無料のメールマガジンに登録

平日17時にBusiness Insider Japanのメルマガをお届け。利用規約を確認


人はなぜ偉くなるとパッとしない上司になるのか。昇進の打診は“降格”と思え【音声付・入山章栄】

サムネイル

Roy Morsch/Getty Images

今週も、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄先生が経営理論を思考の軸にしてイシューを語ります。参考にするのは先生の著書『世界標準の経営理論』。ただし、本連載はこの本がなくても平易に読み通せます。

「平社員時代は優秀だったのに、管理職になった途端にパッとしない上司になってしまった」。あなたの周りにもそんな人がいませんか? この謎現象は、プレイヤーとマネジャーとでは仕事内容が天と地ほども違うにもかかわらず、会社も本人もそのことに無自覚なことから来る悲劇だと入山先生は指摘します。「昇進の打診があったら、むしろそれは降格だと思え」と大胆に言う入山先生の真意とは?

【音声版の試聴はこちら】(再生時間:14分01秒)※クリックすると音声が流れます


あんなに優秀だったのに

こんにちは、入山章栄です。

今回は日本の会社でしばしば見られる「謎現象」について、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。


BIJ編集部・常盤さんの写真

BIJ編集部・常盤

入山先生、先日、友人がこんなことをぼやいていたんですよ。

平社員時代はとても優秀で、上層部のダメなところをズバズバ指摘していた人が、役職がついた途端、なぜかパッとしない上司になってしまうことが多すぎると。

言われてみると私にも、思い当たる人が何人かいます(今の会社ではありませんよ)。この「謎現象」はなぜ起きるのでしょうか?


もともと仕事のできる人だったのに、昇進して管理職になったらなぜか精彩を欠いてしまう。僕も若い頃に三菱総研に勤めていたときに、そういう例を何回か目の当たりにしたような気もします。

こうなる原因は一言で言うと、日本の終身雇用制度のせいであると、僕は理解しています。説明しましょう。

終身雇用制度では、「プレイヤーとして優秀な人ほど出世して管理職に抜擢される」傾向がありますよね。ところがここで問題なのが、プレイヤーとマネジャー(管理職)とでは、仕事内容がまったく違うことです。

プレイヤーとは、いうまでもなく現場に強い人。優れた営業とか、技術者として優秀とか、そういうことですね。でも、マネジャーの仕事は全然違う。マネジャーの仕事は、まさに自分の組織を管理することであり、現場に出るよりも内勤が多くなり、エクセルと向き合いながら評価をしたり、予算管理をしないといけない。部下の成長も促さないといけない。

まさに、天と地ほど違うわけです。でも、そのことを会社も本人も十分に認識していないので、会社も管理職になるための準備をさせないし、本人もしない。管理職研修を行う会社もあるけれど、その程度ではぜんぜん足りない、というのが僕の理解です。


BIJ編集部・常盤さんの写真

BIJ編集部・常盤

なるほど、たしかにそうですね。私自身も管理職になったとき、パワハラ・セクハラ研修のビデオを見て理解度テストを受けたくらいです。


そうでしょう? 本当は、平社員が管理職になるということは「寿司職人が、学校の先生に転職する」くらいのパラダイムシフトのはずなのです。

マネジャーとは何かということさえよく知らないまま昇進して、急に「あれ、もう現場に行けないの? この先、一生内勤でデスクワーク?」と愕然とする。しかも今までは上司に向かってズバズバ言う側だったのに、いきなり言われる側になってしまう。

だからいくら優秀な人でも、管理職になったあとはうまくいかないことも多いし、本人ももともと現場が大好きだったのに、望まない仕事をさせられてモチベーションが低下してしまう。かくして悲劇は起こるというわけです。

僕は日本式の経営がいいの悪いのと言うつもりはありません。ただ、終身雇用でメンバーシップ雇用であるが故に、プレイヤーからマネジャーへの昇進を、かなり安直に考えてき来た節があるのではないでしょうか。海外ではそれこそマネジャーになるためにもMBA(経営管理修士)があるわけですし、またマネジャーに向いた人をそとから中途採用もします。

さらに、マネジャーからディレクター(役員クラス)になるときも同様ですね。日本企業では、役員研修はあるものの、マネジャーとディレクターがまったく違う職業である、後者は特に会社の経営を考えねばならないことをどのくらい研修で徹底化できているでしょうか。

「優秀な人から辞めていく」と言われるわけ

僕が新卒で三菱総研という会社に就職したのは、もう四半世紀前のことです。現在とは状況が変わっているので、これからする話は、あくまで僕がいた当時の話であることをお含みおきください。

現場はよく知りませんが、当時の三菱総研は、東大、京大、東工大あたりの大学院を出て、修士号を持っていないと入れないような会社でした。若手社員たちは優秀な頭脳をフルに働かせて、部署によってはかなり残業していました。

しかしそれと同時に、「うちの会社は優秀なやつから先に辞めていく」と、半分冗談、半分は本音で言われていました。まだ入社したばかりなのに、同期からは「それで、入山くんはいつ辞めるの?」というように冗談混じりで言われたこともあります(まあ僕が優秀だったかはさておきですが)。

なぜみんな辞めることを考えるのか。

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み