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AIを駆使した「Photoshop」の新機能に注目。「Adobe MAX 2022」の注目ポイントを深掘り解説

Adobe MAX

クリエイターの祭典「Adobe MAX」が3年ぶりにリアルでも開催された。

撮影:小林優多郎

“変化の兆し”を捉えて動き出している人や企業にスポットを当てるオンライン番組「BEYOND」。

第19回は、アメリカ・ロサンゼルスで開催されたAdobe(アドビ)のクリエイター向け年次イベント「Adobe MAX 2022」の注目ポイントを、Business Insider Japan記者の小林優多郎が現地からお届け。

10月20日(木)に放映した番組の抄録を、一部編集して掲載する。

アーカイブはYouTubeで視聴可能です。

撮影:Business Insider Japan

——「Adobe MAX 2022」は、どのようなイベントですか?

小林優多郎(以下、小林):Adobeが年に一度開催しているクリエイター向けのイベントです。

2022年はロサンゼルスにリアルの会場を設けつつ、キーノートやセッションなどはオンラインからも参加できるハイブリットの開催となりました。

出演者

「Adobe MAX 2022」の注目ポイントを、現地のロサンゼルスから届けるBusiness Insider Japan記者の小林優多郎。

画像:番組よりスクリーンショット

——何が発表がされたのでしょうか。

小林:クリエイター向け製品のアップデートや開発中の技術のプレビューが披露されました。

  • 速さ、使いやすさ&スーパーパワー
  • 協業的なクリエイティビティー
  • 3Dと没入型体験の制作

という3つのテーマが主軸でした。

——注目ポイントを教えてください。

小林:いくつかありますが、まずは「レビュー用に共有(ベータ版)」という機能です。

この機能は、「Illustrator」と「Photoshop」で作成中のデザインデータを非デザイナーに送り、アプリを使わずプレビューできる機能です。

共有

「Adobe MAX 2022」で公開された「レビュー用に共有(ベータ版)」の使用イメージ。

画像:番組よりスクリーンショット

データを受け取ったデザイナーではない人は、ウェブ上でデザインを確認してその場で直接コメントや指示を入力できます。

デザイナー側もその指示を「Illustrator」や「Photoshop」のアプリ上で確認できるため、修正をスムーズに行えます。

——遠隔でのデザインについての指示は、対面と比較して意図が伝わりづらい部分もあるので、この機能で緩和できますね。他にはどのような注目ポイントがありますか?

小林:現地のキーノートで盛り上がったのは「Illustrator」で前後関係が複雑なデザインがつくりやすくなる「クロスと重なり」機能でした。

——本来なら、複数のレイヤーを作成して文字の表に出ている部分、裏に回っている部分をそれぞれ分けて組み合わせる…といった複雑な操作が必要ですね。

小林:そうですね。他にも、VR機器を被り3Dモデルを直感的に制作する「Adobe Substance 3D Modeler」というツールにも注目です。

Modeler試用

「Adobe Substance 3D Modeler」を体験する小林。

画像:番組よりスクリーンショット

——何がポイントですか?

小林:開発を発表されたのは2021年でしたが、2022年では正式にリリースがされたことがポイントです。

ちなみに、現地で試用できたのですが、機材として「Meta Quest Pro」で操作できたことが思わぬ体験でした。

——現地へ行った方は、日本最速で「Meta Quest Pro」に触れている可能性がありますね。

小林:「Substance 3D Modeler」がメインの体験会場だったのため、「Meta Quest Pro」の詳細はレビューできませんが、被った時の重さを感じない感覚さや快適さには驚きました。

AIによる画像生成も可能になった「Photoshop」の進化

——「Photoshop」の進化点は何ですか?

小林:画像の切り抜きで使う「選択ツール」がとても賢くなったと思います。

選択したい被写体を選ぶだけで簡単に選択できます。

Photoshop 2023

「Photoshop」を使い、「選択ツール」を実演する様子。

画像:番組よりスクリーンショット

——かなり簡単ですね。オブジェクトの認識を「Photoshop」がしているのですね。

小林:はい。AIの機能で精度の高い選択ができるようになっています。

人を選択したときに手の一部が残るなど、まだ完璧とは言えませんが、ここまで選択できれば、修正も簡単なため、ツールとしては強化されていると思います。

——他に注目の進化点はありますか?

小林:背景をAIが生成する機能があります。「ニューラルフィルター」の項目から、任意のテキストを入れると、それに合った画像が自動でつくられます。

例えば「Under the sea」と入力すると、海中の画像が生成されます。

背景クリエーター

テキストを入力し、画像を生成する様子。

画像:番組よりスクリーンショット

——どのような仕組みですか?

