ワシントンで行われた民主党全国委員会で、中絶権に関するスピーチのため登壇したバイデン大統領(2022年10月18日撮影)。
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※本記事は2022年10月21日初出の記事の再掲です。
11月8日に迫ったアメリカの中間選挙では、民主党の大苦戦が予想されている。それでは中間選挙の結果でアメリカ政治はどう変わるのだろうか。そして2024年の大統領選挙にどんな影響があるのだろうか。
下院では共和党優勢、上院は大接戦
アメリカにはいくつかの有名な選挙予測サイトがあり、それぞれが各選挙区の人口動態のデータや世論調査の動向などから予測を立てている。最終的には担当者の長年の知見に基づく意見も含め、独自の予測を打ち出している。
今年の場合、いくつかある予想サイトを見てみると、獲得議席数はどれもほぼ似通っており、多数派をめぐる争いは「下院では共和党優勢、上院は大接戦」としている。
予想サイトの一つである「クック・ポリティカル・レポート」は10月14日現在、下院(435議席全改選)では「共和党確実」とする選挙区が188、「優勢」が12、「共和党寄り」が11で、共和党が獲得できる可能性が高いのが「211」と分析している。
この数字だけで435議席の過半数である218議席に迫っている。民主党としては両党の候補が「接戦」となっている31選挙区の多くで勝利しないと、多数派維持は難しい。
筆者・編集部作成
一方、同じく「クック・ポリティカル・レポート」によれば、上院の方は共和党が獲得する可能性が高い議席は19(「共和党確実」とする選挙区は15、「共和党優勢」が1、「共和党寄り」が3)、民主党が獲得する可能性が高い議席が12(「民主党確実」が9、「民主党寄り」が3)となっている。
上院は今回、100議席のうち35が改選となっており、そのうち21がもともと共和党の議席だ。たとえ今回上院改選分で共和党側が多くの議席を確保したとしても、民主党は14議席を確保すれば多数派を維持できる(民主党50、共和党50議席だが、副大統領が1票を投じるため、民主党が多数派)。
民主党としては、「接戦」とされる4選挙区のうち2つ以上勝利すれば多数派が維持できるため、こちらの方は死守できる可能性もある。
分割政府となることは必至
この数字は日々変わっていくほか、そもそも中間選挙の投票率は大統領選挙の投票率よりも10〜15ポイント程度低い50%くらいであるため、投票率次第で形勢逆転も大いにあり得る。
そのため断定的なことは言えないが、いずれにしろこのままいけば、2021年から民主党による「統一政府(unified government)」だった現在の状況から、2023年1月には「分割政府(divided government)」に戻ってしまうのは必至だ。
通常、大統領選ほどには投票率が上がらない中間選挙だが、どれだけ有権者が投票所に足を運ぶかで形勢逆転もあり得る(写真はジョージア州で期日前投票を行う住民たち。2022年10月18日撮影)。
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日本では「ねじれ議会」という言葉の方が分かりやすいかもしれないが、アメリカの方は上下両院の多数派党だけでなく大統領という存在もあるため、「ねじれ」はより頻繁に起こる。今年の選挙の場合、たとえ上下両院で共和党が多数派を奪還したとしても(議会がねじれなくても)、民主党のバイデン大統領は変わらないため、分割政府となる。
分割政府そのものは過去に何度もあった。1930年代から1990年代初めまで、下院は数年を除いて民主党が多数派だったため、ニクソン、レーガンなどの共和党の大統領が就任すると分割政府となった。
