メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)運営のフェイスブック(Facebook)。顧客対応現場の実態が複数の委託先従業員の証言から明らかになってきました。
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ポルトガルのアウトソーシング(業務請負)会社テレパフォーマンス(Teleperformance)でメタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)向けのカスタマーサポート担当として働くシャーロット(仮名)は、初めて仕事中に泣いた時のことを鮮明に覚えている。
フェイスブック(Facebook)のある広告主企業のビジネスマネージャ(管理ページや広告アカウント、インスタグラムなどを一元管理するツール)アカウントがハッキングされ、自動セキュリティ機能が働いたために、同アカウントにひも付けられていた従業員の個人アカウント含め、あらゆる関連アカウントが無効化される事態が起きた。
結果、この広告主企業のある女性従業員は、自分の個人アカウントのプロフィールや友だち、過去の投稿にとどまらず、最近病気で亡くなった愛娘のインスタアカウントまで、何もかも使えなくなってしまった。
フェイスブックや娘のインスタに投稿されていた何百枚もの写真や思い出が、事実上消えてしまったのだ。
シャーロットは広告主や企業アカウントのカスタマーサポート担当で、個人アカウントについては対応権限を与えられていない。そのため、この女性従業員から電話相談を受けたシャーロットは、問題への対応を社内の個人アカウント担当チームに依頼した。
何度も繰り返しプッシュしたものの、セキュリティ機能による無効化はフェイスブックのシステム上の問題であり、カスタマーサポート業務の委託先であるテレパフォーマンス社としてはなすすべがなかった。
シャーロットは女性従業員に電話をかけ、こう伝えるしかなかった。
「いろいろ手を尽くしたのですが、私たちにはどうしようもありませんでした」
女性は電話口で泣き出した。シャーロットも居たたまれなくなり、泣き崩れた。
「彼女は亡くなられた娘さんの写真と思い出を一気に失い、それはもう戻ってこないのです。あまりに残酷すぎる話で、一緒に泣くしかありませんでした」
シャーロットはメタのカスタマーサポート担当として、フェイスブックやインスタグラムを利用している企業や団体、著名人などから1日に20件ほどの問い合わせを受けている。
アカウントやページが制限されたり、停止されたりした企業からの問い合わせに、ライブチャットやメール、電話を通じて対応する。広告料金の支払いの遅れや、著作権、商標権の侵害の報告といった込み入った問題にも対応しなければならない。
しかし、そうやって問題があって連絡してくるメタの顧客のほとんどは、カスタマーサポートにできることは限られているという現実を理解してくれないと、シャーロットは嘆く。
カスタマーサポートは、マニュアルに沿って解決手順を説明したり、原因を調べたりした上で、最後の手段としてテレパフォーマンス社内のメタ担当チームに問題への対処を依頼する。
それでも満足のいく回答が得られることは少なく、それどころかゼロ回答の時もあるくらいだ。
シャーロットらは顧客の苦情や相談に対応する権限をわずかしか与えられていない一方で、メタからは「申し訳ありません」「残念ながら」といった言葉を使わないよう指導されている。
「『このような事態になり申し訳ありません』とか『残念ながらお力になれません』と言う代わりに、『お客様のフェイスブックページに問題があることは承知しています』『お客様にとってどれほど重要なことか理解しています』『最善を尽くしますのでご安心ください』と言わなければなりません」(シャーロット)
シャーロットの同僚2人もInsiderの取材に対し、ネガティブな言葉を使うのを禁じられていると口を揃えた。
その点をメタの広報担当に確認すると、次のような回答があった。
「企業であれその従業員であれ、必要とする時に必要な支援が得られるよう、信頼できる委託先と協力してサポートを提供しており、今後も広告主様のためにより多くの経営資源を振り向けていく考えです」
