「対面なしフルリモート」でシリコンバレーから「3.7億円調達」成功の舞台裏。共同創業者もZoomで意気投合

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キャラペイス(Carapace)共同創業者の三野泰佑氏。日本に拠点を置きながら「フルリモート」でシリコンバレーからの資金調達を成功させた。

Carapace

10日19日、私たちキャラペイス(Carapace)はプレシードラウンドで250万ドル(約3億7000万円)の資金調達を完了したことを発表しました。

キャラペイスは、暗号通貨の貸倒れリスクを軽減できるマーケットをブロックチェーン上に構築しています。

リードベンチャーキャピタル(VC)のNFXは、リフト(Lyft)やドアダッシュ(Doordash)などのユニコーン企業に投資している、シリコンバレーでいま最も勢いのあるVCの一つです。

他にも、レジャープライム(Ledgerprime)やケインワーニック(Kain Warwick)といったクリプト(暗号資産)界隈では著名な投資家に参加していただきました。

この記事では、今回の資金調達の一部始終を公開し、自分たちの失敗や学びを共有することで、これから資金調達をされる人、目指す人の役に立てればと思っています。

[目次]

  1. たった一人での資金調達に挫折、共同創業者との出会い
  2. 資金調達に再挑戦
  3. どんな投資家にどれくらい出資してもらうか
  4. 投資家に「いきなりメール」は避ける
  5. ピッチ開始
  6. もう駄目かと思った
  7. 「断られるのに慣れろ」はどうかと思う
  8. 投資家を積極的に「動かす」
  9. ついに契約締結へ、最後までリモート

たった一人での資金調達に挫折、共同創業者との出会い

ズーム(Zoom)を使ってシリコンバレーなどの投資家に初めて話を持ちかけたのは、2021年11月のことでした。

ポストコロナ景気でテック関連企業の株価が軒並み史上最高を記録し、そこから一転して今日に至る大幅下落が始まった時期で、いま思えば時代の転換点と重なっています。

当初は自分一人で共同創業者も誰もおらず、馬鹿でかい構想と簡単に動くプロトタイプがあるだけでしたが、幸いにもエンジェル投資家やVCの方々からいくつかのオファーをいただくことができました。

それでも、トップのVCを説得することはできませんでした。クリプト界隈ならおそらく誰もが知っている3社に断られたのは、本当にショックでした。

いま考えると、実績のある起業家ならともかく、自分のように輝かしい経歴のない人間が、アイデアだけ持っていきなり一人で著名VCから投資を受けようというのは無理があったと思います。

VCの立場になって考えれば、まだ誰一人巻き込めていないスタートアップに投資するのは当然リスクが高い。顔を合わせたことすらない相手ならなおさらです。

そのことに気づいた時点で資金調達はいったん止め、まずは共同創業者を本気で探すことにしました。

多くの魅力的な人たちとのやり取りがあったのですが、最終的には、チーム組成前の起業家にネットワーキングの場を提供する「サウスパークコモンズ(South Park Commons)」で出会ったロヒット(Rohit)との創業を、2021年の終わりに決めたのでした。

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「サウスパークコモンズ(South Park Commons)」で三野氏と出会い、キャラペイス(Carapace)を共同創業したロヒット(Rohit)。

Carapace

サウスパークコモンズは、サンフランシスコを拠点とするアクセラレータープログラムのようなもので、パンデミックの発生以降はリモートでの運営に切り替わっています。

おかげで、日本に拠点を置いたままシリコンバレーのネットワークに入り込んでいくことができたので、私にとっては極めて有益なプログラムでした。

そんなわけで、ロヒットとは一度もじかに会ったことのないままでしたが、自分としてはパートナーとして本当にふさわしい相手だと感じたので、型破りな決断に至りました。

対面なしのリモートで意気投合して共同創業?そんなのアリ?と驚かれるかもしれませんが、今日に至るまで二人で成し遂げてきたことを考えると、彼と働くことを決めて本当に良かったと思っています。

資金調達に再挑戦

強力なパートナーを得たことに勢いづき、年明けから資金調達の取り組みを再開しました。

投資家へのプレゼン資料を改善し、全体の尺を5分以内におさめ、用語も平易な言葉に置き換え、図表やイラストも補強し、できるだけ分かりやすくなるようにブラッシュアップ。

