Google; Amazon; Met; iStock; Alyssa Powell/Insider
2021年の今頃、テクノロジー業界は活気に満ちていた。テックジャイアントの株価は高騰し、その従業員数はパンデミック開始以来ほぼ2倍になった。従業員は賃金上昇と豊富な雇用機会を享受し、「大退職時代(Great Resignation)」と、従業員の力の復活が叫ばれていた。
しかし、インフレが長期化し、FRB(米連邦準備制度理事会)も強気の対応をとることで、経済の見通しはひどく悪化している。エコノミストや経営者らの多くも景気後退の到来を予測している。いまや焦点は景気後退が来るかどうかではなく、それがどの程度深刻なものになるか、である。
大手テクノロジー企業の経営者たちは、来たるべき嵐の到来に不安な面持ちで身構えている。Insiderが報じた通り、アマゾンの経営陣は10月上旬に開催された全社会議で、「さらなる倹約を徹底」するよう従業員に通達した。
テクノロジー系投資ファンド、セルカウス・キャピタル・マネジメント(Selcouth Capital Management)のマネージング・ディレクター、キース・ホワン(Keith Hwang)は、「ビッグテックはどこも、いわゆる『大躊躇時代(Great Hesitation)』に突入したと見ています」と話す。
「景気がどの程度悪化するのか、誰も完全には把握できていません。ですからテック企業は真っ先にコストの大幅な削減に取り組んでいるのです」
もちろん、悪影響が生じたとしても、そのダメージは一様ではない。比較的影響が少ない企業もあるだろうし、逆に大打撃を受ける企業もあるだろう。
大企業向けのエンタープライズIT製品を提供する企業は比較的影響を受けにくい。企業が容易に削減できるコストも多々あるが、ウェブサイトやクラウドアプリをなくすわけにはいかないからだ。このことは、マイクロソフト(Microsoft)、セールスフォース(Salesforce)、アマゾンのAWS、グーグル(Google)のクラウド部門などにとっては良いニュースだ。
対して、不況下において真っ先に削減される筆頭が広告予算だ。フェイスブック(Facebook)の親会社であるメタ(Meta)は痛手を被るかもしれない。同社は、アップル(Apple)がiOS上のアプリのトラッキング方法を変更したときも数十億ドルの減収に見舞われている。
検索画面とYouTubeからの広告収入に大きく依存しているグーグルも同様に影響を受けるだろう。
ガートナー(Gartner)のアナリスト、ジョン・ラブロック(John Lovelock)は、アップルを除くコンシューマー向けデバイスのメーカーは、値上げの波が消費者の購買力に影響を及ぼしている今、大きな危機にさらされていると語る。
「テック企業で、消費者支出のリスクに晒されていないところなんてないんじゃないでしょうか。2022年はスマホやPC、タブレット、その他あらゆるデバイスの販売数と収益が低調ですし、この傾向は2023年も続く見通しです」
ホワンは、パンデミックの時期に絶好調だったテクノロジー企業こそ危ないと警告する。
「アップルを除けば、テック企業はどこもここ2、3年で自由に使える資金が潤沢になり、従業員数は過去3年間で実質的に2倍になりました。つまりこれらの企業は、明らかに肥大化した部分があるということです」
「静かなるレイオフ」はすでに到来している
この10月初旬、フェイスブックの上級管理職は厳しい指令を受けた。何千人もの従業員をひっそり解雇する方法を見つけろ、というものだ。
Insiderが最近報じたように、同社の管理職は自分のチームの15%もの社員を「要支援」と判定するよう指示された。この判定を受けた従業員は業績改善計画(PIP)に組み込まれ、その後、業績上の理由で解雇されることが多い。
このような「静かなるレイオフ」は、従来のリストラにつきものである退職金や解雇手当を出す必要もなく、さらに悪評も立ちにくいため、企業の間に広まりつつある手法である。
スナップチャット(Snapchat)の親会社であるスナップ(Snap)も、2022年の初めに同様の方法を採用し、下位10%の従業員を強制的に排除するためにPIPに組み込んだと、元従業員は語っている。結果としてスナップは8月、この方法で従業員の約20%をレイオフした。
複数メディアの報道によると、マイクロソフトからアルファベット(Alphabet)、メタまで、さまざまな企業がすでに全面的または部分的な雇用凍結を実施している。
削減対象になっているのは従業員の数だけではない。テック業界を象徴する豪華な社食メニューも削減の危機にある。テック業界は比較的若い人材が多く、2008年の大不況や2000年のインターネット・バブル崩壊のような景気後退を経験していない。これまでは業界ならではの福利厚生や浪費を楽しみ、報酬を天文学的な水準まで吊り上げてきたため、今回の不況で倹約を強いられることは屈辱かもしれない。
複数のメディアが報じたところによると、グーグルが9月に従業員の交流イベント、チームオフサイト、対面式イベントのための出張予算を削減するよう従業員に指示したところ、一部の従業員が「ケチくさい」と憤慨し、全体会議で議論が白熱したという。
不安に駆られて実験的なビジネスや研究プロジェクトの予算を削減している企業も多い。
Insiderが以前報じたように、アマゾンは遠隔医療サービス「アマゾン・ケア(Amazon Care)」や子ども向けビデオ通話装置「グロー(Glow)」のプロジェクトを凍結したほか、ロボット工学チームと「グランド・チャレンジ・ムーンショット(Grand Challenge moonshots)」ラボの規模を縮小している。
同様に、グーグルは社内インキュベーション機関「Area 120」のプロジェクトを半分に減らし、フェイスブックも新製品実験(New Product Experimentation)ユニットの規模を縮小している。
異常な経済崩壊
経済危機が迫るにつれて不安が増すが、2022年の経済状況はかなり特殊であり、予測不可能だと前出のラブロックは指摘する。
「現金とキャッシュフローの問題ではなく、雇用の問題でもない。ただただインフレが原因というこの手の不況は、世界でも例がありません」
今回の不況は「供給サイド」に起因する特殊なものなので、2009年、2001年、1986年に経験した過去の景気回復からの教訓は活かせないとラブロックは言う。
「過去の経験を振り返ってこれから起こることの指針にしようというのは、ダメな解説書を見てゲームをプレイするようなものですよ」
この特異な経済状況にさらなる不確実性をもたらしているのがFRBによる積極的な利上げだ。テクノロジー人材の紹介会社ベッツ(Betts)の最高執行責任者(COO)であるパトリック・ケレンバーガー(Patrick Kellenberger)は、「アメリカ国内のテック系企業や人材紹介会社はどこも、景気はほぼ横ばいになると見ています」と言う。
とはいえ10月末ごろまでには、大手テクノロジー企業がどのような影響を受けているか、将来に向けてどの程度調整しているか、業界関係者ももう少しはっきりと分かってくるだろう。
フェイスブック、グーグル、アマゾン、アップル、マイクロソフト、ネットフリックス(Netflix)などが今後数週間のうちに2022年第3四半期の決算発表を迎える。決算報告を提供すれば、たちまち詮索好きのアナリストからの質問攻めに遭うことになるだろう。
アマゾンのジャシーCEOはすでに、経済の見通しは極めて厳しいと公言している。10月上旬に行われた全社会議のプレゼン資料には、アマゾンのこんなメッセージが明示されていた——「さらなる倹約を徹底せよ」。
(編集:野田翔)