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グッドデザイン賞とっても「ずっと自分の儲けはなし」預金口座3ケタも笑い話に【R65・山本遼2】

R65社長_山本遼

撮影:伊藤圭

65歳以上の人向けの物件を取り扱う「R65不動産」のミッションは、「いくつになっても、好きな場所に住める社会の実現」。

R65社長の山本遼(32)は、高齢者でも借りられる賃貸物件の流通量を大幅に増やし、創業4年目にして2020年度のグッドデザイン賞を受賞する。審査委員からは、こう評価された。

「不動産会社や物件オーナーの事業上の課題、心理的障壁など、複数の課題が横たわっている。複数の課題から目をそらすことなく、施策を組み合わせてビジネスとしても成功させている」

だが事業を軌道に乗せるまでは難局が続いた。

「絶対に儲からないからやめておけ」

独立後の山本遼

不動産会社から独立した当時の山本。メディアにも取り上げられ、知名度は上がったが、事業としてはなかなか成り立たなかった。

提供:R65

ニーズが増える手応えを感じた山本は会社を退社し、2016年に「R65」を法人化した。社員も1人、2人と雇い入れ、山本は2017年にはテレビ東京系列の経済ドキュメント番組「ガイアの夜明け」にも出演。社会起業家としての知名度も上がっていった。だがそれで、R65不動産の事業も安泰、とはならなかった。

「物件を貸し出す大家さんも集まってきて、メディアにも取り上げられて、これは儲かるぞと思うじゃないですか。それが全然儲からないんです。

そこで計算してみたら、高齢者の場合は成約までに、若い人の3倍近く時間がかかっていた。通常、若い社員一人当たりに30万円のお給料を払う仕事なら、90万円必要だということです。『終わった』と思いましたね」

高齢の人の場合、内見で2軒くらい回ったところで「今日は、ちょっとしんどい」と、残りはまた後日に仕切り直して回ることもよくある。気に入った物件が見付かっても、「やっぱり子どもに相談してから決めることにします」とペンディングにして帰ることもざらだ。契約に至るまでも、メールより電話を使う人が多い。要所要所で時間がかかるのは、考えてみれば当然のことだった。

ここでようやく、前の会社で上司が言っていた「絶対に儲からない」という言葉を思い起こした。「そういうことだったのか……」と腑に落ちた。

一番焦ったのは、自分の預金口座に残ったお金が3ケタしかなかった時だ。

「3ケタって、小銭ですよ(笑)。つい最近まで社員の給料を払うのに精一杯で、自分の儲けはなし。ここまで事業を投げ出さずにやってこられたのは……若さと馬力とプライドですね。自分は社会に貢献するために会社を飛び出したんだぞ!っていう」

不動産サービスはDIYする

この事業を発展させたブレイクスルーは、まずは「R65不動産」という旗を立てた斬新さ。2つ目は、安心して賃貸契約を結べる新しい見守りと補償の形を作ったことだ。

真骨頂は、住む高齢者の目線に立った、格安の「見守りサービス」を独自に開発したことだ。山本はサービス会社に200件当たって内容を検証したが、借主が常時監視されるような「見守る家族側の目線」のサービスがほとんどだった。

「監視される生活は、窮屈に違いない。欲しいサービスは協業して自分たちでつくればいい」

そう考えた山本は、万が一孤独死が起こった際にも対応できるよう、新電力会社と新たな見守りサービスを開発。2018年からサービスを提供している。電気の使用量を確認できるスマートメーターとAIを使って、電気の使われ方に明らかに変化が見られれば通知する仕組みだ。

見守り電気の説明図

「R65不動産」公式サイトよりキャプチャ

また、2019年にはNECと、照明内の人感センサーで長時間通過がない時は連絡がいく「見守り付き照明器具」も共同開発した。

さらに、原状回復の費用保証や、遺品整理、特別な清掃などを賄う保険も整備。見守りと保険をセットにしたサービスのメニューも用意し、借主とオーナーと、両方が安心して賃貸契約を結べる仕組みを作ってきた。いわば、「不動産サービスのDIY」である。

そして3つ目が、物件の流通経路のテコ入れなのだと山本は言う。

起業当初は1都3県を中心に、山本ら自社のスタッフのみで物件探しを行なっていたが、3年目からは事業のプラットフォーム化に舵を切った。パートナー不動産会社を募り、ポータルサイトへの物件掲載料を取る形で、借りられる物件を全国エリアに広げていったのだ。

今ではパートナーとなった会社が約40社に上り、取り扱い物件数は2000件を超えている。2021年夏からは、地元の広島にR65不動産の支部も開設。今は不動産業界の中でも「高齢者でも積極的に仲介しよう」という動きが出てきたという。

「旗、新しい見守りと補償、プラットフォーム化。この3つが合わさることで、事業がグンと伸びましたね」

売り上げの半分はシェアハウス事業

さらに、何気なく2016年から始めた空き家活用のシェアハウス運営事業に救われた。シェアハウス運営については、連載の最後に詳しく触れるが、現在のR65の売り上げの5〜6割はシェアハウス事業の収益で賄われているという。

長い孵化期を経ながら事業を継続させた経験から、山本は実感を込めて言う。

R65社長_山本遼

撮影:伊藤圭

「これから挑戦を始めるという人に言いたいのは、短期的な失敗は、長い目で見れば誤差のレベルだということ。いずれは笑い話としてネタになりますから」

次回は、東日本大震災での学生ボランティア活動を通じて社会起業家の生き方に目を開かされた山本の生い立ちとパーソナリティに迫る。

(敬称略・明日に続く)

(文・古川雅子、写真・伊藤圭)

古川雅子:上智大学文学部卒業。ニュース週刊誌の編集に携わった後、フリーランスに。科学・テクノロジー・医療・介護・社会保障など幅広く取材。著書に、『「気づき」のがん患者学』(NHK出版新書)がある。

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