また、台本を用意して余計な言葉は省くようにもした上で、自然かつ自信のある話し方を身体に叩き込むように事前練習を繰り返しました。

投資家の方々からのあらゆる質問に対応できるよう、想定される問答をあらかじめ詳細にする準備も抜かりありませんでした。

どんな投資家にどれくらい出資してもらうか

さらに、ここからはかなり踏み込んだ話なのですが、私たちは出資してくれる投資家の「構成」についても事前に考えました。

ロヒットと議論した末にまとめた案は、リードVCといくつかのフォローVCに加え、出資額の小さいエンジェル投資家を多めに集めるというものでした。

このやり方は一般的ではありませんが、サポートを受けるためのネットワークを広げるのにおすすめです。

多くの投資家の方々と契約するのは面倒という人でも、エンジェルリスト・ベンチャー(AngelList Venture)が提供するサービス「ロールアップ・ビークルズ(RUV)」を使えば、多数の投資家からの調達が比較的容易になります。

そうした構成を想定した上で、自分たちが投資家に何を求めるのかをあらためて整理して具体的にどんな投資家に入ってもらうかについては、決めました。

私たちの場合は、DeFi(分散型金融)のプロトコルデザインや流動性の提供、人材採用、次なる資金調達のサポート、メディアへのアプローチなどを支援してもらう必要があると考え、それに合致する投資家を探しました。

端的に言えば、頭脳とネットワークと資本を自分たちに提供し、名門アクセラレータとして知られるYコンビネーター(Y Combinator)の共同創業者ポール・グレアムの言うところの「どこまでも、しなやかに、したたかに(relentlessly resourceful)」(Lionfan氏訳)なチームにしてくれる投資家を引き込もうと考えたのです。

具体的な投資家像が決まってからは、自分たちの人脈を通じて投資家の方々につないでもらえるよう頼みました。

と言っても、誰でもいいから紹介してほしいと頼んだわけではありません。こちらが頼んだ方と、新たにつないでもらう投資家の方の間に、強い信頼関係があるかどうかを考え、ルートを絞り込みました。

例えば、知人にスタートアップのファウンダー(創業者)がいるとして、そこに出資している投資家を紹介してもらえるなら、基本的にそれは良いルートと言えると思います。

投資家に「いきなりメール」は避ける

ここで自分たちの失敗も踏まえて注意しておきたいのは、投資家の方にいきなりメールを送るのは最後まで避けたほうが良いということ。

資金調達先を探し始めたばかりの段階では、紹介してもらえる投資家の数も自ずと限られてくるとは思いますが、そのうち例えばオファーをもらった投資家からの紹介を通じて、当初はつながると思ってもいなかった投資家と出会える可能性もあるからです。

見知らぬ関係なのにいきなり送られてくるメールと、信頼関係のあるルートからの紹介とでは、印象も結果も大きく変わってくると思います。

そういう意味で、自分の人脈をたどって紹介してもらうなら、まずはエンジェル投資家の方々が良いでしょう。最初のミーティングで出資を決断してくれるケースも少なくありません。

一方、VCに声がけする場合は、その中のどんなポジションの方にコンタクトするのかが大事になってきます。

理想的には、意思決定権を持つゼネラルパートナーと話ができるなら、テンポの良い展開が期待できます。それが難しい場合は、少なくともそのVCの中で自分たちを売り込んでくれる人を見つけたいところです。

また、「どうしてもここから投資を受けたい」というVCがある場合でも、いきなりその意中のVCに声をかけたいところを我慢して、他にいくつかのVCと話してから「満を持して」のほうがいいでしょう。ピッチを繰り返すことで話し方や受け答えが上達していくからです。

いずれにしても、私たちは投資家とのミーティングは数週間以内にすべてを終えるよう算段して動き始めました。当然のことですが、なるべく早く資金調達を完了させ、プロダクト開発に100%集中する時間をできるだけ多く確保する必要があるからです。

なお、必要な資料はすべて事前に共有してピッチに臨んでいました。私たちが話した投資家の方々の約半数は、資料を事前にチェックしてくださったので、プロセスがより早く進んだように思います。

