マッチングアプリ「Pairs(ペアーズ)」を運営するエウレカは2022年9月30日、「Pairs少子化・未婚化白書」第2弾を発表し、オンラインセミナーを開催した。
同社が「少子化、未婚化問題」に尽力する背景にはどのような思いがあるのだろうか。セミナーのレポートに加え、エウレカの「少子化・未婚化の改善について考えるアドバイザリーボード」として活動する石山アンジュ氏と、エウレカ 代表取締役CEOの石橋準也氏のインタビューをお届けする。
約3人に1人が「特に交際を望んでいない」時代
交際相手を持たない未婚者、交際相手を欲しくない未婚者が徐々に増えている
出典:国立社会保障・人口問題研究所「第 16 回出生動向基本調査 結果の概要」(2022)をもとに株式会社エウレカ作成 ○調査対象:18~34歳の未婚者 ○設問:「あなたには、交際している異性がいますか。」において交際している異性がいない場合、 「異性との交際の希望」(1.交際を望んでいる、2.とくに異性との交際を望んでいない)。
政府統計によると、2021年の婚姻件数は約50万組で前年同期比4.6%減少、出生数は約81万人で、前年同期比で3.5%減少と過去最少を更新した。2022年9月に国立社会保障・人口問題研究所が発表した「第16回出生動向基本調査結婚と出産に関する全国調査)」では、未婚者のうち、交際相手を持たない人の割合は6〜7割前後と年々増加。
そのうちそもそも交際を望んでいない人の割合も増えており、男性33.5%、女性は34.1%。すなわち約3人に1人が「特に交際を望んでいない」と回答している。
なぜ交際しない人が増えているのか。自社調査や専門家の意見などさまざまな調査研究をもとに、エウレカは大きく4つの要因があると分析している。
1つ目は、交際経験の低下により「どうしたらいいか分からない」という負のループに入っていること。経験が少ないために具体的な活動の仕方が分からないという状況があるという。
2つ目は、強まるリスク回避傾向。日々顔を合わせる身近な相手とうまくいかなくなったときの気まずさや、拒否されることへの心理的な抵抗感といったリスクを避ける傾向が高まっている。
3つ目は、価値観の多様化と型にはまりたくないという意識。「自分らしくいたい」と自己を尊重する意識が高まってきている。
4つ目は、1人でいるという選択肢がある社会環境。具体的には、結婚に対する社会的プレッシャーの低下、SNS等の普及による寂しさの希薄化、恋愛で得られる高揚感を演出するサービスの増加、おひとりさま向け商品やサービスの普及といったものが挙げられている。
これらの要因を解消する方法として今、マッチングアプリへの注目が高まっている。
結婚したいが交際は⋯⋯マッチングアプリはその打開策となるか
交際を望まない人が増えている一方で、エウレカと日本総合研究所の共同調査データをもとにエウレカが分析した結果では、20〜30代の未婚者のうち約75%が「結婚したい」と回答している。
ところが、そのうちすでに「交際中」の約29%を除くと、交際に向けて活動している人は15%ほど。活動していない人が約56%と多くを占めている。その理由は「何かしらの制約がある」と「まだ先と考えている」が半々となっている。
結婚したい、しかし交際に向けて動き出せない。そんなジレンマの一つの解となりうるのが、マッチングアプリだ。
前出した第16回出生動向基本調査では、夫と妻が知り合ったきっかけとして「職場や仕事で」が減り、マッチングアプリを含む「インターネットで」の項目が初めて追加され、13.6%と急拡大した。こうした現状をふまえ、エウレカの石橋CEOは次のように語る。
「結婚も交際も個人の自由であるということは言うまでもありません。ただ、今ある課題が解決できたら交際に向けて活動しても良いと考える人がいるのなら、その支援のためにマッチングアプリにできることがあると考えています」(石橋氏)
コロナ禍で余裕を失い、繋がりたいのに、あえて断つ人も
オンラインセミナーは「恋愛・結婚意欲低下の背景にあるもの〜新たな出会いへ一歩踏み出すために」と題し、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授の治部れんげ氏がファシリテーターを務め、一般社団法人Public Meets Innovation代表の石山アンジュ氏、 一般社団法人 人口減少対策総合研究所理事長で作家・ジャーナリストの河合雅司氏と、石橋氏が登壇、トークセッションを行った。
テーマ1は「交際しない人が増えている〜恋愛離れがもたらす社会への影響」について。人口減少の専門家である河合氏は次のように語った。
「『令和4年版男女共同参画白書』が20代の男性の4割が交際経験なしとしたことが、メディアで大きく報じられましたが、デート経験がない20代前半の人はここ40年近く割合としてはあまり変わらない。
決して出会いやデートに対する意欲が減退していることはないんです。ただ、40年前は『結婚して一人前』といった社会規範が強く、親戚が縁談話を持ってくるなど、周囲の後押しがありました。
今は個人情報の問題や個人の価値観に対して他人が口出しするのはよろしくない社会に変わりました」(河合氏)
石山氏は、コロナ禍における人と人との繋がりに対する意識の変化に着目する。
「世の中が不安定な中で自分に余裕がないからこそ、繋がりたいのに、あえて繋がりを断つ、孤立することを選択する人が増えているように思います。
