配慮はもとより、容器などプラスチック問題への取り組みにも力を入れていて、それらがプラスイメージとなっているのです。ここ最近マイクロプラスチックの問題が取り上げられるようになったのも、注目を集める背景となっているかもしれません。

──若者から支持を集められるのは大きいですね。

村上:環境意識の高まりの影響をダイレクトに受けているのが採用です。そもそも少子化が進む日本では、若者の採用自体が難しくなりつつありますが、環境に無関心と判断されると、就活に臨む若者の選択肢から外れてしまう恐れがあります。そのため自社の環境問題への取り組みに最も敏感になっているのは人事担当者だったりします。業種業態にかかわらず、やはりまず経営者が環境問題に関心を持つ必要があるでしょう。

──環境問題に関係する若者といえば、グレタ・トゥーンベリさんが有名です。

村上:彼女も注目されていますが、ヨーロッパでエネルギー関連の企業経営者は「緑の党」の躍進ぶりを注視しています。こうした政党が政治に影響を及ぼすようになれば、企業としては何らかの対応を迫られる可能性が出てくるからです。 また最近のヨーロッパでは「環境のための直接行動」と呼ばれる動きが出現しています。ウクライナ問題でエネルギー価格が高騰する状況で、例えば、夜に閉店後も看板だけ明かりをつけている店などが「けしからん」と狙われるのです。看板のスイッチが切られるのはまだましで、ひどいケースでは看板を破壊されることも。環境問題については抗議活動が過激化するリスクを、これからの経営者は頭においておく必要があるのではないでしょうか。

環境意識の世代間ギャップはどう埋める?

異常気象の影響

Bilanol/Getty Images

──今年8月に開催されたブループラネット賞の30周年シンポジウムでも、大学生を中心にまとめられたユース提言が注目を集めました。

村上:私は最近、若い世代と話していて個人的に驚く経験をしました。気候変動、SDGsから難民問題に至るまで幅広く関心を持っている若者と話しているときに、彼女がこう言ったのです。

「“気候変動”が大変な問題らしいのは、よく分かりますが、私自身は“気候変動”を感じた経験が全くありません」

なぜかと尋ねると「生まれてからこれまで、夏は毎年めちゃくちゃ暑くて、ゲリラ豪雨のような雨も、ずっと同じように毎年降っていますから」と答えました。

私たちの世代は「昔は違った」と思うけれど、若い世代には「昔は」に相当する時代がないわけです。だからこそ、将来に対する危機感も強いのだと思います。

──過去の「異常気象ではなかった時代」を知る者にとっての「当たり前」と、今の若い人たちでは「当たり前」が違うわけですか。

村上:気候変動に関する世代間ギャップには、私たち年上の世代が注意する必要があると思います。気候変動とひとくちにいっても、スタートをどの地点に置くかによって見え方がまったく違ってくるからです。だから、やはり私たちが意識して、若い人たちにとっての「当たり前」が何であるのかを考えて歩み寄る必要があると思います。自分にとっての常識を疑うのは、意識的にやらないとなかなか難しい作業です。けれども自分たちの常識と若い人たちの常識は違うんだと、認識を改めるところからスタートしないと、もはや問題解決は難しいと思います。

──ブループラネット賞の受賞者たちは、30年前から環境問題に警鐘を鳴らし続けてきました。

村上:今回改めて過去の受賞者たちのアーカイブをひと通り拝見しました。その印象をひと言で表現するなら「30年前からずっと、同じ危機感が訴えられ続けてきた」ということです。

環境問題への取り組み方、その答えはずいぶん前にすでに出されている。にもかかわらず、現実的な取り組みがあまり行われてこなかった。だから今に至っているわけです。具体的な動きの取られなかった理由は、おそらく30年前にはまだ異常気象が今ほど頻発していなかったからでしょう。けれども今、その放置された30年のツケが回ってきるのではないでしょうか。もはや悠長な態度を取り続けられる状況ではありません。気候変動が現実となりつつある状況を踏まえるなら、誰もが、自分ごととして環境問題に取り組む必要があると強く感じました。


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