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「エンタメは究極の衝動買い」アニメやアーティストのグッズ販売ビジネス最前線、DX戦略でファンに熱と喜びを。

エンタメ業界に特化したECプラットフォーム「Groobee」を運営するBEENOS Entertainment取締役の玉谷芳和氏にグッズ販売の「エンタメDX」について聞いた。

エンタメ業界に特化したECプラットフォーム「Groobee」を運営するBEENOS Entertainment取締役の玉谷芳和氏にグッズ販売の「エンタメDX」について聞いた。

Business Insider Japan

今、アニメのイベントやアーティストのライブなどで必要不可欠な存在になりつつあるのが「グッズ」だ。 缶バッジやペンライト、Tシャツなどの定番商品のほか、コロナ禍以降は部屋に飾ることができるアクリルスタンドも需要が高まっている。

今やエンタメ業界でオリジナルグッズは定番商材となった。ところが頻繁に起こるのが「売り切れ」だ。ペンライトやTシャツなど現地で身につけたいグッズは午前中には完売し、長時間並んだのに「推しの缶バッジ」が売り切れ、手に入らなかった経験を持つ人もいるだろう。

グッズ提供には販売側にも特有のリスクがある。量産すればするほど材料費や製造費、人件費がかかり、販売個数は“人気”で大きく左右される。事前の予測と実際に購入されるグッズの個数が大幅にズレると在庫不足による売り逃しや過剰な在庫を抱えてしまう。

そんなグッズを提供する側と購入するファンのジレンマの解決をしようと挑戦する企業がある。エンタメ業界に特化したECプラットフォーム「Groobee」を運営するBEENOS Entertainment(以下、BEENOS)取締役の玉谷芳和氏に、グッズ販売の「エンタメDX」について聞いた。

「人気」と「流行」に左右されるエンタメ商品

Groobeeでグッズ販売をするアーティストの属性。

Groobeeでグッズ販売をするアーティストの属性。

出典:BEENOS株式会社プレスリリースより。

10年前、玉谷氏はBEENOSグループ内にEコマース(通販)やマーチャンダイズ(ライセンス商品の企画、製造、販売)を扱う会社を設立。そのノウハウをもとにBEENOS Entertainmentを立ち上げた。2021年1月にはアーティストやキャラクターコンテンツなどエンタメに特化したECプラットフォーム「Groobee」(グルービー)をローンチした。

現在までにアニメ・声優関連の番組を提供するラジオ局、アーティストなどECオーナーのサイト構築や運営、グッズの製造・販売を一括してサポート。制作サイト数は50件を超え、利用者数は20万人を突破した。

「エンタメ系の商品はアパレル業界の商品と似たところがあります。生活必需品とは異なる嗜好品で『自分が価値を見出して購入する』点です。その上で、アパレルよりも利点と言えるのが、『唯一無二』であることです。お客さまに価値が認められれば良いので、価格競争にはなりにくいです」(玉谷氏)

エンタメ関連のグッズは、すべてライセンス(作品等IPの使用許諾を得た)ものだ。IPを保有する権利元企業、またはライセンスを借用した企業のみが企画・製造・販売できる。競合他社がいても、それぞれ異なる商品が販売されている。

つまり、顧客が「同じ商品を比較して安いほうを買う」という現象が起こりにくい。「価格」ではなく「価値」で勝負できる点は、グッズ商品の大きなメリットだ。

加えて「宣伝コストが低い」こともエンタメ商材の特徴だ。アパレルのように、大規模なプロモーションをしなくても、ファンが商品情報を積極的に追いかけてくれる。

では、デメリットは何だろうか。

「これはアパレルと同様です。『人気』と『流行時期』に大きく左右されてしまう。足りないものは一瞬で在庫が切れてしまう。かと思うと見積もりより売れない場合もある。在庫を抱えるリスクがあります 」(玉谷氏)

「商品投下のタイミング」が売り上げを大きく左右し、在庫不足や在庫過多のリスクが起きる。この2つがビジネス上のボトルネックになっていた。

Groobeeではこれらの課題にどう向き合ってきたのだろうか。

商品投下のタイミングは「四段構え」

Groobeeにおけるグッズ購入実績ランキング。

Groobeeにおけるグッズ購入実績ランキング。

出典:BEENOS株式会社プレスリリースより。

まず、Groobeeでの商品投下の商品投下のタイミングについて、玉谷氏はこう説明する。

「例えばアーティストさんのライブ物販ですが、当日の会場販売では終わらせません。ECサイトでの『事前通販』を2回、現地での『会場物販』を1回、『事後通販』を1回の『四段構え』で対応しています」(玉谷氏)

