「為替介入は円安を止められないのでは?」誰もが抱く疑問の答え。結局、貿易赤字を減らさないと…

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10月21日、都内のモニターに映し出されたドル/円相場。この後、151円90銭台まで下落して安値を更新、直後に大幅な円高に転じた。政府・日本銀行が為替介入した可能性が報じられた。

REUTERS/Issei Kato

10月21日、ドル/円相場は日本時間の深夜に151円90銭台と32年ぶりの安値を更新した直後、一気に144円台まで円高が進んだ。

政府・日本銀行が為替介入を実施した可能性があると報じられ、入手可能な統計を元に推測すると、5兆円規模の円買い・ドル売りが行われたものとみられる。

10月に入ってからは、20日までの12営業日で6円、つまり1日50銭のペースで円安が進み、それが「過度な為替変動」と判断された模様だ。

他に、150円という象徴的な水準に到達したこと、その水準での定着を避けたかったことなども勘案された可能性がある。

週明けの24日にも149円台後半から145円台まで急激に円高が進む場面があり、こちらも為替介入の可能性が報じられているが、結果としては、円安基調が反転に向かう値動きにはなっていない。

いずれにせよ、分かりもしない通貨当局の思惑を想像してみたところで、何か得られるものがあるわけでもない。

いま目を逸らさず認識しておくべきことは、5兆円規模という巨額の為替介入にもかかわらず、その効果は(値幅だけで言えば)数時間ほどで消滅してしまったという事実だ

介入の実施前に比べていくらか安くドルを調達できた輸入企業にとってはメリットがあっただろうから、何もかも無意味だったとまでは言えない。

それでも、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に抗って為替介入しても、持続的な効果は期待できないということをあらためて思い知らされた一連の出来事だった。

円売りの核心は「貿易赤字」

円売りを支えるファンダメンタルズの最たるものが、膨れ上がる貿易赤字だ【図表1】。

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【図表1】日本の貿易収支(金額、3カ月移動平均)。

出所:Bloomberg資料より筆者作成

すでにいくつもの指摘がある通り、足元の円売りに(急ピッチの利上げを進める欧米諸国と異次元緩和の一環としてゼロ金利政策を維持する日本との)内外金利差が影響していることはある程度間違いない。

だからと言って、「円を売りたい人のほうが多い」という根本的な事実から目を背けてはならない

日本の財務省が10月20日に発表した9月の貿易収支は2兆940億円の赤字で、赤字幅は2カ月連続で2兆円の大台を超えた。史上初めてのことだ。

2022年度上期(4~9月)の貿易赤字は11兆75億円となり、現行の統計で比較可能な1979年度以降の半期では最大の赤字幅となった(従来の最大赤字幅は2013年度下期の8.8兆円)。

輸入額で見ると前年度同期比44.5%増、伸び率のおよそ半分(23.5%増)は石油・天然ガスなど鉱物性燃料の輸入が増えた結果だ。なお、鉱物性燃料は輸入総額の3割程度(29.2%)を占める。

さらに細かく見てみると、鉱物性燃料における最大項目である原油及び粗油は、輸入「量」で見ると前年度同期比10.4%増にとどまっているが、輸入「額」は同111.8%増で、変化率に10倍近いかい離がある。

このことから、輸入量が大幅増加したわけではなく、輸入価格が一時的に高騰したために、貿易赤字が膨らんだことが分かる。

10月24日、財務省で為替政策を統括する神田財務官が「貿易収支の悪化を是正するためにエネルギーの多様化」が必要とコメントしたことを主要メディアが報じたが、まさにそれが問題の核心であって、そこに切り込んでいかない限り、円売りの圧力を根本的に刈り取ることはできないだろう。

ただ、商品市況は6月以降ピークアウト感が強まっており、その影響は時間差を伴って鉱物性燃料の国際価格ひいては日本の輸入価格に反映されてくるはずだ。

そう考えると、過去最大の貿易赤字とセットで実需による円売りが懸念され、騒ぎ立てられるのも、いまがピークなのかもしれない。

もっとも、感染対策の名目で躊躇(ちゅうちょ)なく行動制限が実施されていた過去とは異なり、日本はすでにインバウンド(訪日外国人観光客)の解禁に踏み切った。

それを受けた内需の復調がもたらす輸入額の増加と、商品価格のピークアウトによる輸入額の減少が、今後綱引き状態で進んでいく展開が想定される。

したがって、貿易赤字が縮小の一途をたどる保証はどこにもない。

迫力のある円高はもう期待できそうにない

下の【図表2】は、貿易収支とドル/円相場の関係について、貿易収支の6カ月移動平均を2年先行させて示したものだ。

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【図表2】貿易収支とドル/円相場の推移。貿易収支は2年先行させて表示、6カ月移動平均を使用した。

出所:Macrobond資料より筆者作成

繰り返しになるが、2022年の円安・ドル高に内外金利差の拡大が寄与していることはある程度間違いない。

しかし、根底にあるのは、需給環境の決定的な変化だ。

過去の寄稿でも指摘したことだが、日本は2012~13年頃を境に貿易黒字を稼げなくなり、それがドル/円相場の下値固め(=下値の前後で大きな変動なく相場が推移する状態)に寄与してきた

要するに、大幅な円高・ドル安はそれ以来起きていない。

イギリスが欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票を実施した2016年6月、ごく一時的に99円まで円高が進んだ時を除けば、為替市場はパニック的な円買いを経験していないのだ。

上の【図表2】から得られる直感的なイメージとして、現在の円安の揺り戻しとしての円高局面がこれからやって来るにせよ、それがいまの急激な円安ほどのインパクトを持つ値動きになるかと言うと、筆者は相当疑わしいと考える立場だ。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

(文・唐鎌大輔


唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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