アークエルテクノロジーズ代表の宮脇良二氏(左)は、新サービスの導入によって「正しいアプローチでカーボンニュートラルに取り組める」効果を強調した。
提供:アークエルテクノロジーズ
大手からスタートアップまでさまざまな企業の参入が相次ぐ「CO2見える化ツール」市場。しかし、二酸化炭素(CO2)排出量を把握できたとしても、そこからさらに効果的に削減していく具体策の立案・実行で行き詰まる企業も少なくない。
福岡を拠点に展開するスタートアップ、アークエルテクノロジーズは10月20日、CO2排出量を算定・可視化する「CO2見える化」に加え、カーボンニュートラル(脱炭素化)への最適手法の自動提案までをサポートする新サービス「カーボンニュートラルシミュレーター」を開発したと発表した。
アークエルテクノロジーズのツールは、CO2見える化だけでなく、具体的な排出量削減施策についても、設定予算内で最も効果的な施策の組み合わせを抽出するほか、最適化アルゴリズムを用いたシミュレーションが行える。見える化から具体的施策まで網羅したツールは国内初だという。
新サービス「カーボンニュートラルシミュレーター」の画面イメージ。
提供:アークエルテクノロジーズ
中小企業向けのサービスも提供
アークエルテクノロジーズによると、現在大企業向けのカスタム版や中小企業向けの業種別汎用版など、複数のラインナップを準備しているという。
カーボンニュートラルシミュレーターは、2022年12月から支店やグループ会社の多い大手企業をメインターゲットにしたカスタム版の提供をスタート。このカスタム版を汎用化したSaaS版についても、2023年4月以降に提供開始する。なお、シミュレーターとセットで使う大企業向けの「CO2見える化ツール」のカスタム版も、2022年12月から提供を開始する予定だ。
加えて、2023年4月以降には簡易版の計測・見える化機能とシミュレーターを組み合わせた中小企業向けの業種別SaaSの提供も順次開始するという。
今回発表したアークエルテクノロジーズの新サービスの概要と提供開始時期。
提供:アークエルテクノロジーズ
この中小企業向けのサービスについて、アークエルテクノロジーズ代表の宮脇良二氏は、
「カーボンニュートラルの実務としては業界ごとに排出源単位や計測の仕方、範囲が異なるため、業種別に汎用化したSaaS版を中小企業向けに提供していく」(宮脇氏)
と語った。まずは、都市ガス企業、運輸企業、小売企業向けに提供していく考えだ。
大企業・中小企業向けなどで価格は異なるものの、
「現在提供されている温室効果ガス排出量計測ツール(CO2見える化ツール)は、1拠点あたり毎月8000〜1万円がおおよその平均価格。それに対し、我々のツールは見える化とシミュレーターの組み合わせで、同価格帯での提供を目指している」(宮脇氏)
と、競合他社に対する優位性を語った。
カスタム版のシミュレーターについてはすでに2社での導入が決まっており、今年度中にさらに5〜6社への導入を目指す。2030年には100億円の売り上げを目標に掲げている。
コンサル・ノウハウをツール化
今回の新ツールの目玉は、具体的な削減施策を提示できるところにある。
カーボンニュートラル達成の目標年や拠点(建物)ごとの予算・設備といった項目を入力すると、予算の範囲で効果的な施策を表示。その施策を実施した場合のCO2排出削減量をシミュレーションして提示する。
「一番の特徴は、予算の範囲内で具体的にどんな施策を進めていくべきか、優先順位をつけて具体的な施策を建物ごとに提示できること。
設備更新や運用改善など、エネルギー管理士や省エネエキスパートといったエネルギーの専門家が提案するレベルの、かなり具体性を持った施策を予算感まで含めて提示できる」(宮脇氏)
開発にあたって、空調や照明といった最新の設備・機器の性能、EVの情報、電力の料金メニュー、補助金といったさまざまな情報を独自にデータベース化しており、「今取り得る最高の経済的な施策は何なのかを提供できる」(宮脇氏)という。
「カーボンニュートラルシミュレーター」の全体像。左上はCO2見える化機能。今後、他社の見える化ツールとの連携も模索していく考えだ。
提供:アークエルテクノロジーズ
カーボンニュートラルに取り組む場合、どんな施策にどの程度の金額・期間をかけて行うべきか、各拠点でロードマップを策定する地道な実務が必要となる。通常はコンサルティング会社に依頼することが多い作業だが、手間やコストがかかることから組織全体で効果的に進めていくのが難しい。
宮脇氏は、大手コンサルのアクセンチュアで約10年、エネルギー部門の責任者としてコンサル業務を手掛けた後にアークエルテクノロジーズを創業。コンサル・ノウハウをツール化したサービスの必要性を感じ、カーボンニュートラルシミュレーターを開発した。
カーボンニュートラル戦略の基本は「電化」「エネルギー効率化(エネルギー使用量を減らす)」「再エネ化」が基本の3ステップだと強調する宮脇氏。その他、どうしてもCO2を排出してしまうものに関しては、石油から天然ガスに切り替えるといった燃料転換や、クレジット購入・カーボン除去で対応するという考え方で進めていくことが重要だという。
「コンサル会社は再エネ導入、EV導入、クレジット活用を主に提案しているのに対し、私たちは電化、エネルギー効率化といった、足元の地道な施策から順番に提案しており、カーボンニュートラルに対するアプローチが異なる」(宮脇氏)
今回発表したツールの導入効果について、宮脇氏は
「日本企業の温室効果ガス削減に対する取り組みの多くが、太陽光PPA(電力販売契約)のような再エネ導入となっているが、私たちのツールを使うことで、もっと地道でかつ費用対効果も高い、エネルギー効率化に関する取り組みが重視されるようになる」(宮脇氏)
と語った。
(文・湯田陽子)