Alex Wong/Getty Images; Rachel Mendelson/Insider
マーク・ザッカーバーグは辞めるべきだ。
メタ(Meta)のCEOの座を降り、別の人間にFacebook、WhatsApp、Instagramの運営を任せる必要がある。その上で、自身の膨大な資産とベンチャーキャピタル(VC)のコネを使って「メタバース」というビジョンを実現するスタートアップを立ち上げるべきだ。
そうすることが彼の帝国を彼自身から守る唯一の方法だろう。社会にとってもそれが最善であることは言うまでもない。
10月11日、ザッカーバーグが新たな方向へ踏み出す必要があることを示す兆候がまた見られた。この日メタは「Meta Connect」なるカンファレンスを開催した。要は、メタの開発者たちがメタバースの中で作り出したクールなテクノロジーをお披露目する場だ。そうすることで、メタバースこそ目指すべき未来の世界だと人々を納得させ、この新しいテクノロジーには巨額投資の価値があると投資家たちに納得させようというわけだ。
で、メタはこのカンファレンスで何を発表したか。ただでさえインターネット疲れをしている私たちを、それでも1500ドルのヘッドセットを買ってザッカーバーグの言うメタバースにコネクトする価値があると説得するために何を発表したのかというと——足! 足のあるアバターだ!
そう、彼らの一大発表とは何のことはない、それまで胴体だけで浮遊することしかできなかった同社のメタバースプラットフォームのアバターに足が付いた、というものだった。
この発表に際し、ザッカーバーグは興奮のあまり飛び跳ねていたが、残念ながらその興奮を共有できる人は世界にそう多くはないだろう。
上半身が浮遊していたアバター(左)に、ついに足が生えた(右)。
"Watch Mark Zuckerberg Reveal Next-Gen Avatars With Legs!" YouTubeよりキャプチャ。
メタは2021年にメタバースの開発に100億ドル(約1兆4500億円、1ドル=145円換算)を費やしたが、その成果はほとんど出ていない。2022年2月にメタが発表したところでは、同社のメタバース「Horizon Worlds」にログインしたユーザーは月間30万人しかおらず、Facebookの月間アクティブユーザー数29億人とは比べるべくもない。
金融関係者は事の趨勢を見守っているが、メタの株価が年初来約60%下落していることから見ても、眉をひそめていることは間違いない。
ザッカーバーグはFacebookとInstagramという、極めて収益率の高いプラットフォームを2つ所有しているが、それらも人気は下り坂だ。2021年末には初めてFacebookのユーザー数が減少した。FacebookもInstagramも、若いユーザー層をTikTokに、熟年層をメンタルヘルスへの懸念により奪われつつある。
今のメタには現状を直視できるリーダーが必要
メタは現在、かつてないほどに厳しい向かい風に直面している。目下の経済は、Facebookが2012年の上場以来経験したことのない世界的不況に突入する様相を示しており、テック企業の収益性は利上げとドル高による打撃を受けている。
おまけにアップルがプライバシーポリシーを変更したせいで、FacebookとInstagramのユーザー情報の収集に制限がかけられてしまった。メタの概算によると、この変更によりメタは2022年、100億ドル(約1兆4500億円)の広告収入を失うことになるという。さらにピュー・リサーチセンターの調査によれば、アメリカ国民の大半が同社のビジネスモデルを疑わしく思っているという。
今、メタの事業はパニックモードに追い込まれており、同社は密かにレイオフに着手しているとも、インターンシップのオファーを取り消しているとも言われている(編集部注:メタは11月9日、全従業員の13%に当たる1万1000人を解雇すると発表した)。
経済状況だけではない。メタは中核となるプラットフォーム事業の存続に関わる脅威に晒されている。わずか10年の間に、ソーシャルメディアについての私たちの認識がことごとく逆転しているのだ。
世界を結びつけることは(あるいはシンプルに高校時代の同級生と近況報告をし合うことも)、もはや心躍ることではなくなっている。メタのプラットフォームは暴動、大量虐殺、摂食障害など、さまざまな問題を助長してきた。Facebookが社会に与えた傷は深く、いわゆるアルゴリズムというものには悪者のレッテルが貼られてしまった。
