アップルのティム・クックCEO(左)とメタのマーク・ザッカーバーグCEO。
Justin Sullivan/Getty Images (左)、David Ramos/Getty Images (右)
マーク・ザッカーバーグが数百億ドル(数兆円)の損失を覚悟で、ウォール街の怒りを買いながらもメタバースを構築しようとしているのは、単にそれがインターネットの未来だと信じているからではない。それがアップルの魔の手から逃れるためにも最善の方法だからだ。
アップルとメタの関係は何年も前から冷え切っており、ティム・クックは2014年の時点で、Facebookが広告のターゲティングにユーザー追跡(トラッキング)を利用しているのを批判していた。
2021年にはアップルがiOSをアップデートし、アプリによるトラッキングをオプトアウト(無効化)するようユーザーに促したことで、2社の関係は急激に悪化した。
これにより、広告に依存するSNSプラットフォームは大きな打撃を被ったが、とりわけFacebookの被害は甚大で、この変更によって100億ドル(約1兆4700億、1ドル=147円換算)を失ったという。
2022年10月26日、ザッカーバーグはメタの第3四半期決算発表をするアナリスト向け説明会の席で、何度もアップルについて言及した。予想を下回る決算内容だったことで株価は20%急落し、6年ぶりの低水準となった。2022年だけでなく2023年もメタバース事業への支出を増やすという同社の計画について、アナリストたちはその正当性を説明するよう繰り返しザッカーバーグに求め、説明会は一時紛糾したという。
「ビジネス面において、アップルの『App Tracking Transparency(ATT:アプリのトラッキングの透明性)』の大幅な変更や、昨日の(アップルの)発表でも分かるように、何らかのそういったポリシーを彼らが今後も継続していくつもりなのは確かです」
ザッカーバーグはそう言い、SNS投稿をプロモーションしたアプリから30%の手数料を要求するアップルの新しいポリシーに言及した(編注:アップルの新ガイドラインによると、アプリが「ブースト」やプロモーション投稿をSNS上で行う場合、アップルのアプリ内課金の仕組みを使ったとみなされ、売上の30%をアップルが徴収するという)。
「これは明らかに大きなリスクであり、問題をはらんでいます」
ザッカーバーグは、メタバースの構築に多額の投資をしているのは、アップルのような企業の脅威に対する「防衛強化」という意味合いだけではないと主張する。とはいえ、ザッカーバーグはメタバースに社運を賭けており、その一部を独自のOSを持つハードウェア事業にしようとしている。それがうまくいけば、メタは自らの行く末をもっと自由にコントロールできるようになる。
10月26日、ザッカーバーグは以下のように述べている。
「多くのものを自分たちでコントロールすることで、新しく革新的なものをつくれるようになるのです」
メタの未来を作る4つのプラットフォーム
ザッカーバーグが思い描いているメタバース・プロジェクトは、現在開発中の「4つの主要なプラットフォーム」を基盤としている。1つ目は「Horizon Worlds」で、ユーザー・アバターによって、より「ソーシャル・メタバース・プラットフォーム」に近いものになるという。
2番目のプラットフォームはVR(仮想現実)で、Questヘッドセットのような消費者向けのプロダクトに焦点を当てており、ザッカーバーグは「おそらく非常に大きなスケールに達するだろう」と述べている。
最後の2つの分野は、まだ「ほぼ社内機密」だというが、AR(拡張現実)と、ザッカーバーグが「ニューラル・インターフェース」と表現しているものだ。ニューラル・インターフェースとは例えば、コントローラーや手の動き、音声を使わずに操作できるようなデバイスのことだ。
「より多くの体験を可能にすることが一番の原動力になります。そして、外部のリスクに対する防衛を強化することで、長期的な戦略優位性を保てるのは間違いありません」(ザッカーバーグ)
アップルにしっぺ返しを食らわせたい
ザッカーバーグは、アップルの決定によって自社が打撃を被らないようにするだけでなく、アップルにもしっぺ返しを食らわせてやりたいと考えているようだ。アナリスト向け説明会の中で彼は、現在はPCで行っている作業を将来はQuest VRヘッドセットが代替できるようになるだろうと語っていた。理論的には、アップルのMacも主なターゲットとなるだろう。
「毎年2億人が、主に仕事のためにパソコンを新しくしているそうです。今後数年間のQuest Proシリーズの目標は、より多くの人が仮想現実および複合現実の中で仕事をこなせるようにすることであり、いずれはPCより効率的に作業できるようになるでしょう」(ザッカーバーグ)
一方、アップルもVR/ARプロジェクトやデバイスの開発に何千億円も投資していると言われている。だが、同社は「メタバース」という言葉を使うことを避けているようだ。アップルのマーケティング担当シニア・バイスプレジデントであるグレッグ・ジョスウィアック(Greg Joswiak)は、ウォールストリート・ジャーナルが10月25日に開催したカンファレンス「Tech Live」で「メタバースとは何か」と尋ねられ、「(メタバースは)私が決して使わない言葉だ」とだけ述べた。
現時点のメタのヘッドセットは、アップルのPCに代わるような性能ではない。長時間装着していると吐き気や不快感を覚えるとユーザーは不満を口にしている。問題山積なだけに、メタの社員もデモをしたり仕事に使ったりもしないという。同社の主力メタバース製品「Horizon Worlds」のアバターにはいまだに足もついておらず、リアルな動きもできない。
それでも、ザッカーバーグはこのプロジェクトをあきらめてはいない。
「多くの人がこの投資に否定的だということは承知しています。しかしひとつ言えるのは、この投資が将来、非常に重要なものになるということです。何十年か後に振り返ったとき、いま取り組んでいることの重要性を語ることになるでしょう」
[原文:Why is Mark Zuckerberg so obsessed with building the metaverse? It has a lot to do with Apple.]
(編集・大門小百合)