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アマゾンには16のリーダーシップ・プリンシプルがあるほか、「ピザ2枚ルール」など独自の社内ルールもよく知られている。
アマゾン出身者が立ち上げたスタートアップは650社を超え、他社の経営幹部クラスに就いている元アマゾン人材も多い。これらのビジネスリーダーは、経営指標を重視する創業者ジェフ・ベゾスの薫陶を受けていることから「ジェフ・ボット(Jeff Bots)」と呼ばれ、アマゾン流の経営スタイルを世界中の企業に伝播させている。
しかしアマゾンでの成功は疑う余地がないものの、それを他社に持ち込んで同じようにうまくいくとは限らない。最悪の場合は経営状態を悪化させるおそれある、とリーダーシップを専門とするコンサルタントたちは指摘する。
アマゾンのカルチャーをうまく利用(いわば「アマゾン化」)できるかどうかは、企業のミッション、カルチャー、成長の苦しみといった要素によると、エボリューション(Evolution)社のリーダーシップコーチ兼経営コンサルタント、エリック・ケレナー(Erik Kellener)は言う。
例えば、アマゾンのピザ2枚ルール(ピザ2枚では全員に行き渡らないほどの人数でミーティングするのは絶対に避けるというルール)は、生産性を高める目的で考案された。アマゾンは、自律性と協調性を発揮するにはチームは9人以内が望ましいことを発見したわけだ。
しかし、コミュニケーションや自律性に特段の課題を抱えておらずチームがうまく機能しているなら、9人以上であっても問題ないとケレナーは言う。
要するに、ジェフボットが別の会社に転職して早々にアマゾンのやり方を導入すると、かえって悪影響を及ぼすおそれがあるのだ。リーダーシップコーチのマガリ・ルネ(Magalie René)も、従来のやり方で特に問題がないならわざわざやり方を変えるべきではないと語る。
「そんなの計画的とは言えないし、目的意識もないですよね。何かを再発明するのではなくて、すでに機能しているものをたたき台にして改善していく方法を探りたいところですね」(ルネ)
やたら指標を使いたがる
ジェフボットに関する注意点としてはもう一つ、意思決定の際にやたら指標に頼るという傾向がある。アマゾンの元社員は、同社の文化を「ケチで共感を欠いた巨大企業」とこき下ろす。
しかしアマゾンによれば、同社のリーダーシップの考え方はすべて顧客のためだと言う。アマゾンの広報担当いわく、アマゾンのリーダーシップ・プリンシプルは「当社の文化の一部であり、地球上で最も顧客中心の企業になるというミッションに向けて私たちを後押ししてくれる」ものだという。
アマゾンでは何から何まで指標で管理すると語るのは、リーダーシップに関する共著書があるリック・ラッシュ(Rick Lash)だ。「(指標は)リーダーが何に注意を払うべきかを決めるものであり、それがリーダーのマネジメントスタイルにつながる」と彼は言う。
このようなカルチャーを他社にも当てはめようとするとたいてい問題が起きる。例えば、食品と日用品のデリバリーサービスを展開するゴーパフ(Gopuff)のミッションは、ある商品がすぐに欲しい人に「すぐに必要な商品」を届けることだ。アマゾンと同様、ゴーパフのビジネスモデルも倉庫からの物流網が生命線だ。
しかしゴーパフの元マネジャーによれば、採用したアマゾン出身のリーダーたちはゴーパフのカルチャーを学ぶことなく、まるでゴーパフにもアマゾンのような計測環境が整っているかのように牛耳ったという。だが当然そんなわけはない。
「アマゾンでこういうことをやっている人を連れてきて、同じことをやりたかったんでしょう」。ゴーパフがアマゾン出身者を何人も採用した狙いを、ケレナーはそう評する。「でも話はそれで終わらなかったということです」
アマゾン出身のリーダーを採用してうまく活かせるとすれば、すでにアマゾンと同じような指標重視のカルチャーを持つ組織に限られるだろう。それならアマゾンから来たリーダーでもうまくやれる、とラッシュは言う。だがこれにもリスクが伴う。
「アマゾンのカルチャーを取り入れようとしている組織には、何を求めるのか注意を払ったほうがいいと警告したいですね。アップサイド・リスクとしては、偉大なことを成し遂げられること。そしてダウンサイド・リスクは、スタッフも自分自身も燃え尽きてしまう危険性があることです」(ラッシュ)
「アマゾン流」が機能するインフラが必要
スタートアップ企業がアマゾンのリーダーシップスタイルやプリンシプルをうまくコピーすることは不可能ではない。「何しろ、アマゾンだってかつてはスタートアップだった」(ラッシュ)のだから。
アマゾンの広報担当者も次のように言う。
「私たちは、機敏に動き、スマートで迅速な決定を下すことを後押しするスタートアップの思考法である『Day1(創業初日の意)』の精神で業務を行っています。この考え方は多くのスタッフのものの見方を形づくり、アマゾンで過ごす時間をはるかに超えて心に残ります」
しかしアマゾンの成功をうまく再現するためには、どんな企業(小規模な企業は特に)であれ、指標を正確に計測できるだけのツールと能力がなければならないと、ラッシュは釘を刺す。
ゴーパフが採用したアマゾン出身リーダーのやり方がうまくいかなかったのは、このインフラの欠如が一因だった。
アマゾン出身で、現在は10億ドル規模のスタートアップ、フレックス(Flexe)の最高技術責任者(CTO)を務めるデイビッド・グリック(David Glick)は、アマゾンのリーダーシップルールは長年かけて培われたものだと説明する。
「成功している企業、特に物流会社は、多少なりともアマゾンのDNAを受け継いでいるでしょうね。アマゾン出身者を採用しようと思えばできるのにしないなんて、バカげてますよ。しかしアマゾン出身者が、ただやってきて、コンテクストを無視して『アマゾン流のやり方』をゴリ押しするとは思えません」(グリック)
ベゾスはアマゾンという企業を立ち上げる過程で、それまで存在しなかった新しい技術やインフラを生み出した、とラッシュは言う。
「消費者を常に意識し、信じられないくらい洗練された資料やデータの整理の仕方を考案した。こうしたことが土台となって、今日のアマゾンという巨大企業ができたのでしょう」
ベゾスの例に倣えば、リーダーは小さく始めることが重要だとラッシュは言う。
「今では巨大な組織になったアマゾンですが、このような指標をサポートする非常に洗練されたインフラを何十年もかけて開発してきたんです。『それをそのまま採用すればいい』だなんて、勘違いにもほどがありますよ」(ラッシュ)
(編集・常盤亜由子)