ただ、恋愛というのは繋がりの中でも特にありのままの存在を受け入れてくれるような幸福感や安心感をもたらしてくれるものでもあります。大変だからこそ、不安だからこそ、共感で繋がり恋愛をする人が増えていってほしいと思います」(石山氏)
テーマ2「現代の恋愛・結婚に対する意識〜今若者に何がおきているのか」では、河合氏から次のような指摘があった。
「一人で構わない、一人でいたいという人が多くなってきているのは、社会の仕組みが一人でいられるようになってきたことがかなり後押ししています。
コンビニエンスストアを中心に一人暮らしに対応できるサービスもどんどん出てきています。一人でいることを前提に社会が回り始めていて、人々の意識もそちらへ変化しているのです」(河合氏)
テーマ3は「デジタルネイティブ世代とマッチングアプリを含む恋活・婚活の未来」では、治部氏が中高年に向けた婚活の形を提案した。
「離別や死別を経て安らげる相手を探したいけれども、生活や仕事が確立している人が新しく相手を探すことが難しい。エウレカさんが今後サービスの拡張を考えているのなら、中高年層にも対応することは社会の幸せに資するのではないか」(治部氏)
マッチングアプリの話題に限らず、さまざまな角度から現代の恋愛観、結婚観が論じられ、課題と希望が明確になったトークセッションとなった。
「昭和の家族像」にしばられない家族の仕組み作りも必要
後日、登壇した石山氏にメールインタビューを行った。石山氏は、エウレカの「少子化・未婚化の改善について考えるアドバイザリーボード」としても活動しており、マッチングアプリを含む恋活・婚活の未来に希望を抱いている。
「コロナ以降、出会いの機会が激減した社会で、新たな出会いの形としてマッチングアプリの可能性を感じています。
これからは、恋愛だけでなく多様な繋がりをつくるツールとして広がってもらいたい。また、プロフィール上で自分の弱い部分や悩んでいることなどをオープンにし、それらを通して繋がることができるような設計も検討していただきたい」(石山氏)
また、血縁にしばられずにともに暮らす新しい家族の形「拡張家族」を実践している石山氏は、出会いや交際だけでなく、その後の家族のあり方にも着目する。
ライフスタイルやライフワークが多様化してきていると言われて久しいが、いまだ根強く残る「昭和の幸せな家族像、価値観」に縛られ苦しむ人も少なくないのが現実だ。もっと自分らしい自由な結婚、家族のかたちがあれば、「繋がりたい」と考える人も増えるのではないか。
「『普通の家族』というスタンダードがない状態をスタンダードにすることが、今、求められています。
100人いれば100通りの家族の形があって一人ひとりが自分にとって理想的な家族の形を実現できる社会の仕組み、そしてその選択が批判されたり、不利な扱いを受けたりすることがない状態を作ることが必要です。
わが国では伝統的に、個人よりも家や家族といった単位が重視されてきましたが、現代においても、例えば、生活保護や新型コロナウイルス対策の特別定額給付金など、各種定額給付金の申請・受給手続きは世帯単位としている場合が多い。
私たちが家族を考えるうえで重要な視点は、社会の要請や政府の定義ではなく、当人同士がどのように家族を捉え、どのような家族を作りたいと願うかです」(石山氏)
10年後の未来を見据え、課題解決をめざす「Pairs」
夫と妻が知り合ったきっかけの構成割合の推移
出典:国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査 結果の概要」(2022)「図表 5-3 調査別にみた、夫と妻が知り合ったきっかけの構成割合(調査時点より過去5年間に結婚した初婚どうしの夫婦)(第16回は過去6年間の結婚)」をもとに 株式会社エウレカ作成
「繋がりたい」「自分の家族がほしい」と考えている人の背中を押す手段となりうるマッチングアプリ。石橋氏は、
- オンラインで用意されたフローに沿って始められるためコミュニケーションのハードルを下げられる
- 日常では出会えないような人と出会うことができる
- 多様な価値観で自分にあう人を探せる
- 多様なモデルケースを示すことで、1人より2人の良さを伝えることができる
の4点をそのマッチングアプリの貢献領域としてあげた。
エウレカによる未婚化・少子化に関する活動や働きかけは、徐々に実を結び始めている。第16回出生動向基本調査で「夫と妻が知り合ったきっかけ」として「インターネットでの出会い」が13.6%にのぼったことは、その証左といえるだろう。石橋氏は今後も取り組みを続けると同時に、マッチングアプリを取り巻く環境の改善に対しても具体的にアクションを起こしていくと語る。
「より公的な立場として少子化・未婚化という社会問題を解決できる存在になっていくためには、安全性を含めて信頼される環境作りが不可欠であり、行政機関等との連携も必要になります。例えば、独身証明書のデジタル化などの仕組み作りは政府と連携しなければ実現できない。また、マッチングアプリの実態に即した法規制の整備も重要です。
しっかり環境整備をした上で、例えば政府の少子化対策検討の議論に加わる存在になれるくらいの存在意義を示していきたい。我々は、社会課題の解決とビジネスの発展は両輪となるものと考えています」(石橋氏)
目先のビジネスだけではなく、10年後の未来を考え、日本の社会課題をテクノロジーで変えていこうとしているエウレカ。未婚化・少子化問題の解決へ、一歩一歩着実に前進している。