アドビは2019年から「Content Authenticity Initiative」の活動を続けており、その会員数は800を超えた。
撮影:小林優多郎
Photoshopをはじめ、さまざまなクリエイティブ製品にAI技術を活用するAdobe(アドビ)。
アドビが10月18日〜20日にアメリカ・ロサンゼルスで開催した「Adobe MAX 2022」では、ジェネレーティブAIに対する3つの方針が示された。
その3つ目「倫理とデジタル証明に関する標準」について触れておきたい。
これは具体的には、アドビが2019年にTwitterやNew York Timesとともにアナウンスしたコンテンツ認証イニシアチブ(Content Authenticity Initiative、以下CAI)の取り組みのことだ。
合成画像の来歴を追うための「技術」
MAX 2022会場で撮影した集合写真とAdobe Stockで公開されている熊の写真の合成写真の来歴を、Verify (Beta)サイトで確認している様子。筆者の手元には圧縮され、なんのメタデータのない画像しかなかったが、きちんと圧縮前の「元画像」の情報を追えている。
画像:筆者によるスクリーンショット
CAIはそのコンテンツは「誰が」「いつ」「どのように」つくられたか明示/確認するツールや環境を開発、啓蒙活動などをしている。
なお、このコンテンツの来歴を示す技術の仕様は、マイクロソフトとBBCが主導する「Project Origin」とCAIが2021年に合流して設立した「コンテンツの来歴と真正性のための連合(Coalition for Content Provenance and Authenticity、以下C2PA) 」が標準規格として策定している。
国内大手の画像投稿サイトのpixiv(ピクシブ)は、AIで生成された作品についての方針を示している。
出典:ピクシブ
ジェネレーティブAIが存在感を示していく中で、コンテンツの来歴を示す技術は重要だ。
例えば、フォトストックサービスの「GettyImages」や、イラスト依頼サイト「Skeb」では、各サービスに投稿・利用する作品としてAIで生成されたものの投稿を禁止している。
また、国内大手の画像投稿サイト「pixiv(ピクシブ)」は10月20日に、「AI生成作品の取り扱いに関するサービスの方針」を発表。投稿の禁止はしないものの、該当作品に対するタグ付け機能やフィルタリング機能、ランキング機能での分離を今後予定している。
コンテンツ認証情報には、制作に利用したツールや具体的に行ったこと(上図の場合はサイズの調整やアセットとなる写真の統合・読み込み)が保管されている。
画像:筆者によるスクリーンショット
ただ、いずれもサービス規約的な話であり、技術的にジェネレーティブAIで生成された画像を見分ける方法が確立されているわけではない。
C2PA規格によるコンテンツ認証情報や確認する環境があれば、ユーザーやサービス運営者は、投稿者の自己申告の情報だけではなく、投稿された画像の信頼性をチェックできる可能性があるというわけだ。
アドビのコンテンツ認証イニシアチブ(CAI)担当ディレクターのAndy Parsons(アンディー・パーソンズ)氏。
撮影:小林優多郎
そこでキーになってくるのが、CAIやC2PAに参画する企業や団体。そして、それらの企業がいかに自社製品などにコミットするかにかかっている。
アドビは、製品版Photoshopに「コンテンツ認証情報 (Beta)」を搭載、またCAIのWebサイトでは確認ツール「Verify (Beta)」を公開している。
さらに、同社でCAIのディレクターを務めるAndy Parsons(アンディー・パーソンズ)氏は、「2023年には、他のCreative Cloud製品でもこの(CAIの)技術が採用される予定」と予告。
また、パーソンズ氏は画像以外にも広げていく考えも示している。
「私たちが(PDFなどの)書類を修正したり、画像や音声を作成したりするあらゆる場所で(コンテンツ認証の仕組みを)サポートする計画です。ビデオもです。そして、将来的には3Dも含まれます」(パーソンズ氏)
カメラ業界ではニコンとライカが参入
ドイツのカメラメーカー・ライカと日本のニコンが、C2PA準拠のカメラの開発を発表した。ライカは対応カメラを2023年に発表する見込み。
撮影:小林優多郎
現在、CAIに参画している企業や団体の中には、マイクロソフトやGetty Images、ロイターなども含まれる。
また、カメラメーカーのライカとニコンも、自社のカメラでC2PA準拠のコンテンツ認証情報を埋め込める機能を将来的に提供すると、MAX 2022に合わせて発表した。
写真左からニコン 映像事業部 開発統括部 ソフトウェア開発部 第一開発課の末長亮太氏、UX企画部 参事の井上雅彦氏。末長氏はC2PA準拠のコンテンツ認証情報の埋め込みに対応した「Nikon Z 9」の試作機を持っている(実際のZ9への機能搭載は予定されていない)。
撮影:小林優多郎
ニコンはC2PA対応の製品のリリース時期は明らかにしていないが、MAX 2022で取材に応じた同社の井上氏は、開発の方向性について以下のように述べている。
「まずは報道関係者やクリエイターの方に向けて使いやすいものにブラッシュアップしたい。最終的には一般化できれば、アマチュアの方まで使ってもらえる機能になるのではないか」(井上氏)
今後アドビ製品に限らず、こうしたコンテンツの来歴情報が身近に使える機会やツールが増えていくと、ジェネレーティブAIやディープフェイクに関する議論がまた1歩進んでいくだろう。
(文、撮影・小林優多郎、取材協力・アドビ)