一方、テレパフォーマンス社の広報担当は、同社が米フォーチュン(Fortune)誌が毎年発表している「世界最高の職場トップ25(World’s 25 Best Workplace)」ランキングで11位に選ばれ、「働きがいのある会社(Great Place to Work)」の認定も受けていることに触れつつ、次のように強調した。
「私たちは従業員に一貫して充実した福利厚生を提供しており、2022年まで12年連続で『働きがいのある会社』認定を受けています。ポルトガルにおける当社のビジネスと従業員に大きな誇りを持っています」
「自殺してやる。お前のせいだ」と言われた
シャーロットは、怒った顧客から電話口で罵声を浴びせられることがよくある。「殺すぞ」「訴えるぞ」と脅されたこともある。
「自殺してやる。お前のせいだ」と叫ぶ客もいれば、「この役立たず」「間抜け」と吐き捨てる客もいる。
テレパフォーマンス社は、カスタマーサポート担当の精神的ストレスに対応するため、年中無休24時間体制の電話相談窓口を設けている。
また、メタの広報担当によると、同社はカスタマーサポート担当が顧客から理不尽な要求をされたり、悪質な嫌がらせを受けたりした場合、速やかに報告を受け「迅速に対応できる体制を整えている」という。
ただ、シャーロットに強いストレスを与えているのは、怒った顧客だけではない。
カスタマーサポート担当チームのメンバーは、生産性や顧客満足度を向上させるよう求める社内の管理職からのプレッシャーにさらされており、その圧力は日々強まっている。
しかし、顧客からの苦情を解決するのは以前にも増して難しくなっており、生産性や顧客満足度を上げるどころの話ではない、というのがシャーロットら担当の実感だ。
Insiderが過去記事(9月1日付)で報じたように、フェイスブックのアカウントやページがメタ側の判断で突如停止あるいは削除されるケースが相次いでいる。広告主企業によれば、メタの決定に異議を唱えるのは難しい状況があるようだ。
シャーロットらカスタマーサポートがどれだけ丁寧に対応しても、こうした現状がある以上、広告主たちの満足度は高まらないだろう。
メタはカスタマーサポートを軽視している
止まない苦情に毎日対応することだけでストレスなのに、管理職からの日々高まるプレッシャーがそれに拍車をかけ、シャーロットは慢性的な不眠症に陥った。
テレパフォーマンス社では従業員向けに専門家による無料のカウンセリングを提供しているが、シャーロットによるとそのセラピストの評判は芳しくない。結局彼女は自分でセラピストを探し、自腹で料金を払っている。
その負担は馬鹿にならない。ポルトガルの全国最低賃金は月額705ユーロ(約10万6000円)だが、シャーロットはそれと大差ない900ユーロ(約13万5000円)しかもらっていない。賞与は業績連動であり、生産性や顧客満足度が上がらない限り、賞与額も上がらない。
メタはカスタマーサポートを軽視していると、シャーロットは感じている。
「私たちは『なぜフェイスブックは助けてくれないのか』という声を、お客様からしょっちゅう聞かされます。できることなら、私たちは助けてあげたい。でも、メタは私たちに権限やツールを与えず、責任だけを私たちに負わせているのです」
最近受けた社内研修のことを思い出して、彼女は苦笑いした。
一連の研修プログラムの半分ほどは、メタが社運をかけて巨額投資を進めるメタバース環境で実施されたが、その中には2人のアバターが卓球をしながらセキュリティについて議論する内容もあったという。
「優先順位が違うのではないでしょうか」と、シャーロットはあきれる。
メタ向けのカスタマーサポート担当チームは離職率が非常に高い。人手不足を穴埋めするためにテレパフォーマンス社はリファラル(紹介)採用を強化しており、友人を紹介した社員への特別ボーナスを増やし続けているという。
そして、シャーロットはいま、真剣に新しい仕事を探している。
(※記事に登場するシャーロットはInsider編集部側で付けた仮名で、当人がテレパフォーマンス社のカスタマーサービス部門に現在勤務する人物であることを確認しています)
(翻訳:田原寛、編集:川村力)