小林:Adobeのサービス「Adobe Stock」の素材を学習データとして使っているようです。イラストに近いものも生成できます。

——画像検索で写真を探すような感覚で、画像が生成されるのですね。

小林:そうです。この機能はまだベータ版のため安定しているとは言えませんが、Adobe Creative Cloudの会員であれば試せる機能となっています。

AIを「相棒」とするAdobeの考え方

——画像生成AIは、2022年8月にオープンソースで公開された「Midjourney」を皮切りに、この2カ月で爆発的に広がりつつあると思います。マイクロソフトも10月になって、画像生成AIを搭載した「Microsoft Designer」を発表しました。各社が研究開発を進めてきた中で、昨今の「流れ」が来たために発表したようにも見えますね。

小林:AIについては現地でも歓声が上がったり、取材陣から質問も多く挙がるなど盛り上がっていました。おっしゃるとおり、流れは来ていると感じます。

——一方で、日本ではイラストレーターの絵を学習してAIが画像を生成するサービスで炎上しました。Adobeはクリエイターを支援する側でありながら画像生成AIを発表したことについて、現地ではどのように話されていましたか?

小林:Adobe側が、AIについての考えを明確に示していました。

  • AIは「人間の創造性を高めるもの」であり、取って代わるものはない
  • ジェネレーティブテクノロジーには、今後も開発や投資を続けていく。クリエイティブワークフローの中で動かしていく
  • ジェネレーティブテクノロジーの業界標準をつくっていく。「倫理とデジタル証明」に関する標準を開発する

です。

Adobeの主張

キーノートで発表されたAIに関するAdobeの見解。

画像:番組よりスクリーンショット

特に注目すべきは一文目で、AIは人間のクリエイティビティを強化すべきものであり、人間の置き換えではないという見解を、Adobeは持っています。

——人間の仕事を奪う存在ではないということですね。

小林:そうですね。分かりやすい言葉で「コパイロット(CoPilot)」とも述べていました。副操縦士、相棒のような存在ですね。

——なるほど。画像生成AIは何をベースに学習するかもポイントだと思いますが、Adobeはその点も、自社が管理している素材(Adobe Stock)で学習したと言えるわけですね。

小林:そうですね。他に述べていたのは、Adobeはもともとニューラルフィルターで写真を雪や廃墟のように加工する機能がありましたが、これもAdobeのAI技術がベースになっています。

Adobeは事前にクリエイターがどのようにツールを使っているかを把握しており、アセットを持っていました。

このような積み重ねが今回の画像生成AIの公開につながっているとのことです。

——生成系AIの最大の問題は、不適切な画像をつくられることを、どのように防止するかだと思います。

小林:そうですね。基準が難しいですが、Adobeも生成された画像が何を元にできた画像か、分かるようにする仕組みづくりに取り組もうとしています。

最後の文に「Pioneer industry standards」とあるように、AIについて企画をつくり、私達は先駆者だという意気込みを感じましたね。

——これは挑戦だと思います。「責任あるAI」という言葉が既にあるとおり、今後、同じようなサービスを出す各企業がどのように取り組むのかは注目ですし、議論も多くされていくと考えます。最後に「Adobe Max 2022」を通して他に注目ポイントはありますか?

小林:「Sneaks」についてと、リリース済みですが、モバイルデザインアプリ「Adobe Express」が次に盛り上がるジャンルではないかと、現地の雰囲気から感じました。これもAIが欠かせないんですよね。

——クリエイティブを誰でも使えるようにすることがAdobeの大きなテーマですよね。

小林:はい。「Photoshop」「Illustrator」「InDesign」が三種の神器で業界の標準ツールというイメージもあります。

業界人ではない特に若い世代がYouTubeやSNSに動画を投稿するときに、こういったツールを学んでプロのように使うことは、必ずしも行わないと思います。

そこで、こういった層へ向けてAdobeは「Adobe Express」を通してアプローチをしていくのではないかと考えています。

(聞き手・伊藤有小林優多郎、構成・紅野一鶴


Ubie Beyond

2022年11月2日(水)19時からは、AI問診ベンチャーUbie(ユビー)の共同代表取締役 医師 阿部吉倫さんをゲストに迎え「累計100億調達のAI問診ベンチャー・ユビーが目指す医療の未来」をお送りします。

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毎週水曜日19時から配信予定。ビジネス、テクノロジー、SDGs、働き方……それぞれのテーマで、既成概念にとらわれず新しい未来を作ろうとチャレンジする人にBusiness Insider Japanの記者/編集者がインタビュー。記者との対話を通して、チャレンジの原点、現在の取り組みやつくりたい未来を深堀りします。

アーカイブはYouTubeチャンネルのプレイリストで公開します。

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