2016年まで男性の8割が平日に家事・育児を全くしていなかった。しかし、最新の調査では、その現状がガラリと変わり始めていることが分かってきた。
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先日、5年に一度行われる総務省「社会生活基本調査」の最新結果(2021年調査)が公表された。この調査は、年齢・男女・仕事の有無などのさまざまな属性の人の1日24時間の使い方を調べたもので、男女の家事・育児の分担度合いがよく分かる。
2016年まで男性の8割が平日に家事・育児を全くしていなかった
図表(下)は、この調査から末子が未就学の共働き世帯の2006年~2021年の夫婦の平日1日あたりの家事・育児時間の変化を示したものだ。
この図表の「総平均時間」に着目すると、2016年から2021年にかけて夫の家事は16分から26分へ、育児は28分から41分に延びたものの、2021年時点で家事155分、育児188分の妻との差は歴然だ。男性の「総平均時間」の変化が鈍いことから、これまでの報道では男性の家事・育児分担意識があまり変わっていないと評する見方が大勢だった。しかし、データをつぶさに見ていくと、家事・育児をする男性の割合は大幅に上昇していることが見えてきた。それどころか、日本の家事・育児分担意識が大きく変わるポイントに来ている可能性すらある。その理由をデータで示していこう。
家事・育児の分担は「総平均時間」だけを見ても実態を正確に捉えられない。家事・育児の総平均時間は家事・育児をした人の割合(行動者率)と、家事・育児をした人の平均時間(行動者平均時間)の掛け算で算出される。
例えば、2016年の家事時間を例にとると、男性の家事の「総平均時間」が16分といっても、それは多くの男性が家事をやっていてその平均が16分という意味ではない。実態は、男性の81%は家事時間ゼロ分であり、残りの19%の男性が平均83分の家事をしていて、均すと83分×19%で「総平均時間」は16分と算出されるのだ。
図表のうち、夫の「行動者率」に着目すると、家事・育児とも2006年から2016年にかけて2割前後で低迷していたことが分かる。言い換えれば、これまで共働き世帯の平日の家事・育児は、ほぼ全面的に妻が担っていた世帯が8割ほどで、夫婦で家事・育児を分担していた世帯は2割ほどのマイノリティにすぎなかった(※1)。
この5年間で家事・育児をする男性の比率が急速に上昇
撮影:今村拓馬
しかし、2016年から2021年にかけて、夫の「行動者率」は大きく変わっていた。家事は19.0%から30.9%に、育児は24.4%から35.4%に急上昇し、ついに30%の大台を超えた。
統計を語る上で、「30%」という比率は重要な意味を持っている。「集団マイノリティがマイノリティでなくなるクリティカル・マスと呼ばれる分岐点」(※2)とされており、30%を超えることで「変化が連鎖し、組織の文化を変えるほどの力を持つ」(※3)ことが期待されている。政府が掲げる女性管理職比率の当面の目標値もクリティカル・マスを意識して30%と設定されている。
世代別のデータを見たところ、2021年現在の30代から男性の意識が大きく変わっていることがうかがえる。30代の子育て世帯は、正規雇用で働き続ける女性の割合が急上昇することで、暮らし向きを改善させてきた。家計に占める妻の所得の重要性を実感するとともに、それを維持・拡大するために家事・育児を分担する意識を持つ夫も増えてきているのではないだろうか。
夫の家事・育児の「行動者平均時間」を見ると、2021年現在、家事が83分、育児が114分で、合計197分と1日3時間を超える。これは、無制限に残業や仕事上の付き合いをしていては到底達成できない数字だ。それだけの家事・育児を分担する男性が3割を超え、マイノリティではなくなっているのだ。
企業も、もはや(男性であれば)誰もが長時間残業できることを前提としていては企業は成り立たず、多様な働き方を包摂できる組織に変えていかざるを得ない。
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組織が変われば、残りの7割の意識もおのずと変わっていくだろう。筆者は、まさに今から日本の男女の家事・育児分担意識が大きく変わる変革期が始まるものとみている。
(※1)行動者率は、調査日の1日をとって、その日に家事・育児を行った人の割合である。従って、男性の約8割が1年を通じて平日に1日も家事・育児をしていないという意味ではなく、ある平日1日をとると、その日に家事・育児をしていない男性が約8割という意味である。
(※2)上野千鶴子「『202030』は何のためか?」(公益財団法人日本学術協力財団『学術の動向』2017年8月号、P.98-100)より引用。
(※3)中村かさね「『日本は無理、と言われた』女性役員3割を目指す30%クラブ創設者が、それでも自信をもつ2つの理由」 (2021年3月25日付ハフポスト)より引用。
(文・是枝俊悟)