大賞に輝いたのは熱狂的なミツバチの生態を捉えた写真だった。
Karine Aigner/Wildlife Photographer of the Year
- ロンドン自然史博物館が、野生生物写真のコンテスト「ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」の受賞者を発表した。
- 2022年は3万8000点以上の応募があり、その中から20人の受賞者が選ばれた。
- 受賞作品は「熱狂的なミツバチのボール」「踊るヒトデ」「ブラシのようなクジラの口元」などの姿を捉えている。
テキサス州の熱い砂の上で、サボテンミツバチ(Diadasia opuntiae)がボールのような塊になっている。カリーヌ・アイグナー(Karine Aigner)はその光景にカメラを向けた。
サボテンミツバチは、他の多くのミツバチと同様、生息地の減少や農薬、気候の変化によって絶滅の危機に瀕している。それでもこのハチの群れは繁殖を試みていた。1匹のメスの周りに多数のオスが群がってボールのようになっているのだ。彼らが交尾の機会をうかがって騒ぐ中、アイグナーのシャッターが切られた。
この写真は、ロンドン自然史博物館が毎年行っている「ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」の大賞に輝いた。
2022年は3万8000点を超える応募があり、その中からアイグナーの写真をはじめ、19点の部門賞が選ばれた。
「羽音をうならせながらカメラに向かって転がってくるハチのボールに、さらなるオスのハチが羽ばたいてきた。この動きと緊迫感がマクロで捉えられ、小さなハチだが、メスをめぐって争う大きな生き物に見える」と審査委員長を務めたロズ・キッドマン・コックス(Roz Kidman Cox)はコメントしている。
他の受賞作品も、動物、鳥、海の生物が生きる過酷な世界を写し出している。彼らは減少し続ける生息域の中で狩り、狩られ、さまよい、死に、求愛のダンスを踊り、生き延びようとしているのだ。
「ヤング・フォトグラファー」の部門で大賞を受賞したのは、クジラの口元を捉えた作品だ
Katanyou Wuttichaitanakorn/Wildlife Photographer of the Year
タイに住む16歳のカタンヨウ・ウッティチャイタナコーン(Katanyou Wuttichaitanakorn)は、ホエールウォッチングツアーに参加した際、ニタリクジラが船の近くに浮上するのに遭遇した。その黒い肌、淡いピンクの歯茎、ヒゲのような歯に衝撃を受けた彼はシャッターを切った。その写真が彼の初受賞につながった。
審査委員長のコックスはこの写真を「まばゆいばかりの作品」と評している。
「小さなカタクチイワシのシャープなディテールが、水滴に縁取られた茶色のヒゲが織りなす抽象的な色彩に対して際立って見える」
もう1つの受賞作では、ヘビが不気味なおやつを食べている
Fernando Constantino Martínez Belmar/Wildlife Photographer of the Year
メキシコのキンタナ・ロー州にある「蛇がぶら下がる洞窟」の暗闇で、フェルナンド・コンスタンティノ・マルティネス・ベルマー(Fernando Constantino Martínez Belmar)はユカタン・ネズミヘビが岩の天井から頭を出すのを待っていた。洞窟からは毎晩のように何千匹ものコウモリが飛び出していく中で、ヘビたちは隠れ家から飛び出して餌をとるタイミングを狙っていたのだ。
マルティネス・ベルマーは、暗闇でも目立たない赤いライトを使って、このヘビが獲物をくわえて立ち去るまでの一瞬の狩りの様子をとらえた。
自分よりはるかに大きな獲物を追いかけるユキヒョウ
Anand Nambiar/Wildlife Photographer of the Year
アナンド・ナンビア(Anand Nambiar)は、ヒマラヤ山脈の渓谷でユキヒョウがアイベックスの群れを追い込み、急な崖を突進するのを目撃した。
ユキヒョウは、狩猟、気候変動、生息地を破壊する鉱業などにより、絶滅の危機に瀕している。
消えゆく縄張りをパトロールするメガネグマ
Daniel Mideros/Wildlife Photographer of the Year
南米唯一のクマであるメガネグマの生息数は減り続けている。生息地の消失と分断により、わずか数千頭にまで減少してしまった。
写真家のダニエル・ミデロス(Daniel Mideros)は、エクアドルのキトで、人間の居住地が分断した生息地をつなぐ野生生物用の回廊に設置したカメラで、そのうちの1頭を撮影した。
愛されたマウンテンゴリラが、飼育員の腕の中で息を引き取った
Brent Stirton/Wildlife Photographer of the Year
虐殺されたマウンテンゴリラの群れから生後2カ月の孤児が救出され「ンダカシ」と名付けられた。写真家のブレント・スタートン(Brent Stirton)は、ンダカシの救出に立ち会い、13年後には彼女の死にゆく姿も捉えた。コンゴ民主共和国のビルンガ国立公園で、生涯にわたって彼女の世話をしたアンドレ・バウマ(Andre Bauma)の腕の中で息を引き取ったのだ。
2021年のンダカシの死後、バウマは「彼女を子どものように愛していた」とBBCに語っている。
「彼女は明るい性格で、いつも私を微笑ませてくれた」
廃墟となった集落を襲うホッキョクグマ
Dmitry Kokh/Wildlife Photographer of the Year
シベリアのチュクチ海に浮かぶコリューチン島は、ずいぶん前に人が住まなくなった。その廃墟と化した集落に今、新たな住人が加わった。放浪するホッキョクグマだ。
ドミトリー・コーハ(Dmitry Kokh)は、嵐を避けながらヨットに乗っていたとき、遠く離れた島の建物に出入りするクマを発見した。彼はドローンを飛ばして、その姿を撮影した。
小鳥が大地の声に耳を傾け…
Nick Kanakis/Wildlife Photographer of the Year
写真家のニック・カナキス(Nick Kanakis)は若いハイムネモリミソサザイが餌をとる場面に遭遇した。この地上で暮らす鳥は、コロンビアのタタマ国立公園で落ち葉の上を飛び跳ね、餌にするための小さな虫が出すかすかな音を聞いていたのだ。
…派手な鳥は胸の羽毛を膨らませていた
José Juan Hernández Martinez/Wildlife Photographer of the Year
カナリア諸島に生息するフサエリショウノガンが必死になって求愛のダンスを踊っている。ホセ・フアン・エルナンデス・マルティネス(José Juan Hernández Martinez)は、掘った穴に隠れてその一部始終を見ていた。この鳥は胸の前の羽毛をふくらませて頭を後ろにそらしながら、前に向かって駆け出し、一周して後ろに戻り、しばらくポーズしてからまた同じことを繰り返す。そのポーズの間に羽毛が最大限に膨らんだ栄光の瞬間を捉えたのが、この写真だ。
ヒトデが繰り広げる不気味な交尾ダンス
Tony Wu/Wildlife Photographer of the Year
鳥は交尾の際に相手に認められなければならないが、ヒトデは産卵するだけだ。しかしその産卵を成功させるために、ヒトデは踊らねばならない。上下左右に揺れ動き、震え、うねることで、卵と精子の放出を促し、海流にのせて受精させるのだ。ヒトデの精子と卵で満ちた海の中、写真家のトニー・ウー(Tony Wu)は、この異形の無脊椎動物のダンスを捉えた。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)