360b/ShutterStock
データベース大手オラクル(Oracle)は、45年の歴史を持つ巨大企業であり、レガシータイプのデータベース製品では最も有名な企業だ。
だが、2022年8月と10月初旬、立て続けにレイオフを実施し、世界中で数千人規模の従業員が影響を受けた。最大の打撃を受けたのはマーケティング部門および顧客体験(CX)部門であり、クラウド部門であるオラクル・クラウド・インフラストラクチャー(OCI)は難を逃れたかに見えた。
しかし、オラクルは10億ドル(約1480億円、1ドル=148円換算)ものコスト削減を目指して支出を厳しく制限しており、Insiderの取材により、OCIもこれと無縁ではいられないことが明らかになった。
優良顧客獲得で全社収益5%UPのクラウド部門
OCIを率いるエグゼクティブ・バイスプレジデントのクレイ・マゴーイルク。
Oracle
OCIはこれまで順風満帆に成長してきた。OCI内外の社員がInsiderに語ったところによると、同部門は自らをオラクルの他部門とはほぼ切り離された存在とみなしているという。OCIは、この巨大IT企業の中で今なお「イノベーション」が起きている場所であり、それゆえオラクル社内でも花形部署とみなされている。
言うまでもなく、同部門はアマゾンのAWS、マイクロソフトのAzure、グーグルのGoogle Cloudといった強豪との厳しい競争にさらされている。クラウドでの優位を狙うものの、市場シェアは2%に過ぎず、まだまだ小さな存在だ。シナジー・リサーチによれば、最大の競合相手AWSのシェアは約33%だ。
しかし、同部門を率いるクレイ・マゴーイルク(Clay Magouyrk)は、大きな賭けに打って出ている。質素倹約の社風で知られるオラクルが、OCIには常に多額の資金を費やし、AWSなどの企業から人材を引き抜いて採用するために高額な給与と有利な報酬体系を用意してきた。
その甲斐あってか、2020年には通信会社のズーム(Zoom)、2022年6月にはバイトダンス(ByteDance)のTikTokなど、過去2年間で非常に有力な顧客を獲得している。特に顧客にTikTokが加わったことにより、OCIの事業売上はオラクルの収益を直近会計年度で5%押し上げた。
アメリカ国内の代わりに東欧で採用
しかしこのところ、OCIの求人・採用担当者は、サンフランシスコ・ベイエリア、シアトル、ニューヨークなどの最上位人材市場からの採用をストップし、より安い給与で採用できる人材に絞るよう指示されているという。
さらにOCI採用関係者によると、欠員のある職種によっては、1人分のコストで複数の新入社員を確保できる東欧など、海外にも採用先をシフトさせているとのことだ。
本件についてオラクルからのコメントは得られなかったが、匿名を条件に取材に応じたOCIの求人・採用担当者は、「クラウド人材は給与水準があまりにも高いんです。だから、給与や生活費の水準がもっと低く抑えられる地域に目を向けています」と語った。
Insiderの既報のとおり、オラクルでは採用抑制が相次いだことで、従業員らは大量レイオフが再び迫っていると懸念していたが、その間にOCIにおける地域ベースの採用抑制はすでに始まっていた。2021年、各クラウド企業は人材獲得に向けて有利な報酬体系を競い合い、速いペースで採用活動を行ったが、その後、特にOCIでは採用が抑制されるようになった、と社員は明かす。
OCIが採用活動を差し控え、オラクルの複数部門にまたがって空席や人員減が生じる事態となったことで、オラクルの重要顧客に向けたサポート能力は低下する可能性がある。
さらに、人件費への支出を渋るオラクルの体質はかねてより同社にとってマイナスに働いている。特に同社のマーケティングクラウド部門は、競合であるセールスフォースの後塵を拝し続けている。
金融サービス企業ウィリアム・ブレアの最近のレポートによると、クラウド事業全体で見るとオラクルは堅調に収益を伸ばしているものの、OCIおよび新たに買収したヘルスケア企業サーナー(Cerner)への多額投資が、今後1年にわたって利益の足かせとなる可能性がある。
ただし、フューチュラム・リサーチのアナリスト、スティーブン・ディケンズは、最重要部門の人件費カットはオラクルに限った問題ではなく、広義のマクロ経済情勢に問題があると考えている。
最大の競合AWSもまた採用に問題を抱えていることを考えると、むしろオラクルはこの機に乗じてクラウド市場での地位をさらに確固たるものにできるかもしれない。ディケンズは次のように語る。
「直近の収益は経済に吹く強い逆風の影響を受けているものの、OCIはわずか数年で飛躍的に地位を高めましたから、業界では信頼できる注目プレイヤーとして認知されていると思いますよ」
(編集・野田翔)