ピッチ開始

ここまで述べたような事前準備をいろいろ終えた上で、私たちは結局、1月末頃に投資家の方々へのピッチに着手しています。

ミーティングは基本的に5〜10分間のピッチの後に質疑応答という構成でしたが、投資家の方によっては、途中でガンガン質問してきたり、ピッチを止めてディスカッションに突入したり、変則的なケースもありました。

私たちとしては明確なコミュニケーションが取れるならどんなスタイルでも構わなかったので、柔軟なスタンスで準備も現場も対応しました。

ミーティングの最後にはこちらから必ず、投資のスタイル(リードかフォローオンか)や典型的な投資額、さらに、どんなふうに自分たちに貢献してもらえるのかを聞きました。

ほとんどの場合、大きな力になれるとの心強いお言葉をいただくのですが、私たちはそれで終わりにせず、これまでの投資先に具体的にどんな価値を提供してきたのか、もう一歩踏み込んで聞くようにしていたのです。

ミーティングで鋭い質問をしたり、ミーティング後に積極的に人を紹介してくれたりする投資家こそ、実際に力になってくれることが多いと感じています。

そうやってピッチを繰り返しながら問答リストや資料の改善を続けた甲斐あって、資金調達は順調に進み、いただいたオファーの数は数週間で25件以上に達しました。

でも、オファーをすぐに受けるということは基本的にしませんでした。

すべてのオファーが出揃っていない状態、特にリードインベスターの出資配分が決まっていない段階で軽々しく約束して、後でその約束を反故にするようなやり方だけは避けたかったからです。

他に良い言葉が見つからないのですが、言ってみれば、お互いの「期待値のコントロール」は良い関係を築く上で大切だと思います。

もう駄目かと思った

そこまで順調に話が進んだので、リードインベスターになってくれそうないくつかのVCと話を始める頃には、彼らを説得できる十分な自信が付いていました。実際に数多くのオファーをいただいたし、ピッチを繰り返してどんな質問にも答えられると感じていたからです。

正直に言えば、それぞれとのミーティング終了後は、万事うまくいったとの確信もありました。

ところが、待てと暮せど何の連絡も来ず。沈黙の間にどんな話がされていて、何が起こっているのか分からないので、すごく不安になったことを覚えています。

しばらくすると、出資見送りのメールが届き始めました。いずれも読むのがキツかったです。

「断られるのに慣れろ」はどうかと思う

少し脇道に逸れますが、ここで「断られる」ことについて触れておきたいと思います。

よく「断られるのに慣れろ」というアドバイスを受けますが、私たちにはあまりしっくりきません。慣れようとするより、考え方を変えたほうがいいと思うのです。

繰り返しになりますが、大事なのは「期待値のコントロール」です。

一度も断られずに資金調達を完了させるのはさすがに曲芸レベル。いまや旅行業界を代表する企業の一つに成長したエアビー(Airbnb)ですら、VC7社に断られています。断られることがないと考えていると、実際断られた時にキツいです。

また、あらゆる投資家を説得する必要はないと理解することも大事。とりわけ、リードインベスターは1社で十分なので。

さらにもう一つ、資金調達の結果でスタートアップの成否が決まるわけでないことを忘れないでください。資金があるのはもちろん良いことですが、著名VCからの大型資金調達に成長したところで、グロースできなければ何の意味もありません。

それどころか、グロースして利益を上げられれば、そもそも資金調達の必要はないのです。

投資家を積極的に「動かす」

リードVCの話に戻ります。

意中のVCから沈黙と拒絶が続く中で、私たちは立ち往生しました。自分たちでバリュエーション(企業価値評価)を設定して、リードインベスターなしで資金調達を完了させる選択肢も検討しました。

そうこうしているうちに3月に入り、想定していたより資金調達に時間がかかってプロダクト開発に集中できないこともストレスとなり、この時期が一番キツかったです。

待ちきれなくなり、沈黙の続いていたVC数社に連絡を入れてみましたが、下手なやり方だったと反省しています。特に理由もなく連絡するのは、こちらが切羽詰まっていると言っているようなものです。

