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アマゾン上級副社長に聞く「Fire Phoneの大失敗が生んだAIスピーカー」とiRobot買収

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出典:アマゾン

2022年秋、アマゾンが日本でハードウェア事業をスタートしてから10周年を迎えた。

当初は電子書籍専用端末「Kindle」からスタートしたビジネスだが、今では子供向けタブレットからスマートホーム製品に至るまで、非常に幅広い製品へと拡大している。これらのハードウェア製品は「Amazon Devices(アマゾンデバイス)」というブランドで販売されている。

アマゾンのハードウェア事業の10年はどのようなものだったのだろうか? そして、これから、どのような変化を迎えるのか?

ハードウェア事業責任者の米アマゾン デバイス&サービス担当 Dave Limp(デイブ・リンプ)上級副社長に聞いた。

スマートホーム拡大へ照準。統一規格「Matter」登場は契機

アマゾンのハードウェアといえば、やはりまずはKindleだ。

「KindleやFireタブレットを広げていくことは、確かに大変なことだった」とリンプ氏は話す。最初期、日本で発売前のKindleは文字通り「尖った」デザインの製品だったが、徐々により多くの人が使うものへと拡大していった。

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米アマゾン・デバイス&サービス担当Dave Limp(デイブ・リンプ)上級副社長。

写真提供:アマゾン

最新のKindleは、年内に発売を予定している「Kindle Scribe」。

リンプ氏も「なかなか1つを挙げることは難しいが、過去に発売した多くのAmazon Devicesの中でもお気に入りのもので、非常に便利。皆さんに使っていただける日が来るのが楽しみだ」と笑う。

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11月30日に発売される手描き対応のKindle「Kindle Scribe」。価格は4万7980円。

出典:アマゾン

一方で、アマゾンのハードウェアは、読書デバイスからさらに拡大した。特に大きな変化となったのが、スマートスピーカー「Echo」シリーズだ。音声アシスタント「Alexa」を拡大する原動力にもなった。

「現在我々は『アンビエント・インテリジェンス』の考え方を家庭に浸透させようとしています。目の前にある機器を操作するだけでなく、部屋の中に入ってくるだけで照明がつき、他の部屋ではエネルギー消費を抑え、利用者が快適に過ごせるような世界です」(リンプ氏)

スマートスピーカーとそこから派生するスマートホーム機器は、確かに非常に大きなビジネスになりつつある。ただし、まだまだ発展途上で、誰もが簡単に便利に……というレベルには達していない。

ただ、そのきっかけとなりそうな変化も出てきている。

スマートホーム機器の共通規格である「Matter」の登場だ。「特定のプラットフォーム専用」という制限が緩和されるため、「Matter対応」という点さえ確認しておけば、安心して機器を購入できる。

10月4日、ようやくMatterの「バージョン1」も策定された。アップル・アマゾン・グーグルというスマートホーム・プラットフォーマー3社も正式対応を表明し、ビジネス環境が大きく変わってきそうである。この点に、リンプ氏も同意する。

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アマゾン初のスリープデバイス「Halo Rise」。139.99ドルで米国では2022年中発売予定。

出典:アマゾン

「我々は標準規格が好きです。標準規格ができ上がれば、より多くのことができるようになる。過去の例でいえば、Wi-Fiがそれにあたる。

多くの人がWi-Fiを使うようになり、機器の価値が上がったのは標準規格ができたからだ。コムキャストやグーグル、アップルとともに、多くの苦労の末に合意に至ったが、これによって異なるスマートホーム間でも、よりスマートに機器が連携可能になっていくだろう」(リンプ氏)

これまではスマートホーム機器は「囲い込み」の印象が強かったが、Matterを基盤として「どの製品も選べる」基盤が整う。結果として、利用者にとって分かりやすくなるだけでなく、プラットフォーマー以外の機器メーカーも、より大きな市場を目指した製品開発がしやすくなる。

ユニークかつニーズの多い機器が新たに登場する基盤となることで、本当の意味でスマートホーム市場が立ち上がる可能性は高い。一方、そうした「マストバイ」的なニーズが拡大できないと、市場停滞の可能性もあるのだが。

「iRobotは象徴的な会社」、ロボットでの家事サポートに期待

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iRobotのルンバを前に語る、Colin Angle(コリン・アングル)CEO。2019年撮影。

撮影:西田宗千佳

スマートホーム関連といえば、気になるのがiRobotの買収だ。

アマゾンは8月、「ルンバ」などの掃除用ロボットで知られるiRobotを17億ドル(約2538億円)で買収した。この買収は、アマゾンのスマートホーム事業や、ロボット事業にどのような影響を与えるのだろうか?

