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コロナのパンデミックという世界的な健康危機は、女性が職場でどれほど不利な条件を強いられているか、女性にとっての出世が男性のそれとはどう違うかを明らかにするためには必要だったのだろうか。
そうかもしれない。
新型コロナウイルス感染症は、働く女性、特に第一線で働く女性や幼い子どもを持つ母親たちに直接的かつ壊滅的な影響を与えた。パンデミックの発生から2年半以上経った今でも、その影響は幹部人材の間にもまだ広がっていることが、新たに発表された報告書で明らかになった。
マッキンゼーと非営利団体リーンイン(Lean In)が発表した報告書によると、2021年はかつてないほどの数の女性リーダーたちが会社を去り、仕事を辞めた男性幹部と女性幹部の差は過去数年で最大となった。
退職の理由はさまざまだが、主に昇進機会の欠如、柔軟性に欠けるスケジュール、日常的な性差別に対処しなければならないこと、名ばかりでほとんど報われない「ダイバーシティ」や「インクルージョン」絡みの仕事をこなすことへの疲労が原因であると報告書は伝えている。
リーンインのレイチェル・トーマスCEO。
本人提供
リーンインの共同設立者兼CEOであるレイチェル・トーマス(Rachel Thomas)は次のように話す。
「雇用主は昇進にまつわる2つの問題を抱えています。女性幹部は退職率が高いという問題、それと、依然として男性が昇進する確率のほうが断然高いという問題です。これは、企業に対して警鐘を鳴らすべき問題です」
いま米国企業は、職位を問わずあらゆるレベルの女性の雇用と維持に苦心し、給与と昇進を公平なものにしようと取り組んでいる。そんななか同報告書は、組織が女性人材を確保する最善の方法について、いくつかの提案を行っている。
本稿ではその中から、特に重視したい3つの項目を紹介する。
女性リーダーの半数が「柔軟性」を重視
4万1000人以上のアメリカ人従業員と300人の人事責任者を対象にした同報告書の調査では、女性リーダーの約半数が、入社するか留まるかを決める際に考慮する上位3項目の1つに「柔軟性」を挙げている。ちなみに、男性リーダーでこの項目を挙げたのは34%だ。
そのため専門家は、女性の定着のためには「柔軟なスケジュール」と「リモート勤務」という要素が不可欠だと指摘する。そのうえで、リモート勤務やハイブリッド勤務の従業員を、「オフィスの滞在時間」によってではなく、測定可能な成果に基づいて評価するよう対策を講じる必要がある。
「雇用主は、誰に対しても公平に競争できる場を提供する必要があります」(トーマス)
キャリア開発へのサポートを
報告書の執筆に携わったマッキンゼーのラレイナ・イー。
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若い女性、特に有色人種の女性向けの専門能力開発制度への投資も必要だ。同報告書によると、新入社員から管理職に昇進したのは男性100人に対して女性は87人、しかも有色人種の女性の昇進はわずか82人であることが判明した。
マッキンゼーのシニアパートナーで同報告書の筆者であるラレイナ・イー(Lareina Yee)は、女性の昇進を促すために、専門スキル開発の仕組みをつくったりシニアリーダーが女性を指導する取り組みから始めるのもおすすめだと語る。
「有色人種女性向けの公式キャリア開発プログラムは、彼女たちが希望を叶えるために必要なスキルを得るのに役立ちます」(イー)
DEIは従業員満足に大きく影響
最後に、DEI(多様性・公平性・包摂性)への投資も重要だ。同報告書によると、同じ職位の男性と比較して、女性リーダーは士気を高め、DEIを推進することに積極的であることが分かった。
だが、こうした活動によって企業定着率や従業員満足度が高まることは研究でも示されているものの、これらは企業の貸借対照表に現れるわけではないため、業績評価にもほとんど反映されていない。
インクルージョン・コンサルタントのウェイド・ヒントン。
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また同報告書によれば、女性リーダーは「インクルージョンにもっと熱心に取り組んでいる雇用主のもとで働きたい」という理由で退職したことのある人が、男性の2倍近くもいるという。
「従業員が帰属意識やつながりを感じられる環境を作っていないなら、それは革新的なアイデアを逃しているも同然です」と話すのは、インクルージョン・コンサルタントのウェイド・ヒントン(Wade Hinton)だ。
多くの雇用主がインクルージョンの促進と従業員のウェルビーイングへの取り組みのサポートを女性リーダーに頼っておきながら、そうと自覚していないのだ。
「それを見た他の従業員に退職されたら、会社にとってはまさに信用リスクそのものです。他の女性はどう思うでしょうね」
(編集・常盤亜由子)