それでも、スピードを上げるために何かをする必要がありました。

連続起業家でエンジェル投資家のAmyに相談してみると、そこに解決策がありました。

彼女によると、VC界隈では(単独での意思決定権を持つ)パートナークラスとのミーティングが重要なイベントであるとのこと。

私たちはすでにいくつかのVCとパートナーレベルのミーティングを終えていましたが、その情報を他のVCには共有していなかったのです。

すぐにその情報をメールで提供し、それでも結局連絡の来なかったVCもありましたが、何とか事態は動き出しました。

先に触れたように、スタートアップはできるだけ素早く資金調達を完了させ、ビジネスに集中するのが何より重要です。起業家はなるたけそのプロセスを加速させるため、投資家に積極的に働きかけて動かす必要があると思います。

例えば、パートナークラスとのミーティング開催や他の投資家からリードオファーがあったことなど、資金調達に関わる重要なイベントについての情報を提供することで、判断を決めかねている投資家を動かすことができるかもしれません。

ついに契約締結へ、最後までリモート

そんなわけで、絶望を感じた時期もありましたが、ついに意中のVC数社のうち1社からリードオファーをいただくに至りました。

そこで一息つけたものの、すぐにその後のコミュニケーションを慎重に取ろうと気を引き締め直しました。

と言うのも、出資話が不意に立ち消えるのはよくあることで、キャッシュが銀行に入るまでは安心できないのです。私自身、以前創業した企業で出資したいと言っていた投資家と連絡がつかなくなった苦い経験があります。

オファーをいただいたVCには、すでに話をしている他のリードVC候補との交渉をある期日までに終わらせ、新たなリードVCとのミーティングはスケジュールしないことを約束。同時に、話をしていた他のリードVC候補には、最初のリードオファーをもらった旨を伝えました。

これで残りのリードVC候補との交渉がスピードアップし、結果としてもう一つリードオファーをいただき、結局後者を受けることに決めました。

リードオファーを複数いただけたことは、その後の詳細な条件を詰める上で有利でした。ご想像の通り、どちらか一つ失っても怖くないという強気の姿勢を取ることができたからです。

最後は、共同創業者のロヒットと(後者のVCとの契約内容で)妥協できる点できない点などを話し合い、先方と互いに腹の底まで納得できる条件で合意できるように何度かやり取りを重ねた後、契約書にサインしました。

もちろん、最終交渉まで含めてすべてリモート、オンラインでのやり取りのみです。

2番目にリードオファーをいただいたVCが、記事冒頭で名前を挙げたNFXです。

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米シリコンバレーの有力VC、NFXはキャラペイスへの出資を発表した(同社ウェブサイトのスクリーンショット)。

Screenshot of NFX website

NFXに決めたのは、自分たちを「どこまでも、しなやかに、したたかに」成長させてくれると確信したからでした。

彼らのデューデリジェンス(事前審査)は極めて徹底的で、こちらにも相当なストレスがかかりました。それに、最後のピッチは著名な投資銀行ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)のパートナーが同席でした。

それだけ厳しい関門をくぐり抜けての交渉だったからこそ、私たちも彼らとうまくやっていけると確信できたのです。

NFXとの最終の詰めがまとまってから、他にオファーをいただいた投資家の中からラウンドに参加してもらう先を決め、出資比率に関して話し合いを持ちました。

すべての投資家の方々に入ってもらうことはできませんでしたが、オファーをいただいたことに深く感謝しています。

パンデミックを経て、企業の資金調達環境は大きく変わったと多くの方々が感じていることと思います。

スタートアップにとって良い影響も悪い影響もありましたが、少なくとも私たちはメールやビデオ会議だけを通じて、日本円にして3億7000万円の資金調達を実現できました。

そして、私たちの考えでは、これからより多くの会社が、アメリカに拠点を置かなくても、シリコンバレーのVCからの資金調達するようになっていくと思います。

(編集:川村力)


三野泰佑(みの・たいすけ):慶應義塾大学卒。2013年頃にブロックチェーンをはじめとする分散型技術に出会う。分散型技術を活用したプロジェクトに携わる傍ら、独学でプログラミングも習得。モバイルのウォレット、オープンソースのソフトウェア、オプション取引サービスなどを開発する。2022年1月、キャラペイス(Carapace)をロヒット・サブニスと共同創業。Twitter: https://twitter.com/taisuke_mino_JP

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