Brandon Wade/Reuters
グーグルの親会社アルファベット(Alphabet)とスナップ(Snap)は先ごろ、2022年第3四半期決算を発表した。広告支出の減速により業績は振るわず、景気後退が現実味を増すなか広告市場がさらに厳しくなっていることを反映したかたちだ。
広告業界は今、最悪の経済シナリオが現実化した際にどう対処すればいいのか、窮余の策をひねり出すことに必死になっている。Insiderの取材に応じたあるアドテク企業の幹部は、「デジタル広告市場が悪化したのはおそらく9月でしょう」と言い、9月は特に急激な落ち込みがあったと指摘する。「特にひどかったのがスナップでした」
影響を受けているのはデジタル広告だけではない。広告業界全体が近い将来の予算削減を覚悟している。
別の関係者も次のように証言する。
「アップフロント(先行販売)市場は大丈夫、スキャッター(売れ残り)市場も大丈夫、デジタル広告は崩壊しない、そんなふりをするのはもうやめたほうがいい。あらゆる流れが集まって最悪の事態が起こりつつあります。その前提で計画を立て始めないとマズい」
企業の75%が広告予算の精査を厳格化
総額にして年間440億ドル(約6兆4200億円、1ドル=146円換算)以上を広告に投じている多国籍企業43社を対象に、世界広告主連盟(World Federation of Advertisers)とイービクイティ(Ebiquity)が共同で実施した最近の調査では、「2023年は予算を厳しく精査するつもりだ」という項目に「そう思う」あるいは「非常にそう思う」と答えた企業は4分の3にのぼった。また、調査対象企業の29%は、2023年のマーケティング・広告支出の削減を計画していると回答している。
広告企業の幹部らによると、どれだけのマーケターが本当に広告支出を削減するのかということも含め、広告業界がそういった影響をもろに受けるのは2022年第4四半期から20223年第1四半期以降になりそうだという。
広告業界大手のIPG、オムニコム(Omnicom)、WPP、ピュブリシス・グループ(Publicis Groupe)は、2022年の通期見通しを上方修正した。とはいえ、これらの企業の多くは投資家に対し、2023年に向けて作成している緊急時対応策についても説明している。
IPGのフィリップ・クラコフスキーCEOは第3四半期決算報告において、クライアントの多くが景気後退時にマーケティング予算をどこに移すかを検討していると語った。デジタル施策を止めるクライアントも出てきているが、こうしたコスト削減がどの程度の規模になるかは第3四半期末から第4四半期になるまで見通せないとした。
オムニコムは全世界のオフィススペースの削減を計画しており、一部の業務は国外移転や自動化を検討しているという。
若手マーケターの士気も低下
マイクロソフトやP&Gなど一部企業はすでに2022年夏の時点でマーケティング予算を削減しているが、それ以外の企業はまだそこまで踏み込んでいない。
ゼネラル・エレクトリック(GE)のリンダ・ボフ最高マーケティング責任者(CMO)に取材したところ、同社はまだ削減に踏み切っていないものの、例年参加している大規模な広告イベントの数を5つから2、3に減らす可能性が高いとのことだった。
またエクスペディア(Expedia)のピーター・マクスウェル・カーンCEOは8月に発表した第2四半期決算報告において、コスト削減は計画していないが、支出した資金から得られる価値を高めたいと語った。
先行きの不透明さから、広告代理店は今後の不景気への備えを進めている。ブランド企業の新規事業の数が減少していることは多くの内部関係者が指摘しており、代理店は人材採用に慎重になっている。
「大退職時代(Great Resignation)」のさなかだった2021年にはかつてないほど多忙を極めていた広告業界のあるリクルーターは、多くの広告代理店が採用活動をストップしており、新たな求人はほとんどなくなってしまったと語る。
こうした経費削減や先行き不透明感により、広告代理店の若手社員の一部では士気の低下も見られる。
ボストン・コンサルティング・グループのアドバイザーで元ペプシコ・ビバレッジ・グループ社長のブラッド・ジェイクマンは、あるカンファレンスでInsiderの取材に応じ、マーケターにとって目下最大の問題は、若手社員の多くがこれまでに景気後退を経験したことがない点だと語った。
代理店はクライアントを逃すまいと、サービスの長期的な価値を示すことに躍起だ。
「マーケティング費用は裁量的なものなので、重要な投資ではないと思われないようにしなければいけません。世界中のあらゆるデータを見れば、景気後退期であってもマーケティングへの投資は重要だと見なす企業は競争優位に立てると、信じられると思うんですけれどね」(ジェイクマン)
[原文:As Alphabet and Snap report sharp ad spending slowdowns, the ad industry is bracing for the worst]
(編集・常盤亜由子)