ただ当時と異なるのが、アメリカではここ10年ほど未曾有の分極化現象が続いていることだ。
かつてなら、主要法案では政党の枠を超えて、両党の所属議員が協力するのが一般的だった。党議拘束がないため、法案に賛成するのが民主党の半分と共和党の半分というようなことも頻繁にあったほか、議員間で特定の法案に賛成する代わりに別の法案に賛成する「票の貸し借り」もよく見られた。
またかつては、分割政府になって議会の法案数は全体的に減っても、重要法案の立法化は問題なく進むという傾向も明らかだった。例えばニクソン政権時代は大気浄化法、水質浄化法などの環境法案の改訂版が超党派で作られていった。
政策を動かすために妥協をする。その妥協で政治はしっかり動いていく——。そんな時代が、今となっては夢物語のようにも見える。
というのも「分極化+分割政府」では妥協が極めて難しく、政治そのものが一気に停滞してしまうためだ。
分極化現象のために、近年は重要法案に対する賛否は政党対政党の戦いとなっており、党議拘束がなくても同じ政党なら賛否は9割以上一致する。政党のイデオロギーが最優先されるため、政策を進めるための妥協の余地は少なくなる。
つまり、近年の「分極化+分割政府」という現象は、文字通り政府や政治そのものが「分割」してしまう状態を招くことになる。
内政は止まり、大統領は外交に専念せざるを得なくなる
上述のように、今回の中間選挙による分割政府は必至である。下院で共和党が多数派を奪還した場合、バイデン大統領が望むような政策を実現させるため、民主党側が例えば気候変動や社会福祉の充実を進める法案を提出したとしても、共和党側はその審議をことごとく止めるだろう。
一方で、共和党側が下院で出してくるとみられる減税、均衡財政などの法案も上院で止まる。バイデン大統領が大統領令として打ち出した学生ローン債務の免除を、共和党が覆そうと下院で法案を通したとしても、民主党多数の上院にブロックされて実現しない。たとえ上院で共和党が多数派となり、共和党側が望む法案が両院で通過したとしても大統領は署名をしない。
さらに、バイデン大統領の息子ハンター氏のウクライナでのビジネスをめぐる疑惑などで、仮に下院がバイデン大統領への弾劾決議案を可決したとしても、上院で3分の2以上の議席を共和党が確保することはあり得ないため、弾劾は成立しない。
バイデン大統領の次男ハンター・バイデン氏(右)は、かつて役員を務めていたウクライナの天然ガス会社ブリスマの脱税疑惑への関与が疑われている。
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つまり、2023年1月から2年間のアメリカ政治は、まったくの膠着状態になることが予想される。分極化で両党が拮抗してきた近年の大統領と同じように、中間選挙以降は内政的には「レームダック化」していく。国内外にこれだけ大きな課題が山積している中、ここで内政が止まってしまうのは「いかにももったいない」「時間の空費になる」と感じる読者も多いだろう。
大統領が内政で動けなくなったらどうなるのか。大統領としては自らの専有事項である外交・安全保障により多くの時間を割くというのが合理的な選択となる。
過去の大統領も中間選挙で大きくつまずき、外交に専心していった。オバマの場合にはイラン核合意やTPPなどのアジア回帰外交、トランプの場合には北朝鮮や中国叩きなどの外交に重点を置くようになっていった。
ただ、下院で共和党が多数派となった場合、下院議長になる確率が高いとみられているマッカーシー議員(現・共和党下院院内総務)が「多数派を取ったらウクライナ支援の増額要請はより困難になる」と、10月半ばにメディアのインタビューで発言している。マッカーシーは「人々は不況にあえぎ、ウクライナに白紙委任状を出すことはないだろう」と言い、アメリカファーストへの回帰を予告している。
バイデン再選の可能性は?
