「産後パパ育休」の新設など政府が育休取得を促す一方で、企業にとっては人手不足など悩みも尽きない。そんな不安を解消すべく、保険大手が「育休対応の保険」という新たな保険商品を打ち出した。
代わりの人材の採用費に最大50万円
育休は人手不足に悩む中小企業にとって「リスク」でもある。その不安解消のため、保険大手が乗り出した。
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損害保険ジャパンが10月14日から販売を開始したのは、役員や従業員が産休や育休を取得した企業に対し、代わりの人材の採用費用を補償する保険だ。もちろんこの10月から新設された「産後パパ育休」にも対応する。
同社の中小企業向けの保険に、特約の形で追加した。
加入した企業は従業員が産休や育休で合算31日以上休んだ場合、最大50万円を受け取れる。
保険金は前出の代替要員(短期雇用の派遣社員やアルバイトなど)の求人・採用費に加え、育休取得者が職場復帰後に子育てしながらテレワークできるよう、自宅のPC環境を整える費用などにも利用できる。
保険料は年間およそ3万円だ。
「中小企業の人手不足問題を解決したい」
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同保険の導入に向けて、損保ジャパンでは1年ほど前から準備を進めてきた。担当者は言う。
「人手不足に悩む中小企業は多く、『育休の取得率は上げたいけれど、キーパーソンが抜けるのは不安がある』という声を聞いていました。従業員を育休に気持ちよく送り出して欲しいと思い、作った特約です」
実際、日本・東京商工会議所の2022年の調査によると、特に男性の育休取得の課題として「専門業務や属人的な業務を担う社員の育休時に対応できる代替要員が社内にいない」(52.4%) 、「採用難や資金難で育休時の代替要員を外部から確保できない」(35.7%)などがあげられている。
待機児童など育休の延長にも対応
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東京海上日動火災保険も2022年7月に育休に対応する保険の販売を開始した。待機児童問題などで従業員の職場復帰が遅れるという、想定外の事態に対応するものだ。
育児・介護休業法では原則として育休を取得できるのは子どもが1歳になるまでだが、保育園に入所が出来ないなどの事情がある場合は、最長2歳まで延長できる。
新しい保険ではこうして従業員が育休を延長した場合、中でも子どもが1歳から1歳6カ月までの期間を対象に、企業が負担した代替人材確保のための採用費用を補償する。
こちらも既存の中小企業向けの保険に特約として新設したもので、企業は従業員が連続して90日以上休業した場合、最大50万円が受け取れる。
企業にとって育休はリスクでもある。その事実に真正面から向き合い、商機に変えた保険各社。育休取得率の向上は、新たなビジネスチャンスとも言えそうだ。
(文・竹下郁子)