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「長年、外資系企業で働いてきましたが、限界を感じています。次の転職では日系企業を選びたい」
——最近、転職希望者の方からそんなご相談を受けるケースが増えてきました。
今、外資系企業で何が起きているのでしょうか。
皆さんも最近、アメリカのテック企業などによる大規模レイオフのニュースを目にしたことがあるかもしれません。アメリカ本国での大規模レイオフに連動し、日本法人でも複数の従業員が解雇された事例もあるようです。
「他人事ではない」と危機感を抱いている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今、外資系企業で働いていて今後のキャリアを検討している皆さん、今後の転職先の選択肢として外資系企業に興味を持っている皆さんに、最近の傾向をお伝えします。
日本マーケットへの注力レベルが低下。日本撤退も
冒頭で、外資系企業出身の方が日系企業への転職を希望するケースが増えている傾向をお伝えしました。
ある40代の方は、外資系企業の日本拠点で部門のトップを務めていました。しかし、そのポジションが中国拠点に移ることになり、居場所を失ったのです。
そこで「中長期的に安定感を持って働くなら、やはり日系企業が安心。年収は下がっていい」という考えに変わったようです。
同様のケースがこのところ頻繁に見られます。
では、なぜこうしたことが起きるのか。残念ながら、グローバル企業がアジアマーケットを開拓するにあたり、日本は注力対象から外れつつあるのです。
人口が減少に向かう日本は、マーケットとしての魅力を失っています。売上拡大が見込める国・エリアに予算を振るのは当然の戦略であり、日本の優先順位が下がっているわけです。
これまでは日本にあったアジアパシフィックのヘッドクオーター(本部)が中国やシンガポールへ移されたり、日本と中国それぞれに設けられていた部門が統合されて中国に置かれ、日本の責任者が解雇されたりするケースが増加しています。
そのため、外資系企業の日本法人の中途採用ポジションも減少傾向にあるのです。
また、私の知人の経験で、こんなケースもありました。
外資系企業に転職してわずか3日目に、日本法人の閉鎖が決まったのです。本国ではM&Aの交渉が進んでいたのですが、日本法人の採用担当者の耳には入っておらず、選考が進んで採用されたのでした。結果、その方はすぐに転職活動をし直すはめになりました。
実はこのパターンの事例も少なくありません。
日本法人の業績が好調であっても、本国の事情で突然クローズとなってしまうケースは結構あるものです。
本国の戦略転換のほか、M&Aが実行された場合、買収した企業の意向によって日本撤退が決まったり、運営方針が大きく変わったりすることがあります。
これから外資系企業への転職を検討するなら、そうしたリスクを想定しておきましょう。そのうえで、自身にとってメリットがあると判断したのなら、転職先の選択肢に加えてもいいのではないでしょうか。
リスクをとれる&志向に合うなら外資系も有効
では、リスクをとってでも外資系企業に転職するメリットには、どのようなものがあるでしょうか。
次のようなポイントに魅力を感じる方、志向にマッチしている方は、外資系企業にチャレンジする価値があるかと思います。
給与水準が高い
外資系企業では、日系企業と同様の職種・ステータスでも年収が1.4~1.5倍ほど高い傾向が見られます。仕事内容がほとんど変わらなくても、日系から外資に移るだけで年収100~200万、中には400~500万円程度上がる人もいます。
ただし、退職金や福利厚生がない分、生涯年収では日系企業とほとんど変わらないケースもあります。
長期的な雇用継続の保証もなく、その分、給与が高いともいえます。
実力が正当に評価される
実力があり、成果さえ挙げれば評価され、報酬に反映されます。
また、日系企業では中途採用選考で「転職歴が多い」応募者をマイナス評価する傾向がありますが、外資系企業では気に留められません。経験・スキルだけで評価され、それがマッチしていれば迎えられます。
成果を挙げれば働き方は自由
求められる成果さえ挙げていれば、働き方の自由度は高いといえます。
勤務時間や休日の取得など、自己裁量でフレキシブルな働き方が可能です。
昔ながらの風土が残る日系企業のように、「上司が帰らないから帰れない」といった「お付き合い残業」などもあり得ません。
年齢・性別にかかわらず昇進のチャンスが平等
外資系企業は日系企業よりダイバーシティが進んでおり、年齢や性別、その他属性によって差別を受けにくい風土があります。
実績を挙げれば若くして昇進も可能ですし、女性にもキャリアアップのチャンスが豊富であるといえます。
「スペシャリスト」の道を極められる
日本企業にはジョブローテーションがあり、専門スキルを磨けないことに不安を感じる方が少なくありません。
また、現場の第一線にいたくても、マネジメントへの移行を求められるのも日本企業にはありがちです。
外資系企業は、いわゆる「ジョブ型採用」ですので、スペシャリストの道を極めていきたい方には向いていると言えるでしょう。
失敗・後悔しないための外資系選びのポイント
外資系企業についてシビアな事情をお伝えしましたが、もちろん企業によって状況は大きく異なります。
外資系企業への転職での失敗や後悔を防ぐため、企業を選ぶ際の注目ポイントをお伝えします。
日本マーケットの位置付け
グローバルで、日本マーケットにどの程度の期待が寄せられ、重視されているかに注目してみましょう。
例えば、欧州の清掃用具メーカーの場合、本国より日本のほうが売上が大きいそうです。
そして、きれい好きの日本人から高評価を受ける製品を開発することで、クオリティがさらに高まり、グローバルでのブランド力向上につながる。そのため、日本のプレゼンスは高い位置に置かれているそうです。
日本法人の裁量範囲
外資系企業では、本国ですべての戦略が決定され、日本法人は本国の方針に従って実行するのみのパターンと、日本法人にある程度の裁量権が与えられているパターンがあります。
当然ながら、前者のパターンでは、自身の考えた戦略やアイデアを実行する余地がなく、物足りなさを感じる方も多いようです。
本国と日本法人のパワーバランス、日本の裁量範囲なども確認してみるといいでしょう。
入社後のキャリアパス
例えば、部長のポジションに就いている人が退職した場合、日系企業であれば、次長または課長が昇進して部長に就く人事が一般的です。一方、外資系企業では、新たに部長ポジションにふさわしい人材を外部から採用します。
これは採用段階で、仕事内容・ポジションが明確に設定されているためです。
とはいえ、部長ポジションに就くだけの実績を挙げていれば、年齢・社歴にかかわらず昇進できるチャンスもあります。
日系企業とは人事の考え方や仕組みが大きく異なりますので、入社後のキャリアパスが自身のキャリプランにフィットしているかどうかを確かめましょう。
※この記事は2022年10月17日初出です。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。