では、「分割政府」になったら2024年バイデン再選の道は閉ざされるのか。
確かに政策を動かせなくなればさらなる政治的遺産を残すことができなくなるため、大統領にとっては大きなマイナスだ。ただ、過去の大統領を見ると必ずしも中間選挙の大敗が再選を妨げる結果にはなっていない。
過去4人の大統領のうち、ブッシュを除く3人は政権最初の中間選挙で大敗した。そのうちトランプは敗れてしまったが、クリントンもオバマもその2年後には再選されている。どちらの政権も最初の中間選挙で共和党が大躍進し、民主党の統一政府から分割政府となったことで自分が望む政策はまったく動かなかったにもかかわらずだ。
再選の理由は、景気の状態などや相手候補の質もあったかもしれないが、それ以上に大きかったのは、中間選挙で大敗したことで支持者が逆に結束したことだ。
例えばクリントンの場合、医療保険改革など自分が望む政策が全く動かなくなっただけでなく、1994年の中間選挙で大勝した共和党が、その勝利に大きく貢献したギングリッチ(この功績がもとでギングリッチは下院議長となった)の指導のもと矢継ぎ早に減税などの法案を提出したため、クリントン政権はボロボロの状態だった。
しかし分割政府の中、共和党側が提出した法案の多くは結局、成立しなかった。民主党と共和党の議席が拮抗した上院で止まったほか、たとえ上下両院でまとまってもクリントン大統領が署名しなかったからだ。「ギングリッチはやりすぎ」「政策が動かないのはギングリッチのせい」と逆風が吹いた。
再選を果たし、下院で一般教書演説を行うクリントン大統領と、議長席から拍手するギングリッチ(奥)。
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当時40代だったクリントンに比べ、今年11月で80歳となるバイデンにとっては高齢が大きなハードルだが、それでも過去の例を見ると分割政府でも再選はありえる。
そもそも中間選挙の結果にかかわらず、分極化の時代で支持者が固定化しているため、2024年選挙では両党の候補が誰であってもかなりの僅差になる。
民主党はバイデンが出なければ、ハリス副大統領、ブティジェッジ運輸長官、カリフォルニア州のニューサム知事、オカシオ=コルテス下院議員らが出馬する可能性がある。
一方で共和党は、まずトランプがどう動くかをフロリダ州のデサンティス知事、ペンス前副大統領、ポンペオ前国務長官、ヘイリー前国連大使、サウスダコタ州のノーム知事らが注視している。
2021年1月の米連邦議会襲撃事件をめぐりトランプを強く糾弾しているリズ・チェイニー下院議員は、トランプ支持者の反発もあって今回の中間選挙ではすでに共和党予備選で敗退しているが、共和党内の「反トランプ派」の意見を代弁する形で出馬する可能性もある。穏健派ではメリーランド州知事のホーガンあたりも出馬する可能性がある。
繰り返すが、民主党、共和党で誰が最終的な候補者になっても、本選挙は僅差である。過去数回の大統領選挙と同じように最終的に5つほどの激戦州が結果を左右する。
民主党の「統一政府」となったら
最後に今回の中間選挙に再び戻ろう。可能性は低いが、もし、上下両院で民主党が多数派を維持し、「統一政府」を民主党が維持できた場合のシナリオについて少し考えてみたい。
中間選挙で大統領の政党が上下両院で議席を増やしたのは、共和党と民主党の2大政党となった1854年以降、1934年、2002年の2回しかない。
この2回に続くことになればまさに歴史的であり、バイデン再評価となるだろう。議会ではさらに積極的な社会福祉関連法案や妊娠中絶の権利を保護する法案などの審議も進み、その財源捻出のため富裕層や大企業への課税が強化されるだろう。
仮に上下両院で民主党多数となれば、バイデン政権の肝煎り政策も進む。ビッグテックに対する独禁政策もその一つだ。
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もし、今回の中間選挙で民主党側の投票率が一気に上がるような歴史的な事態となり、上院で民主党が60議席以上を確保した場合は、フィリバスター(合法的議事妨害)の制約を受けずに済むこととなるため、バイデン政権がやり残していた政策を裏付ける法案の立法化が一気に進む。現在、下院の委員会内で止まっているビッグテック(GAFAM)解体といった大胆な政策にもスポットライトが当たる。
ただ、民主党が上院で60議席を確保するのは、現状では不可能に近いという状況は変わらない。
このままの予測通り、中間選挙後に分割政府となるのかどうか、大いに注目される。
前嶋和弘(まえしま かずひろ):上智大学総合グローバル学部教授(アメリカ現代政治外交)。上智大学外国語学部卒業後、ジョージタウン大学大学院政治修士過程、メリーランド大学大学院政治学博士課程修了。主要著作は『キャンセルカルチャー:アメリカ、貶めあう社会』『アメリカ政治とメディア』『危機のアメリカ「選挙デモクラシー』『現代アメリカ政治とメディア』など。