事前通販の第1弾は「イベント前の自宅配送」だ。

この期間に購入すればライブ前にグッズが自宅に届く。これは、顧客に対して“ライブTシャツを着てライブ会場に来てね”というメッセージを込めている。

事前通販の第2弾は「現地会場での受け取り」だ。

これは自宅配送よりも遅い時期まで申し込みに対応できる。ファンはこの時期までに購入すれば、ライブ会場で物販列に並ばなくても会場でグッズを身につけることができるわけだ。

そしてライブ当日は会場物販の対面販売。さらにライブ終了後、ECサイトで「事後通販」も展開する。

気になるのが、事前通販のタイミングを2回設ける理由だ。“四段構え”の販売ではグッズの発送に工数と人件費がかかってしまう。それでもなぜ、事前通販を2回やるのだろうか。

「『タイミングが重要』という話と関係しますが、お客さまの中にはライブに行けるかどうか、日程が迫らないと決められない方がいらっしゃるんですね。

加えて、例えば最初の事前通販でTシャツを買われたお客さまが、アーティストさんがSNSに投稿した写真を見て、『やっぱり(ライブで使用する)タオルも買おう』などと“追い買い”される場合もあります。つまり、“心の変化”に即対応することで『売り逃し』のリスクを回避しています」(玉谷氏)

ライブのグッズは、会場で身につけることがファンにとって大きな意味を持つ。そのためにも事前通販は2回設けている。

課題は「現地会場のグッズ売り切れ」と「製造のリードタイム」

ECサイトを利用するファンの年齢層は若年層の20代が47%と大半だ。

ECサイトを利用するファンの年齢層は若年層の20代が47%と大半だ。

出典:BEENOS株式会社プレスリリースより。

事前販売はコロナ禍で拡充が進んだ。「現地物販と事前通販では半々程度、もしくは事前通販のほうが比率が高い」(玉谷氏)という。

では、現地会場の物販では「売り逃し」リスクはあるのだろうか。

悩みの種となるのが「物販会場での売り切れ」だ。遠方から会場に駆けつけて物販の列に並んでも、ペンライトのような人気アイテムが午前中に完売し、入手できないケースが多々ある。こうした事態にGroobeeではどのように対応しているのか。

「ペンライトやTシャツのようなメインの商品は売り切れが起きないように過去のライブでの販売実績から予測を立てて発注をかけています。

それでも売り切れてしまった場合は、その段階で事後通販用に製造の発注をかけます。とは言え、残念ながらECサイトに即補充ができない、製造にリードタイムを要するグッズもあります」(玉谷氏)

「リードタイム」とは、商品を工場に発注して、製造・納品までにかかる日数のことだ。 たとえば特殊な形のペンライトなど立体造形を必要とするアイテムは、工場で「金型」を作るところから始まる。

グッズは不足がわかった段階で発注をかけても、工場からの出荷までの間は品切れになってしまう恐れがある。さらに発注した工場が海外にある場合は、納品まで2ヵ月から2.5ヵ月ほどかかってしまうケースもあるという。

製造期間を短縮&在庫リスクを解決する「オンデマンド印刷」

グッズを販売する企業は、オンデマンドで様々なグッズを無在庫で販売する事ができる。

グッズを販売する企業は、オンデマンドで様々なグッズを無在庫で販売する事ができる。

groobee.comより

製造からファンの手元に届くまで時間がかかるアイテムがある一方、短期間で製造できるグッズもある。Tシャツ、アクリルスタンド、キーホルダー、缶バッジなど、アイテムに「印刷」して製造するグッズだ。

「近年、印刷会社では『オンデマンド印刷』という非常に早く製造できる技術が普及してきました。オンデマンド印刷であれば完成品が1日で仕上がります」 (玉谷氏)

「オンデマンド」は同人誌でも見かける印刷法だ。最初に「版」や「金型」を作ることなくPCにデータを送り、インクジェットプリンター等で商品に直接印刷できる。

「従来ならグッズの印刷は『版』から作るため『最低ロット』とされる100個以上からしか注文ができませんでした。一方、オンデマンド印刷であれば1個から製造できます。『今日はこのアイテムを50個だけ作ろう』ということも可能です」(玉谷氏)

「少量から制作可能」「短期間で完成できる」というオンデマンド印刷の特性が、エンタメ業界で発生する「ピンポイントですぐに補充したい」ニーズと合致した。

オンライン上で制作したオリジナルグッズは製作・注文から最短で翌日に出荷でき、品切れや在庫リスクもない。人気のタイミングで商品が出せないといった課題も解決できる。

「今後のグッズ生産は、確実にオンデマンド製造が主流になってくると思います。アパレル商材でも技術革新が起きており、アメリカなどではすでにニットに印刷したりする例もあります」(玉谷氏)

