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エネルギー危機先進国・ドイツ 経済と自動車産業に立ちこめる暗雲

2月にロシアがウクライナに侵攻して以降、ヨーロッパはエネルギー危機に直面しているが、収束のめどは一向に立たない。それどころか、ロシアがヨーロッパへの天然ガスの供給を絞っているため、状況は厳しさを増す一方だ。そうした中で、ヨーロッパはこれから冬季を迎えることになる。

これまでもヨーロッパ各国は、冬季に備えて天然ガスの節約と備蓄に努めてきた。とはいえ、厳冬であれば備蓄した天然ガスはすぐに枯渇する。

ドイツを襲う厳しさの理由

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ドイツ・ルブミンの工業地帯にあるパイプライン「ノルドストリーム1」。8月30日撮影。

REUTERS/Lisi Niesner

特に厳しい国はドイツだ。

これまでロシア産の天然ガスをパイプラインで受け取ってきたドイツには液化天然ガス(LNG)のターミナルがない。備蓄した分が枯渇すれば、エネルギー事情が一段と厳しくなる。

当然、計画停電も視野に入る。場合によっては、暖房や温水を使う時間が短く制限されるなど、人々の生活は相当不便なものになるかもしれない。

時間帯によっては、真冬にもかかわらず冷水でシャワーを浴び、寒波でそれを乾かすような、およそ先進国ではありえなかった状況がドイツで現実のものになるかもしれないということである。

企業も同様に、電力や燃料の使用量を制限される可能性がある。工場の操業時間や商店の営業時間を短縮せざるを得なくなるかもしれない。少なくとも暖房については、その使用をかなり制限されるはずだ。

つまり冬季を迎えるドイツの経済には、「消費」と「生産」の両面から、強い制約がかかる恐れがある。

新型コロナウイルスの流行初期において、ヨーロッパで広く実施された都市封鎖(ロックダウン)も、各国の経済活動を消費と生産の両面から抑制するものであった。冬季に大寒波が生じ、エネルギー事情が一段と厳しくなった場合、ロックダウンと似たような制限がドイツの経済にのし掛かることになると考えらえる。

燃料高騰のエネルギー危機に「棚ぼた税」は悪手?

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ドイツ・ミュンヘンに近いガソリンスタンドで給油する従業員。6月1日撮影。

REUTERS/Lukas Barth

ヨーロッパ連合(EU)は現在、天然ガス価格に上限を設けるための協議を各国と進めている。またEUは、エネルギー価格高騰による電力料金上昇で、発電事業者に対して「棚ぼた税」(wind fall tax)を課す方向で合意した。予期せぬ形で巨額の収益が転がり込んできた再エネ事業者の存在が念頭にある。

具体的には、1メガワット時(MWh)当たりの発電収入に180ユーロ(約2.6万円)の上限を設定するものだ。

この「棚ぼた税」で得た収入を、各国政府はエネルギー高に苦しむ家計や企業への支援に充てることになる。エネルギー高に苦しむ家計や企業にとってはまさに朗報だが、一方で、こうした支援策でエネルギー不足そのものは解消しない。むしろ、エネルギーの供給を増やすためには、エネルギー会社に対する減税や投資への助成を強化すべき状況にある。

欧州→米国へ「投資マネー」逃げるか

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REUTERS/Jason Lee/Illustration/File Photo

再エネ事業から高い収益を得られないなら、投資家は再エネ事業に投資などしない。にもかかわらず、政府が再エネ事業の収益に上限を強いてしまえば再エネ事業の収益率が低下するため、投資家は逃げてしまう。

かたやアメリカでは、8月に成立したインフレ削減法(Inflation Reduction Act)の下で、再エネ投資を促すための税額控除が決まった。投資家の視点に立てば、「棚ぼた税」によって一定までの収益しか望めなくなったヨーロッパ各国よりも、税が控除されるアメリカの再エネプロジェクトに投資を行うほうが合理的な判断となってしまう。

実際、投資マネーがアメリカに逃げることを、ヨーロッパの風力発電事業者団体であるWindEuropeは警戒している。

事実、2030年時点における最終エネルギー消費ベースのエネルギーミックスに占める再エネ比率の目標値を「少なくとも40%」と定め、再エネ投資への大号令をかけたEUの戦略観と、この「棚ぼた税」は整合的とはいえない。

右往左往するエネルギー政策、「脱原発」も延期に

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9月13日、ドイツ経営者協会連盟(BDA)のイベントで演説するドイツのショルツ首相。水素が未来のガスになると語った。

REUTERS/Michele Tantussi

エネルギーの安定供給は経済活動の基本である以上、目下のヨーロッパが解決すべきはエネルギー不足であるはずだ。しかしヨーロッパ、とくにEUの場合、脱炭素化・再エネという世界的なメガトレンドの主導権を握ろうという意向が強い。そのため、エネルギー政策が自縄自縛に陥ってしまい、その場その場の都合に合わせて右往左往している印象が強い。

ドイツに話を戻すと、9月末にショルツ政権が年内で稼働を停止する予定だった2基の原発に関して、これを2023年4月まで継続運転する方針を示した。ショルツ政権は当初、2基の原発を非常時の電源として維持しておき、形だけでも年内の「脱原発」を完遂させようとしていたが、結局、「脱原発」は延期に追い込まれた。

「脱原発」はそれまでドイツの民意であったが、深刻なエネルギー不足を受けてドイツの民意は稼働延長に転換した。エネルギー不足がドイツの人びとの生活を苦しめていることがうかがい知れる。

ここでショルツ政権が「脱原発」を敢行し、エネルギー不足に拍車をかけようものなら、ドイツの経済はますます苦しくなる。

今冬のヨーロッパ経済は厳しいものになる

ヨーロッパはこれから冬季を迎えるため、エネルギーの本格的な需要期を迎える。そのため、エネルギー不足による景気への悪影響が本格化するのもこれからだ。しかし、右往左往するエネルギー政策では、エネルギー不足は解消しないし、経済をかなり制約する状況も緩和されない。今冬の経済は厳しいものになるはずだ。

来春になれば暖房需要は一服するため、エネルギーの需給ひっ迫は緩和される。

ドイツでもLNGターミナルの建設が進むため、不足するガスをある程度はカバーできるだろう。とはいえ、エネルギー不足そのものがそれで完全に解消するとは考えにくい。2023年以降も、ヨーロッパのエネルギー事情はドイツを中心に厳しい状況が続くだろう。

ドイツの自動車産業への影響も懸念

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ドイツのウォルフスブルクにあるフォルクスワーゲンの工場で働く従業員(2020年4月撮影)。

Swen Pfoertner/Pool via REUTERS/File Photo

そうなると、エネルギー価格は良くて高止まりとなり、経済に対する制約も強いままだ。それにエネルギー不足が長期化すれば、ドイツでは産業の空洞化が進む恐れが出てくる。すでにドイツを代表する自動車メーカー・フォルクスワーゲンは、LNGターミナルがありガスの供給が安定しているスペインなどへの生産拠点の移転を検討しているようだ。

ヨーロッパの場合、再エネの将来的な普及を見据えつつも、今は「脱炭素化」のスピードを緩めて、現在あるエネルギー源をフル活用してエネルギー不足の解消を優先するほうが現実的な選択となるだろう。とはいえ、その有力な手段となるはずの原子力や石炭火力の利用に関し、ヨーロッパでは慎重な声が根強い。

そのため、ヨーロッパのエネルギー危機は長期化を余儀なくされるのではないか。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

(文・土田陽介

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