こうした諸々のマイナス要因が相まって、人々がメタから離れつつある。Facebookのグローバルでのアクティブユーザー数は減少から再び増加へ戻ったとは言うものの、メタの旗艦アプリがユーザー数を急激に減らす懸念は強まっている。
これらすべての問題に対処するうえで、とりわけ注力すべきは主力プロダクトの改良、パブリックイメージの回復、そしてメタが経済不況を生き抜けると投資家に示すことだ。
そのためにはアテンションとイノベーションとハードワークが必要だが、ザッカーバーグはそうしたことにはお構いなしで、もっぱらメタの将来として彼が捉えているもの(つまりメタバース)にご執心だ。であれば、もっと熱心で有能な別の誰かに今のポジションを譲り、自身のメタバースショーは新しいスタートアップでやればいい。
先見の明のあるリーダーは急成長期には歓迎されるが、今のメタに必要なのは、同社を曇りのない目で見据えることのできるリーダー、自分が創業者だという感情的な重荷を背負い込んでいない人間だ。ビル・ゲイツも、ラリー・ペイジやセルゲイ・ブリンにもできたのだから、ザッカーバーグがCEOを退くこともできるはずだ。
SNSの立て直しには無関心
ザッカーバーグはどんな分野であれ、自分が身を置く分野を常に「制覇」することに全力を注いできた。彼がメタバースの隅から隅までコントロールすることに血道を上げているのはそのためだ。
ニューヨーク・タイムズのある記事によると、昔の人形のようなメタバース・アバターを茶化されて以来、ザッカーバーグは新たなアバターをつくることに取り憑かれ、グラフィックアーティストに命じて1カ月で40通りの彼の顔を描かせ、そのうちの1つをようやく承認したという。社員たちが同紙に語ったところによると、彼らは当初メタバースプロジェクトのことをMMH、つまり「Make Mark Happy(マークを喜ばせる)」プロジェクトと呼んでいたという。
このようなマイクロマネジメントは、学生寮の一室で起業したばかりのファウンダーならまだしも、フォーチュン500に数えられる問題山積の企業のCEOがやることではない。
仮に徹底的にマイクロマネジメントをしたいというなら、やはりスタートアップこそふさわしい。メタのHorizon部門をスピンオフさせ、億万長者仲間のVCから資金を集めることもできるはずだ(WeWorkを創業したアダム・ニューマンだって先日3億7500万ドルを引き出したのだから、そう難しい話ではないだろう)。
ペイジやブリン、Twitterのジャック・ドーシー(Jack Dorsey)、Uberのトラビス・カラニック(Travis Kalanick)など、元の企業を飛び出して自分が情熱を注げるプロジェクトを始めた創業者の例もある。それに、メタのメタバース部門を切り離して非公開企業にすれば、世間から四の五の言われることなく自身の新たな世界を追求できるじゃないか。
スタートアップなら、他社を買収して自身のビジョンを築くための自由度も増す。目下、連邦取引委員会(FTC)はメタを虎視眈々と監視している。FTCの規制委員たちは、メタの企業規模は大きすぎ、FacebookがInstagramとWhatsAppを買収したのは間違いだったと考えている。
実際、FTCはすでにメタが仮想現実フィットネス企業の買収に着手していることについてメタを告訴している。メタ側は、この告訴は「証拠ではなくイデオロギーに基づくものだ」と述べている。ザッカーバーグがメタバースという構想を広げていきたいのであれば、もうメタの外でやるしかない。
メタバースに関するザッカーバーグの諸々の話から想像するに、彼はFacebookとInstagramを救うことはできないと考え、見殺しにすることにした可能性がある。
おそらく彼は、人気という追い風がなければ、SNSプラットフォームの運営は手間がかかりすぎると考えているのだろう。あるいは、SNSプラットフォームの立て直しなんて気乗りしないのかもしれない。それならそれでけっこうだ。
だがもしそうだとすれば、ザッカーバーグは辞めるべきだ。
※この記事は2022年10月17日初出です。
[原文:It's time for Mark Zuckerberg to step down]
(編集・常盤亜由子)