リンプ氏は「買収完了前なので、話せないことの方が多い」と断った上で、次のように説明した。

「家庭内の雑事をするのが好きだ、という人はあまりいない。それらをロボットにやってもらい、時間を有効に使うのは当然のことだ。

iRobotはこのジャンルにおいて非常に象徴的な会社であり、一緒に新しいものを作っていけることを楽しみにしている」(リンプ氏)

アマゾンはなぜ「ハードだけで利益を追求しない」のか

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スマートスピーカー「EchoShowシリーズ」。

出典:アマゾン

アマゾンのハードウェア事業には共通の特徴がある。それは、「ハードウェアそのものでは大きな利益を追求しない」ということだ。

アマゾンブランドのハードウェアはどれも安価だが、それは彼らが普及を目指し価格を抑えたものを作るだけでなく、「アマゾンのビジネス全体で考え、ハードだけで利益を追求するわけではない」コンセプトを持っているからだ。

「(ハードウェア自体で利益を得ないモデルは)非常に気に入っているやり方だ。これからも続ける。

このモデルにはいくつかの利点がある。1つは顧客との関係を継続しやすい、ということ。次に、ソフトウェアのアップデートで価値を提供しやすいこと。売り切りと違い、長くアップデートしつつハードウェアの提供を続けられる。

そして3つ目がリサイクル。製品を買い換え続けるのはいいことではない。ソフトウェアアップデートによってより長く使えるようにすることはより重要になっている」(リンプ氏)

今のハードウェアはソフトやサービスと連携し、一体となって価値を提供する。スマートフォンではおなじみの形だが、アマゾンは最初のハードウェアであるKindleから、自社の電子書籍サービスである「Kindle」が、電子書籍リーダーというハードウェアに紐付く形で展開している。

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Fire TV機能を内蔵するフナイの「FUNAI Fire TV搭載スマートテレビ」。50型でアマゾン価格は6万4800円。

出典:アマゾン

Echoも同様だが、特に現在は映像配信デバイスである「Fire TV」の重要度が増している。

Fire TVも、低価格な製品だがソフトウェアのアップデートで機能が拡充され、大きな価値を持つようになったものの一例と言える。リンプ氏も「Fire TVについては日本市場でも売れている。特に、ヤマダ電機をパートナーとして販売したFire TV内蔵テレビは重要」と話す。

「Fire Phone」の失敗から学んだ「偶然」

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2014年6月、当時目玉の新製品だった「Fire Phone」の披露するアマゾンのジェフ・ベゾスCEO。

出典:アマゾン

アマゾンのハードウェアビジネスも、すべてが成功したわけではない。

特に大きな失敗は、2014年にアメリカで発売したスマートフォン「Fire Phone」だろう。現代のプラットフォームの中で、独自のスマートフォンを販売していることは重要だ。グーグルが独自スマホPixelシリーズに力を入れていることからもそれは分かる。

だが、アマゾンは独自スマートフォンを持っていない。そのことをどう考えているのだろうか? アマゾンにとって、「Fire Phoneの失敗」とはどういう意味を持っていたのだろうか?

「確かに大変だったが、あの時にチャレンジしなければ、新しいチャンスを得ることはできなかっただろう。その後Echoを出した時に、我々は別の形へと進むことになった。

確かに我々はスマートフォンという商品領域を持っていないが、家庭にあるさまざまなマイクを通して、音声で人々の要望を聞いてサービスを提供できる。

そのためには、どこか1つにインテリジェンスを実現する機器があるのではなく、相互に連携して動くようになっている。

現在ほとんどの機器は、まずスマートフォンを取り出し、そこから操作することを必要としている。“その方法しかない”ことは自然な姿とは思えない。そうしたことに気づけたというのも、結局我々にとっては、ある種の偶然だったのだと思う」

(文・西田宗千佳

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