Groobeeでもオンデマンド印刷をオリジナルグッズ制作等にも活用している。

エンタメDXで「多品種」「出荷作業」の煩雑さの解決目指す

Groobeeでのグッズ販売の流れ。

Groobeeでのグッズ販売の流れ。

出典:groobee.comより

ただ、グッズの製造期間が短縮されたことが即グッズ販売の効率化につながるとは限らない。

もうひとつの大きな課題が、グッズの製造と顧客の紐付けだ。

「近年のエンタメ商材は、種類が多岐に渡ります。ソーシャルゲームのようなキャラクターが多いコンテンツの場合、『この缶バッジはキャラクターごとに100種類販売しましょう』ということが頻繁にあります。すると『画像データ』と『顧客の注文』と『商品の種類・個数』の“紐付け”が非常に複雑になるんです」(玉谷氏)

Tシャツであればデザインとサイズ違いが発生する。また近年のアイドル系ゲームでは、キャラクターが100人を超えることもしばしばだ。

エンタメ業の特徴である「多品種」によって「商品と顧客情報の紐付け」が煩雑になっている課題がある。膨大な顧客の注文リストを見ながら、「どのアイテムが何個必要なのか」という紐付けを人の手で行おうとすると、非常に煩雑になってしまう。

グッズを工場に発注し、購入したファンがグッズを受け取るまでの工程の多さも、販売の効率化を妨げていた。商品と顧客情報を紐付ける出荷作業のため、製造した商品を倉庫に一旦搬入していたからだ。

【従来の物流】ライセンス所有企業→製造メーカー(OEM)→工場→倉庫(在庫管理)→出荷(店舗や個人宅へ)

Groobeeでは顧客と受注商品のデータ紐付けることで、ファンの手元に商品が届くまでの工程をショートカットできるようになった。

【Groobeeの場合】製造工場→出荷(店舗や個人宅へ)

「Groobeeでは、各情報の紐付けをシステム連携で行っています。『Groobeeの受注管理システム』と、製造メーカーの『製造システム』の連携が本サービスの要となるものです」(玉谷氏)

受注から出荷までをITで一括管理することで、情報の紐付けにとどまらない大きなメリットが生まれるという。

「顧客と商品のデータが紐付けされていれば、工場に直接顧客データを送ることで、工場から完成品を直接お客さまに発送することができる。製造メーカーから出荷倉庫を通さなくても良いメリットは大きいです」(玉谷氏)

倉庫の商品在庫はシステム連携で一括管理。そうすることで、先に述べたような「売り逃し」を防ぐ。それは在庫過多というエンタメ業の大きなリスクを未然に防ぐことにもなる。

IT管理によって工数を減らし、在庫不足や在庫過多をなくす。依頼者であるエンタメ企業の売り上げ最大化を図る。BEENOSではこれを「エンタメDX」と呼んでいる。

エンタメは「究極の衝動買い」──ファンを長く続ける楽しさを伝えたい。

インタビューに応じたBEENOS Entertainment取締役の玉谷芳和氏。

インタビューに応じたBEENOS Entertainment取締役の玉谷芳和氏。

Business Insider Japan

現在、BEENOSでは日本のコンテンツを愛する海外在住のファンに向けて通販代行サービス「Buyee」も展開。B to Bでありつつも、ECサービスを通じた「ファン」の熱気を高めることも目標にしている。

「エンタメって『究極の衝動買い』だと思います。いかに「わ~!これは面白い!買おう!」と瞬間的に思ってもらえるか。スピーディに商品を届けることでお客さまの熱と喜びが冷めないようにしたい」(玉谷氏)

エンタメ業界では、在庫リスクを無くすため、注文が入ってから商品を作る「受注生産」という形を取るケースもある。だが商品の到着が遅ければ、顧客が興ざめしてしまう。

グッズは、エンタメ企業のマネタイズ手段にとどまらず、顧客に「ファンを継続してもらう」ために存在する。自宅に置いたり、身につけることで愛着もわく。

グッズが「コンテンツの熱を冷まさせない、忘れさせない存在になる」と、玉谷氏は語る。

「アーティストさんも、ライブがない時期も含めて月1回はグッズを出したほうがいいと思います。そうすればお客さまは毎回ECサイトを見に行くことが楽しみになり、習慣にしてもらえる。ファンを継続してもらうことにつながります。

『熱気を保つ』『常にファンでいてもらう』という発想は、今後のエンタメビジネスで重要になってくると思います。僕らもエンタメ企業様の商品サポートを通じて、お客さまに買う楽しさとファンを続けていく楽しさを伝えたいです」(玉谷氏)

(取材・文:渡辺由美子、編集:吉川慧

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